<概要>
M氏は2014年5月5日に採用され試用期間後、同年8月1日から2015年6月2日までMill Managerという役職でR社にて勤務していた。
M氏によると2015年2月から同年4月までの3か月間、給与明細は発行されているにもかかわらず、R社より給料が支給されることはなかった。そのため、書面にて給与が未払であることを伝えましたが、7日が経過してもR社より返事が来ることはなかった。また、General ManagerであるF氏に対して、給与が支払われていないことを再三報告するが、何もフィードバックを得ることができなかった。
その後、給与未払いに対して不服申し立ての書面をR社に送付したところ、現在は財政難であるため、問題の解決には2週間の猶予がほしいとの返事をいただくも、2週間後になっても給与が支払われることはなかった。
本件に対しM氏は給与を支払われなかったことにより退職を強要されたとし、2015年6月2日にR社を退職し、R社を訴えた。退職後、本退職は強要されたことである旨を人的資源省に報告し2015年12月13日に名誉大臣によって言及され、M氏の訴えは2016年2月10日に裁判所に正式に受理されている。なお、M氏の辞職時における給与は月RM5,950である。
<従業員の主張>
2014年8月1日にMill ManagerとしてR社から正式雇用されたが、2015年2月から同年4月までの給与が支払われていなかった。給与明細はR社より発行されているが、受け取っていたため給与が未払であることを手紙を通じてR社に報告するも7日間経過しても返事はなかった。General ManagerであるF氏に対しても給与が支払われていないことを再三報告するもフィードバックをもらえなかったため、R社に対して不服申し立てを行う。不服申し立てを行う際に「問題の解決には2週間要する」との報告を受けるも、実際に2週間経過しても給与が支払われることはなかった。
給与が支払われなかった事実に対しM氏は会社による退職強要として2015年6月2日に退職しR社を訴えた。公判においてM氏は3ヶ月分の給与が支払われなかったことは正当な理由によるものではなく、給与未払いが原因で生活を支えるのが困難となったため、退職に追い込まれ、この退職は故意によるものではなく強要されたものであると証言した。
また、給与の未払いに関してM氏は給与が支払われていないのは2016年2月から同年4月までの3ヶ月分だけでなく退職する月の給与、退職を受け入れる代わりに支払われる6か月分の給与の2つに関しても支払われていないと証言した。
M氏は当裁判においてR社より損害賠償を受け取ることは望んでおらず、退職する前と同じ役職での復職を求めた。
<会社側の主張>
裁判所が本件を受理した後、2016年3月28日、同年4月18日、同年5月23日、同年11月16日と4度にわたり公聴会及び公判が開催されるもR社は理由を述べることなく一度も出廷することはなかった。M氏の給与が支払われなかった原因としては同年11月16日に開催された公判でのM氏の証言より、(1)当時は財政難であったため支払うことができず、問題の解決には2週間を要するということ、(2)退職をする代わりに6か月分の給与を支払うことの2点だけであった。
<判決>
本件はR社による退職強要であるとし、M氏の解雇は不当かつ違法なものである。またR社は3回の公聴会および1回の公判すべてに出廷しなかった。このことからM氏の証言をもとに判断する。
M氏は退職後、すでに別の企業で働いていること、また復職しても会社との良好な関係性を築くことが困難であると判断されるため、復職ではなくR社にM氏の代理人を通じてM氏に賠償金を30日以内に支払うことを命じる。賠償金の内訳は以下のとおりである。
① 未払賃金分
- M氏の月給はRM5,950である未払い分である2015年2月から4月までの3ヶ月分給与、未払である退職月の給与、辞職を受け入れることで支払われる6か月分の給与、及び裁判所に訴えが受理された日である2016年2月10日までの期間の合計は12カ月となり、その期間分を未払賃金とする。
RM5,950 × 12か月=RM71,400
- M氏は退職後、新たな企業へと就職しているのでそれを考慮して20%差し引く。
RM71,400 - 20% =RM57,120
② 復職に代わる賠償金分
RM5,950
合計 ①RM57,120 + ②RM5,950 = RM63,070
<裁判所の見解>
本件において重要視されたのは給料が支払われなかったことが正当な理由によるものか否かということであった。M氏は2015年2月から4月までの3ヶ月分の給与を支給されておらず、その旨を会社やF氏に何度も報告をしていたが不服申し立ての書面を送るまで、R社からの反応は一切なかった。不服申し立てに対する回答は、「財政難であるため問題の解決には2週間を要する」ということであったが、2週間経っても給与が支払われることはなかった。また、本件に対し2016年3月28日、同年4月18日、同年5月23日、同年11月16日と4度にわたり公聴会及び公判が開催されるもR社は一度も出廷しなかったため、裁判を迅速に終了させるためにもM氏の発言に対する反対尋問は行わず、M氏の発言を判決の判断材料となる。
M氏の本件における一連の証言より、R社の行った行為は不当かつ違法な行為であり、M氏は自ら退職を申し出たのではなく、R社によって退職せざるを得ない状況に追い込まれたと判断するべきである。以上のことから本件は退職強要だとみなす。
<判決のポイント>
本件の場合、公聴会及び公判に一度も出廷しなかったことが判決に影響しているものであると思われます。出廷を拒否するということは原告の意見に対して異論がないとみなされる場合がありますので、そのように判断された場合は原告の証言のみで判決を出すことになってしまいます。
退職強要を含む不当解雇であると訴えられた場合、各公聴会、公判において陳述することが判決を分けてくるものとなります。本件の場合、給与の未払いが正当な理由によるものであるということを会社側が証明することができれば、判決内容は変化していたように思われます。
本件のケースだけに限らず、上司や会社との関係性の悪化など、様々なケースにおいて退職強要を理由とした訴訟のケースがあります。従業員からの不平不満への対応と致しましては、就業規則や雇用契約書に不平不満に対する会社側の対応策を盛り込み、管理していくことが重要になると考えられます。