判例 CASE NO. 19/4-1056/12

投資環境・経済

<概要>

T氏は1999年7月29日にSupervisorとして製糸業を営むU社に雇用される。2010年11月18日シンガポールより職業訓練でU社に来ていたA氏はT氏が勤務中に居眠りをしていたということを報告し、U社はこのことに対しT氏に停職を通知する書面を発行する。T氏は停職通知に対し2010年11月26日、U社のHRマネージャーに文書の内容を否定する旨を返信する。U社はT氏からの返信にもかかわらずA氏によって告発された内容をもとに内部公聴会を開催する。内部公聴会では委員会よりU社の経営陣にT氏に対し何らかの処分を下す提案については確認できなかったが、U社のExecutive DirectorであるJ氏自らがT氏を解雇することを提案し、2010年12月9日に就業中に居眠りをしていたことが会社の行動規範に対するする重大な違反行為だとしてT氏に解雇通知を発行、即日解雇とする。T氏はこのことに対し、解雇は不当であるとしてU社を訴える。なお、T氏の解雇前の月給はRM3839.72である。

 

<従業員側の主張>

2010年11月18日に勤務中に居眠りしていたとの報告があったが、実際には眠っていない。当時は体調が悪く薬を服用しており、服用後眠気は感じていた。医療休暇を取得することもできたが、当日の勤務シフトである2010年11月18日16時30分から23時ごろまでの勤務時間帯は他のSupervisorがいなかったため、取得せずに出勤することを決定した。

また、T氏のこれらの発言はU社のスタッフであるA氏により指示されている。A氏はT氏より気分が悪いため薬を服用していることを告げられ、その際に休暇を取ることを勧める。しかし、T氏は休むことよりも仕事をすることを選ぶことをA氏に告げた。またA氏は、T氏は監督者として優秀であり、告発のあった日やそれよりも前に眠っているのは見たことがないと主張した。

 

<会社側の主張>

J氏によれば、2010年11月18日にT氏が勤務中に居眠りをしていたという報告を受けたことから内部公聴会を開催したとのこと。内部公聴会ではT氏への処遇に対してU社の取締役に具体的な提案を行ってはいないが、J氏は会社行動規範2.25条より、勤務中の睡眠は重大な違反行為にあたるため、T氏の勤務中での睡眠は解雇にあたると主張した。

公聴会からの報告書によると、2011年11月18日のT氏勤務時間中は一切の事故や怪我、生産性の低下は見受けられず、生産性が通常の日よりも高いことを証明している。J氏はこの事実について認めている。またJ氏は重大な違反行為に対する処分方法は解雇の他に昇給の停止、降格処分、停職処分など、解雇が唯一の罰則ではないと説明するが、他の処分方法ではなく、解雇処分を選んだ理由について説明することはなかった。

また、U社側は睡眠の定義について「1秒でも目を閉じることは睡眠に該当する」と公聴会内で説明している。

 

<判決>

従業員側および会社側の主張より、当解雇は合理的な理由のない解雇であり、U社のT氏に対する解雇は不当解雇である。

T氏をもとの職位で復職させることは会社との関係性を考慮した際に適切ではないため、復職させる代わりにU社に賠償金の支払いを命じる。T氏に支払う額は解雇日から判決日までの期間の払賃金及び賠償金の合計額を支払うものとする。

支払額の算定方法は下記に従う。

 

①       未払賃金

T氏の最終給与である月RM3,839.72をもとに24か月を超えてはならない。

24か月 × RM3,839.72 = RM92,153.28

 

②       U社のように重機を扱う会社は集中力を必要とする業務が中心となることから勤務中の睡眠は不正行為である。よって未払賃金より50%の減額を行う。

RM92,153.28 ÷ 50% = RM46,076.64

 

③       賠償金

1年を1カ月として換算し、雇用日から解雇日までの期間を賠償金とする。T氏がU社に雇用されたのは1999年7月29日であり、解雇日は2010年12月9日である。勤務期間は11年4カ月であるが、4カ月分に関しては1年に満たないため換算しない。

11カ月 × RM3,839.72 = RM42,236.92

 

④       ②と③の合計額を支払額とする。

RM46,076.64 + RM42,236.92 = RM88,313.56

 

上記の支払額から弁護士費用等を差し引いた額を30日以内にT氏の弁護人を通じて支払うものとする。

 

<裁判所の見解>

雇用法(1955年)においてサービス契約の当事者は契約の条件を相手方が故意に違反した場合には通知なしで契約の終了を行うことができるとしている。また、雇用主は勤務の明示的または黙示的条件の履行と矛盾する不正行為を理由に従業員を解雇する場合、予告なしの解雇、降格処分またはその他、雇用主が適切だと考える罰則を与えることができ、罰金を科さない罰則の場合、2週間を超えてはならないとしている。解雇というものは重大な罰則に対して行われる最終手段であり、他の手段を取ることが適切でない場合にのみ適用されるべきである。U社が製糸業を営んでおり、重機を取り扱う業務がある以上、勤務中の睡眠は重大な違反行為であるが、解雇にするためには合理的な理由と公平性をもって判断する必要がある。公聴会で作成された報告書においてU社は睡眠の定義を「1秒でも目を閉じている状態」とした。このような恣意的な定義は従業員と会社の公平性を欠くものである。また公聴会ではT氏の処分に対して具体的な提案がなされなかったのにも関わらず、J氏は自身の一方的な判断でT氏を解雇するよう提案した。さらに体調不良にも関わらず勤務を継続したT氏の行動は模範的な行為であり評価すべき点である。よってT氏に対する解雇の正当性はなく不当解雇とする。

 

<判決のポイント>

本件は、①会社と従業員の間に公平性は存在するか、②「就業時間中の睡眠」という違反行為に対する処罰は解雇が適当か、の2点が判決の判断材料になったように思えます。

労働裁判において解雇を扱う際は、解雇は従業員に与えられる罰則の中でも最も重大な罰則として扱われます。そのため裁判では、解雇する理由が適当であるか(合理的理由の有無)および従業員と会社との間に公平性があるかというのが重要な観点となってきます。

今回の場合は、睡眠という行為は重大な違反ではあるが解雇するほどの違反ではないと判断され、また会社の提唱した睡眠の定義が会社と従業員との公平性を保つものではないと判断されました。

こうしたトラブルを避けるためにも就業規則や雇用契約書にはあらかじめ附則を設け、このような違反が起きた場合にはこのような対処を行うということや、文書内にあらかじめ用語の定義を設けておくことが重要となってきます。

 

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