人事労務編-意味のある目標管理制度でインド人社員の成長を促す

労務

毎年、4月から8月にかけてのこの時期は、給与改定や評価結果のフィードバックが行われる頃かと思います。日本人駐在員の皆様からはよく、「インド人社員は成果を上げていないにも関わらず昇給率や昇格の要求が強くて困る」、といったご意見を聞きます。そして今年こそはインド人社員に目標を決めさせ、達成度に応じた評価を行うことで納得性を高めようと計画されています。

 

これは日本やインドでもよく使われている目標管理制度(MBO:Management By Objective)という手法になります。MBOは、「社員自らが会社の目標に結びつく自己目標や達成方法を設定し、定期的に上司のコーチングを受けることで自主的に目標達成できるようにする」という教育を目的としています。

 

しかしながらMBOが単に評価のためのツールとなり、本来の目的である社員の自主性の向上に役立っていない、制度の形骸化が起きている、というようなケースが散見されます。日本人とインド人で根本的に考え方が異なることがあるため、形骸化してしまうと、会社や会社基準に対する社員のコミットメント低下という悪影響に直結します。そのため、インドにおいてはMBOをインド人社員の成長に結びつけるような「生きた制度」にする必要があります。

 

MBOが形骸化してしまう要因は社員側だけでなく、会社側も含めた双方にあるのではないか、と私は考えます。

 

<社員の要因>

①  会社目標とリンクした正しい自己目標の設定ができていない

②  目適切な目標達成のための手段を見出すことが苦手

 

<会社の要因>

①  年度初めに設定される社員の目標が適切であるかどうかの確認が不十分 

②  定期的(少なくとも半期に1度。理想は毎月か四半期)に目標達成状況を確認するレビューを行っていない。

③  レビューの方法がノルマ達成確認のようになっており、本来の目的である「教育」という内容の面談になっていない。

 

これらの要因から、インド人社員による目標設定は、できもしない(と思われる)高すぎる目標設定となる、もしくは自分のできる範囲の目標設定であり会社目標とリンクしていない低い目標設定となる、という結果を招くことが多くあります。この状況を理解しないまま評価を行った場合、社員から次のようなフィードバックが返ってくるでしょう。

「目標達成できなかったのは競合が増えたことが原因で自分のせいではない。自分は頑張ったので努力を考慮した評価をするべきだ。」

「設定した目標は基準が高すぎた。本来はもっと低い基準で評価すべきであるため、今回の目標達成度で評価すべきではない。」

 

自分で設定したはずの目標さえ簡単に反故にすることが多いため、正しい目標設定を行い、それにコミットしてもらうことが非常に重要といえます。

 

具体的な運用方法は、まずマネジメントで、組織として達成すべき各部署の目標と達成方法を持っておき、それを基本にインド人社員に目標達成方法を考えてもらうことが必要と考えます。基本的な方針などがあれば、インド人社員も自分のアイディアを出しやすくなり、何もアイディアが出てこなければマネジメントの考える方法についてコミットしてもらうように誘導していきます。

 

最も重要な目標設定についてみていきます。決定事項は以下2点です。

①  目標「何を、どれくらい、いつまでに」

②  具体的行動(アクションプラン)「一定期間内で、どのような行動を、どれくらいの頻度で」

 

目標設定の際には「目標」と「具体的行動(アクションプラン)」が混合していないかをしっかり確認します。目標とは、パーフェクトに業務完遂できて普通評価、付加価値を付けた場合は普通以上の評価、となる必要があります。もし設定した目標が付加価値を付けられないものであればそれは「具体的行動(アクションプラン)」となります。その他、具体的行動(アクションプラン)が目標達成を叶えるものになっているかを確認します。

 

次にレビュー面談です。レビュー面談は社員の潜在能力を引き出す機会です。ここでは、達成度の確認だけではなく、達成方法について社員自身に再度考えてもらいます。そして上司はおすすめの方法や運用方法をアドバイスします。上司から新しい方法を学べることはインド人社員のモチベーション向上につながります。年度初めにレビュー頻度とレビューのタイミング日(毎月、四半期、半期)を決めておくと良いです。

 

MBO運用で用いるMBOシート(目標やレビュー結果、達成度を記載するシート)では、単にレビュー時のコメントを入れるだけではなく、次月からの新しい具体的行動を盛り込めるようにしておくと良いです。

 

MBOは会社目標からの落とし込みであるため、「実績評価」といえます。インド人社員評価には「実績評価」だけではなく、あるべき社員としての行動ができたかどうかという「行動評価」も欠かせません。良い考え方が良い行動を生み、それが良い結果を生みます。次回は良い考え方を身につけてもらう、行動評価について紹介していきたいと思います。

 

 

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