判例:CASE NO.4(10)/4-378/14 

<概要>

V氏はM社の運営する透析センターで看護師として1999年4月1日より働いていた。M社はV氏の勤務状況に対し、不満を抱いていたため、2002年3月5日に理由提示命令書を発行。V氏は、理由提示命令書に対し、受け取った4日後にM社へ書面にて返答した。V氏の返答から6日後、M社は「V氏の説明を受け入れることはできない」との旨を記載したレターを発行するが、V氏に対して何らかの行動をとることはしなかった。

2002年3月25日、M社は書面にてV氏の問題行動に対して2日後の同年3月27日に内部調査会を行うとの旨を告知する。内部調査会にて、V氏の問題行動は全てV氏に責任があると認められることを踏まえ、M社は2002年5月3日にV氏に対して即日解雇通達を発行。M氏はこのことに対し、即日解雇は不当解雇に該当するとしてM社を訴えた。

 

<従業員側の主張>

解雇前にM社から出されたレターは適切な書面での警告文書ではなく、解雇通知にも具体的な解雇理由は明示されていなかった。M社より解雇通知を受け取った後、明確な解雇理由を聞くため、M社の最高経営責任者(CEO)を尋ねたが、会うことができなかった。このことは解雇となった理由を知る権利をM社によって奪われたことに該当する。

また、解雇日の当日は医療休暇を取得していたため、仕事を行うことはできなかった。

上記のことから、M社による解雇は合理的な理由のない解雇であり、元の役職での復職および解雇日からの給与の支払いをM社に請求する。

 

<会社側の主張>

V氏は2001年2月26日にKajangへ移動させられてから現在まで、社内ルールや規定、上司によって与えられた指示に従わなかったこと、他の同僚と協力しチームとして働くことや日々の業務の支援ができていないと判断する。また、2002年3月4日、上司であるS氏の指示に従わないことにより、S氏と口論になっていた。さらに同日4~5回、血液透析の挿管に失敗していたにもかかわらず同僚からのアシストや主任患者からの許可を得ずに患者を帰宅させるなど適切な処置を施さなかった。

上記3つの問題行動に対し理由提示命令書を発行したが、V氏からの返答は受け入れられるものではなかったため、内部調査会を開き、全ての問題行動はV氏に責任があると定めた。V氏に対し警告書は発行していないが、内部調査会を開催する前に発効した理由提示命令書は警告書に等しい書面であり、命令書にも記載されている3つの問題行動がV氏に解雇を言い渡すきっかけとなっている。V氏は解雇に対し具体的な解雇理由が明示されていなかったと主張しているが、内部調査会での判断を通知しているため、これらのことが解雇に繋がるということは知っていたはずであると判断するし不当解雇ではない。

 

<判決>

本件、M社による不当解雇とみなす。

V氏とM社との関係性、またV氏はすでに他の会社で勤務していることから復職は適していないと判断し、M社に対してV氏への賠償金支払いを命じる。賠償金の内訳は下記のとおりである。

 

①     2002年5月3日の解雇日から2016年2月24日の最終陳述日までにおける賃金。

最後に支払われた月給RM1,900をもとに、期間が長いため24か月分を対象期間とする。また、退職後に他の会社に勤めていることを考慮し、10%分を減算する。

RM1,900 × 24か月 - 10% = RM41,040

 

②     復職の代わりに、1999年4月1日の雇用日から2002年5月3日の解雇日までの給与。

勤続年数1年につき、1か月分の月給を支払うものとする。

              RM1,900 × 3年 = RM5,700

 

③     合計額:RM41,040 + RM5,700 = RM46,740

 

上記合計金額から弁護士費用等を差し引いた額を30日以内にV氏の代理人となっている弁護士事務所に支払うこと。

 

<裁判所の見解>

M社は内部調査会の結果をもってV氏への責任を追及しているが、V氏に事前通知をする段階で「内部調査会である」と明示していなかったこと、現CEOがV氏の上司であった経験もあり、内部調査会中に個人的な発言を多くしていたことから公平性に欠けると判断。また、V氏に内部調査会であると明示していない以上、V氏は会議として参加しており、これは調査会への準備機会をV氏に与えていないということになる。なにより、議長であるCEOが公平性に欠けている以上、主観的な意見で調査報告書を作成した可能性があると判断する。

上記のことから、M社より指摘された3つの問題行動に対し裁判所が再度調査した結果、該当患者の氏名、問題発生時の場所や時間が明記されていないこと、M社側の証人となる医師や目撃者を証人として召喚(裁判所に出頭を命じること)していないこと、どの規則に違反しているのか明記されていないことなど、3つの問題行動全てにおいて具体性に欠けており、証拠不十分であった。

2002年3月5日に発行された理由提示所においても具体的な説明はなされておらず、問題行動全てがV氏の責任によるものであると判断することはできない。

上記を踏まえ、本件はM社による不当解雇であるとする。

 

<判決のポイント>

本件は内部調査会が効力を持つか否かが重要な争点となりました。内部調査会の当事者であるV氏に事前に内部調査会であるという旨を告知しているか、また何に対する内部調査会であるのかを告知しているか等、会社側の告知義務の有無を問う形となっています。

本件の場合、M社側はこれらの告知義務を怠り、V氏に十分な準備期間を与えなかったことから内部調査会は効力を有するものではないと判断されました。また、議長であるCEOが公平性に欠けているという点も本件における内部調査会が効力を有するものではないと判断されたきっかけとなっています。

当事者の問題行動を原因として解雇させる場合は、具体的な日時、場所、内容が詳細に記述されている必要があります。詳細のない場合は、事実の有無を確認することができなくなってしまうため、合理的な理由のない解雇であると判断され、不当解雇と判断される可能性が高くなります。

また、警告書を発行しなかったという点も今回の判決において大きな影響を与えていると考えられます。個人の責任を追及して解雇する場合、通常は理由提示命令書の発行と警告書の発行が必要項目とされています。理由提示所に対する当事者からの返答内容が不十分である場合、解雇理由を明示した警告書を発行することで解雇通知を行うというのが基本的な流れとなっております。

 

谷口 翔悟

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