一時帰国中のインド駐在員の所得税の留意点と短期滞在者免税

皆様、こんにちは、
Tokyo Consulting Firm Private Limited(India)です。

インドでは、コロナウイルスの感染拡大やインド医療施設への不安等も重なり、多くの日本人駐在員が日本に一時帰国をされています。
今日は緊急性高いテーマとして一時帰国中のインド駐在員の個人所得税の留意点について、日印租税条約上の短期滞在者免税の論点も含めて、みていきます。

 

まず初めに、インドにおける個人所得税の納税義務を判断する上で重要なポイントが「居住性」という基準です。
既にご存知の方も多いかもしれませんが、一旦整理するために、下記のように図を用いて説明します。

 

(1)インドにおける居住性の判定

さて、今回のように日本に一時帰国し、その滞在が長期化する場合、ご自身のインドでの納税義務を考え直す必要があります。
その場合、まずは上記に記載した居住性の判定基準を確認します。

  1. 課税年度において182日以上インドに滞在
  2. 課税年度において60日以上インドに滞在し、かつ過去4年間において365日以上滞在

まずは、上記の両方に該当するかどうかの確認です。

日本での滞在が長期化する場合、182日以上インドに滞在する可能性は低くなるでしょう。
しかしながら、2番目の条件も忘れずに検討する必要があります。

 

仮に、これまでに長期間にわたって、インドに滞在している駐在員の場合は、今会計年度のインドでの滞在期間が182日を超えない場合でも、60日以上、かつ過去4年間の滞在期間が365日以上を超える場合、居住者とみなされます。

逆に、今回の一時帰国で上記のどちらの条件も該当しない場合は、非居住者とみなされます。下記で説明しますが、非居住者とみなされる場合においても、インドで受領する給与については、課税対象に含まれる点は注意する必要があります。

 

(2)居住性による所得税の課税範囲

 

条件 居住ステータス
通常居住者 非通常居住者 非居住者
インド国内で受け取る又は受け取ったとみなされる所得

例:インド法人から支給される給与

課税(注)
インド国内で発生又は発生したとみなされる所得

例:日本法人から支給される給与

インド国外で発生かつ受け取っているが、インド国内からコントロールするビジネスから発生する所得 課税 非課税
インド国外で発生かつ受け取る所得

例:日本での家賃収入等の副収入

課税 非課税
上記に該当しない所得

例:インドに関連しない所得

(注)日印租税条約の短期滞在者免税の規定

  1. インド滞在期間が183日を超えない(※会計年度において)
  2. 報酬が非居住者(インド国外の居住者)から支給されている
  3. 報酬の最終的な負担は日本本社に帰属する

(駐在員の給与・手当等の日本本社負担額を日本本社からインド子会社に対して立替経費として請求していない)

 

 

次に大事な点が居住性によって、課税範囲が異なる点です。

上記の表で記載した通り、仮に非居住者と判定された場合は、インド国外で発生かつ受け取った所得は、所得として考慮する必要がありません。
しかしながら、インド国内で発生かつ受け取った所得については、課税対象になります。

日本に一時帰国している駐在員の場合でも、インド現地法人から支給される給与については継続して受け取っているケースがほとんどである言えます。
その所得は、納税対象であり、確定申告の必要もあるため、注意が必要です。

 

また、前会計年度までは、居住者として日本給与の課税対象として、インドで納税をしていたが、今会計年度から、非居住者となったため、インド給与のみを課税対象として納税を行う場合、客観的に所得が大幅に減少することになります。

この場合、駐在員が個人として、所得税法に則って、課税対象範囲を変更したため、何ら問題はないと感じるかもしれませんが、インド税務当局は所得が大幅に減少したことに着目し、納税者である駐在員に対してノーティスを送付する可能性は低くないと考えられます。

 

インドでは、法人・個人を問わずにノーティスを受け取る事は日常茶飯事ですが、ノーティスを受け取った後の税務当局への対応は会計コンサル会社への費用や、駐在員の個人所得税を担当する本社人事部の人的工数も考慮すると、少々先が思いやられます。

ここまでが、インド駐在員が個人所得税を納税する上で前提として、認識していただきたい基準の考え方になります。
上記で記載した所得はあくまで一例にすぎないため、ご自身の課税範囲を考える際は、専門家に事前にご相談されることを推奨します。

 

(3)日印租税条約上の短期滞在者免税の特別措置

「インド国内で発生又は発生したとみなされる所得」については、インドにおける非居住者であってもインドにおける課税対象となります。

つまり、日本で受け取る給与についても、インドで働いたことに対して受け取った給与とみなされる場合は、課税対象となることになります。
しかしながら、この報酬は上記表の下部に記載した通り短期滞在者免税の条件を満たす可能性があります。

日印租税条約15条では、下記のように短期滞在者に対する免税措置に関する条文が規定されております。


第十五条

  1. 次条及び第十八条から第二十一条までの規定が適用される場合を除くほか、一方の締約国の居住者がその勤務について取得する給料、賃金その他これらに類する報酬に対しては、勤務が他方の締約国内において行われない限り、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。勤務が他方の締約国内において行われる場合には、当該勤務から生ずる報酬に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
  2. 1の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者が他方の締約国内において行う勤務について取得する報酬に対しては、次の(a)から(c)までに掲げることを条件として、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
    (a) 報酬の受領者が当該課税年度又は「前年度」を通じて合計百八十三日を超えない期間当該他方の締約国内に滞在すること。
    (b) 報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われるものであること。
    (c) 報酬が雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものでないこと。
  3. 1及び2の規定にかかわらず、一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶又は航空機内において行われる勤務に係る報酬に対しては、当該一方の締約国において租税を課することができる。

要約すると、下記の条件を満たす場合、短期滞在者としての免税措置を受けられることになります。

  1. インド滞在期間が183日を超えない(※会計年度において)
  2. 報酬が非居住者(インド国外の居住者)から支給されている
  3. 報酬の最終的な負担は日本本社に帰属する
    (駐在員の給与・手当等の日本本社負担額を日本本社からインド子会社に対して立替経費として請求していない)

     

    上記で記載の通り、仮に183日を超えない期間の滞在であった場合も、その報酬がインドで支給されている場合は、免税措置を受けられません。逆にインドで支給されている給与がない場合は、上記の要件を満たす場合は、短期滞在者としての免税措置を受けることが可能と考えられます。

     

    例えば、インドに短期出張を頻繁に行う方の場合、インドで働いたことに対して給与を受け取っている場合は、「インド国内で発生又は発生したとみなされる所得」とみなされ、インド所得税法上は日本給与も課税対象とみなされ鵜可能性が出てきます。

     

    しかしながら、この出張者の滞在期間が183日を超えておらず、給与も日本本社のみから受け取っている場合は、日印租税条約上の特別措置の要件を満たす可能性が高いため、日本給与はインドでの課税対象外と考える事ができます。

 

(4)一時帰国中の駐在員の日本の所得税

日本の所得税法の観点から見た場合、1年以上の予定で海外に赴任している方の場合は、「日本の非居住者」に該当します。
従って、海外赴任中の日本で支給される給与については、日本での勤務が発生しない以上、日本では非課税となります。

しかしながら、今回のように日本での一時帰国が長期化し、その駐在員が日本本社で勤務をする場合、その勤務に対する日本支給の給与分は「非居住者の国内源泉所得」として日本における課税対象となってしまいます。

このような状況になった場合、これまで日本給与に課される税金はインドで納税していたのに、日本でも納税しないといけないといった可能性が発生することが予想されます。

 

(5)インドの個人所得税への影響

一時帰国中のインド駐在員は、帰国期間によりますが、日本での所得税が発生する可能性について上記で説明しました。
注意しなければいけない点は、この課税範囲はインドでも課税対象になる可能性がある点です。

居住性によって、課税対象範囲が変化する事については既に述べましたが、駐在員の居住性によって、全世界所得課税、もしくは、国内源泉所得のみ課税になるのか、可能性について居住性の判定基準を基に一度精査し直す必要があります。

 

インドにて「通常の居住者」、「非通常の居住者」のどちらの場合でも、日本で支給される給与はインドで納税するための課税対象とみなされるため、日本にて受領した給与を国内で納税する場合は、2重課税の問題が発生してしまいます。
その場合は、日本で納税した分については、インドにて外国税額控除の適用が受けられるか検証する必要があります。

 

2重課税の問題を防ぐために、国際税務のロジックとしては成り立つ話ですが、実務上は、外国税額控除の手続きを行うために会計コンサル会社への費用が発生し、それに加えて、人的工数がかかる面を考慮する必要があり、最終的にどちらがメリットになるのか、様々な側面から、比較・検討する必要があると言えます。

 

(6)考察

このように、一時帰国中のインド駐在員に対する個人所得税の取り扱いには前提知識が必要になります。
少々複雑に思えるかもしれませんが、居住性の基準や課税対象範囲等のポイントを抑えることで、自分自身の納税をどのようにすべきか理解が可能となります。

また、今回のようにコロナウイルスの影響で、個人所得税の取り扱いに考えるというよりは、駐在員の一時帰国は潜在的にありうる可能性ですので、事前に本社側で考慮しておくべき論点と捉えておいた方が無難であると言えます。

さらに、日系企業の場合、駐在員の個人所得税は会社が負担していることがほとんどであるため、潜在的に発生する恐れのある駐在員のためのコストとして認識し、最小限に抑えるためにも戦略的に計画していくべきであると言えます。

 

今週は以上となります。

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東京コンサルティングファーム インド・デリー拠点
田本 貴稔

 

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