判例 CASE NO. : 3/4-526/15

労務

<概要>

 C氏は2013年10月1日にRegional Managing Directorという役職でL社に採用された。雇用契約書に記載されている期日は2014年1月1日であり、それまでの6か月を試用期間として定めてある。

 C氏は試用期間中、L社から1度も書面や口頭による注意を受けておらず、勤務態度に対して苦情が入ったことや、業務の質の低下も見られなかった。また、試用期間中に、C氏はL社から一度もトレーニングやコーチングを受けることはなかった。

 2014年4月1日、シンガポール、タイ及びベトナムの各Country ManagerはC氏に対し「一切の報告をしない」という旨をメールを通して伝えた。同年4月18日、C氏は「雇用契約違反と法定福利の未払い」と件名に記載したメールを返信し、4月26日に前日の事務所での会話が記録したファイルを添付してL社に送信した。

 添付ファイルにはL社が4月18日にC氏が送付したメールは同日に受け取っていること、また2014年4月24日をもって解雇するということが記録されていました。

 解雇される際に具体的な理由がL社より明示されていなかったとしてL社による解雇は不当解雇であるとしてC氏はL社を訴えた。解雇時のC氏の給与は月RM55,100であった。

 

<従業員の主張>

 2013年10月1日に採用され、2014年4月24日に解雇されるまでの7か月間、L社から勤務態度や業務内容に対して警告を受けることは一切なかった。また、試用期間中、L社から一度もトレーニングやコーチングを受けることもなかった。

 また、L社に採用された2013年10月1日から2014年4月24日までの7ヶ月分給与が未払いであり、同期間のEPF, SOCSOの合計額RM45,500も未払いである。それだけでなく、2013年11月から2014年3月までの経費に関しても支払われていない。

 雇用契約に違反するような行為は一切行っていないのにもかかわらず、L社から突然の解雇通知を受け、また解雇の理由も説明されないまま2014年4月24日に解雇された。このL社による解雇は合理的な理由に基づく解雇ではないためL社のC氏に対する解雇は不当解雇であると主張。

 

<会社側の主張>

 2014年4月18日にL氏より送信された「雇用契約違反と法定福利の未払い」に関するメールは確かに受領している。ヒアリング日である2016年3月22日までの間に陳述日が4回設けられていたが、L社はいずれの陳述にも出廷することはなかった。そのため、裁判所は一連の流れをC氏の証言より判断せざるを得ない。

 

<判決>

 本件はL社による不当解雇であるとみなす。

 C氏は解雇後4か月が経過した2014年9月にL社の給与よりは劣るものの、再就職している。また、このことから元の役職への復職は適した選択ではないとして30日以内にC氏の弁護人を通して賠償金を支払うようにL社に命じた。賠償金の計算方法は以下あのとおりである。

 

①     未払賃金分

  1. 未払である7か月分給与

7か月 × RM55,100 = RM385,700

  1. 解雇後から再就職までの4か月分

4か月 × RM55,100 = RM220,400

 

上記の合計額RM606,100から弁護士費用等を控除した額を30日以内に支払うべきである。

 

 なお、EPF, SOCSOに関しては関係機関に直接申し込みを行い、関係機関よりL社に働きかけてもらうように提言。また、経費に関しては使用された経費が会社目的で正当に使用されたものであるのか、会社が認めている経費であるのかを判断できないため、今回は言及しないこととした。

 

<裁判所の見解>

 本件は解雇されるまでの期間、研修生であったことが争点ではない。研修生であっても正社員と同等の権利を有し、合理的な理由なくして解雇することはできないからである。

 L社は2015年8月20日、同年9月18日、同年10月23日、2016年1月5日の陳述日に出廷しないという選択をした。また、ヒアリング日である2016年3月22日も出廷することはなかった。陳述日及びヒアリング日ともに裁判所から再三の連絡をしたにも関わらず出廷を拒否したということは本件に対して興味がないと判断されるべき行為である。

 労使関係法(1967年)第20条では労働裁判所が同法のもとで解雇を取り扱う場合、不当解雇の有無及び解雇が合理的な理由によるものかが判断基準となる。この際の合理的な理由とは雇用契約書に違反するような違法行為や特別な事情による場合のみである。

本件の場合、L社はC氏を解雇した理由を明示しなかっただけでなく、解雇した理由が合理的な解雇にあたるかの証明責任も果たすことができなかった。

以上のことからL社のC氏に対して行った解雇は不当解雇であるとみなす。

 

 

<判決のポイント>

 本件は「合理的な理由による解雇」及び実質的な争点にはなっていないものの「研修生に対する解雇」が扱われたケースとなっています。

 労働裁判所が労使関係法(1965年)第20条を用いて解雇を判断する際は、不当解雇の有無、及び合理的な理由に基づく解雇であるかが判断基準となります。また、合理的な理由とは違法行為、特別な事情の2点が判断基準とされています。

 研修生に対する解雇のポイントとしては、研修生であっても正社員と同等の権利を有するため合理的な理由を明示しない解雇は不当であるという判断となっています。

 今回、L社は解雇日を告げたのにも関わらず、解雇理由を明示しませんでした。その場合に、その解雇が合理的な理由に基づく解雇であるのか否かを説明する責任は解雇を告げた側にあります。その際に合理的な理由を明示できなかった場合は不当解雇であると判断される可能性がありますので、解雇を伝える際にはどういった理由を持って解雇するのかを伝えることが重要となってきます。

 

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