判例 CASE NO: 9/4-1290/13

労務

<概要>

O氏はN社より2010年4月3日に採用通知を受け、同年7月1日にPenang BazaarのSupervisorとして正式採用される。2013年4月11日、O氏はN社より同年4月10日にManaging DirectorであるN氏の許可なしにタイピンにある高等裁判所へと出廷した理由について説明するよう書面で求められる。2013年4月15日、O氏は書面にて高等裁判所へと出廷した理由として被告人の弁護士より証人として召喚されたためであるとし、事前にN氏の許可を必要とすることは知らなかったと説明する。

その後、内部監査委員会やそれに準ずる委員会は開催されなかったが、2013年4月23日、O氏はN社より同年5月31日をもって解雇するとの旨が記載された書面を受け取る。O氏はこのことに対しN社の行った解雇は正当な理由によるものではなく不当解雇であるとしてN社を訴える。

なお、O氏の最終月収は月RM1,200である。

 

<従業員側の主張>

2013年4月10日に弁護士により召喚され、裁判へと出廷したことは決して間違った行為ではない。また、O氏の勤務時間はフレックスタイム制であるため裁判への出廷が職務に影響しているわけでもない。2013年4月15日の書面にある通り、事前にSupervisorの許可を必要とすることは知らなかった。これらのことから、許可なく裁判に出廷したことで解雇となるのは不合理である。O氏は現在、71歳で既に定年退職年齢を迎えていることから復職することは困難である。そのため判決が出るまでの期間の賃金と復職に代わる賠償金の支払いをN社に求める。

 

<会社側の主張>

O氏はN社に雇用されてから3年未満の勤務期間である。その間、Managing DirectorであるN氏の指示に従わなかったり、会社の方針を拒否したりするような行為が見受けられる。また、会社の備品であるテープレコーダー、MP3、スピーカーの返却も拒否している。N社は全従業員が勤務時間中に職場を離れる際は事前に許可を得ることを期待しているが、2013年4月10日にO氏が勤務時間中に裁判へと出廷する際は事前に許可を得ることはなかった。また、職場を離れることの事前許可については、就業規則や雇用契約書に明記はされていない。このことについて説明を求めた際、O氏は裁判に出廷するために会社を休むことに事前の許可は必要なく、また裁判出廷理由についてN社より説明を求められたと裁判所に告発するという反抗的、脅迫的かつ侮辱的な書面をN社に提出している。

これらのことより、N社が行った解雇は正当な理由によるものである。

なお、O氏の勤務時間についてはフレックスタイム制であることはN社も同意している。

 

<判決>

本件はN社による不当解雇とみなす。O氏は現在、71歳であり定年退職年齢を過ぎているため、本件において復職は考えないものとする。そのため復職に代わる賠償金は発生せず、解雇から判決日までの期間を未払賃金とし、N社よりO氏に支払うものとする。
なお、支払額は下記の通りである。

 

①       未払賃金

O氏に支払われた最後の給料は月RM1,200であることから、この額を基準とし最大24カ月分までを未払賃金とする。

RM1,200 × 24か月 = RM28,800

 

上記の金額から弁護士費用等を差し引いた額を30日以内にO氏の弁護士を通じてO氏に支払うこと。

 

<裁判所の見解>

労使関係法の原則として解雇にあたる不正行為の証明責任は雇用主側に発生する。従業員が有罪であることを証明するのは会社側にあり、自己は無罪であることを証明する責任は従業員側にある。

本件の争点は2013年4月23日に発行された解雇通知より、事前の許可なしに裁判へと出廷したことが解雇に該当するような重大な違反行為となるか否かである。N社の証言および解雇通知からはO氏が事前の許可なしに裁判へ出廷したことがなぜ解雇に該当するのか説明されていない。仮に事前の許可なしに裁判へと出廷する行為が雇用契約書等の違反行為に該当したとしても解雇は釣り合いの取れない処罰となり、適切ではない。また、N社はO氏がフレックスタイム制での勤務であることを認めているため、O氏が裁判へと行っている間、職場にいなければならないという証明をすることはできない。

よって、N社側からO氏の違法性を証明することができないため、N社の行った解雇は合理的な理由のない解雇であり、不当解雇である。

 

<判決のポイント>

本件は労使関係法の基本原則に沿って判断されたものとなります。労使関係法では解雇を行う場合に、その解雇が合理的な理由によるものであり適切なものであるかは会社側に証明責任が発生します。その際に実際の主張・証言だけでなく、理由提示書や解雇通知書の中身も重要な判断材料となってきます。特に解雇通知書には第三者が見てもわかるように解雇理由をしっかりと解雇理由を明記しておく必要があります。

過去の判例でも取り上げましたが、労働裁判において解雇は数ある処罰の中でも最も重く、他に取り得ることのできる手段が存在しない場合のみに使用することが認められる処罰と定義されています。そのため、事前に就業規則や雇用契約書の附則にてどんな違反に対してどのような処罰を与えるのか明確に定めておくことが望ましいと考えます。

 

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