皆さん、こんにちは!東京コンサルティングファーム インド拠点の松波 優大です。

【この記事の要約】

インドの合併・吸収合併(Merger / Amalgamation)は、株式取得・Slump Sale・資産譲渡と異なり、個々の資産の移転登記が不要で権利・義務が一体的に承継される点が最大の特徴です。日系グループ内再編では§233のFast Trackルートが使えるため、NCLT手続きなしに3〜4ヶ月で完結できます。NCLTルートとの違い、税務適格(§47)の要件、クロスボーダー合併(§234)の実務を解説します。

インドの合併(Merger)とは一方の会社が他方を吸収して消滅させるスキームを指し、合併後に存続会社と消滅会社の資産・負債・契約・従業員・許認可がすべて法律上当然に存続会社に移転します。Amalgamationは複数の会社が統合して新会社を設立するケースです。株式取得・Slump Sale・資産譲渡とは異なり、個々の資産の移転登記が不要で、一体的に権利・義務が承継される点が最大の特徴です。

日系企業にとって特に活用されるのがグループ内再編(子会社の親会社への吸収・複数子会社の統合)での合併です。この場合は§233のFast Trackルートが使えるため、NCLT手続きなしに3〜4ヶ月で完結できます。

比較項目§232 NCLTルート§233 Fast Trackルート
対象すべての会社に適用可能小会社・完全親子会社間(2024年9月改正で対象拡大)
承認機関NCLT(国家会社法審判所)中央政府(地域担当局・Regional Director)
株主・債権者の承認要件数で過半数かつ議決権価値の75%以上各クラス株主の90%以上・債権者の100%
所要期間6〜12ヶ月(複雑な案件はさらに長期化)3〜4ヶ月
主な費用NCLT申請費用・鑑定評価・法務費用・Stamp Duty(NCLT命令書)法務費用・Stamp Duty(相対的に低コスト)
適した場面複雑な合併・上場会社が関与する案件・債権者保護が必要な場合グループ内再編・子会社の親会社への吸収

§232 NCLTルートの主要ステップ

  1. First Motion:取締役会での合併スキーム(Scheme of Amalgamation)の承認・NCLTへの申請
  2. NCLTが株主・債権者会議の開催を命令(各クラスの株主・担保付債権者・無担保債権者ごとに別途実施)
  3. 会議での承認:数で過半数かつ議決権価値の75%以上の賛成が必要
  4. Second Motion:NCLT最終申請・NCLTが合併スキームを認可(Sanction Order)
  5. NCLT命令書のRoC・所得税当局・その他規制当局への通知、合併効力発生

§233 Fast Trackは2024年9月17日施行の改正(Companies (Compromises, Arrangements and Amalgamations) Amendment Rules, 2024)により対象が拡大されました。日系100%子会社を親会社に吸収合併する場合はこのルートが使えるため、NCLT申請・長期の審査期間を省略できる点で実務上の優位性があります。

合併がインドの税法上「適格合併(Qualifying Amalgamation)」と認められると§47(キャピタルゲイン非課税)が適用され、消滅会社の株主・消滅会社自体への課税が生じません。ただしNCLT承認は税務適格の要件を満たすことの証明にはならず、以下の条件を独立して充足している必要があります(§2(1B))。

  • 消滅会社のすべての資産・負債が存続会社に移転すること
  • 消滅会社の株主が、保有する株式の価値の75%以上に相当する対価として存続会社の株式を取得すること(現金対価だけでは不適格)
  • 消滅会社の株主全員が存続会社の株主になること

この条件を満たさない「非適格合併」では、消滅会社のキャピタルゲイン課税・株主側の課税が発生します。特に日系グループ内合併でも、対価の設計(株式対価か現金か)・75%要件の充足・資産・負債の完全移転を事前に税務顧問と確認することが不可欠です。なお適格合併はGSTの「供給(Supply)」に該当せず、GSTも非課税となります。

見落とされがちなのがStamp Dutyです。NCLT命令書は一種の法的文書として各州のStamp Duty(2〜5%)が課されます。複数州に事業がある場合は累積コストとなるため、合併コストの試算では必ずStamp Dutyを含めてください。

§234はインド法人と外国法人の間のクロスボーダー合併を認めています。外国会社がインド法人に吸収合併される(Inbound Merger)場合はRBIの事前承認が必要です。また日本の親会社がインド子会社を吸収合併する(Outbound Merger)ケースも§234のもとで可能ですが、FEMA上の価格規制・FC-GPR報告・FDI上限の遵守が求められます。

クロスボーダー合併における実務上の主な確認事項は以下のとおりです。

  • RBI事前承認の取得(Inbound / Outbound いずれも)
  • 株式交換比率のFEMA Pricing Guideline準拠(公正価値ベースの評価書が必要)
  • FC-GPR:存続会社がインド法人の場合、外国株主への新株発行について割当後30日以内に提出
  • 合併後のFDI持分が業種別上限を超えないこと

Q: 日系グループ内で子会社を親会社に吸収合併する場合、どのルートが使えますか?

A: 日本親会社の100%子会社をインド親会社に吸収合併する場合は§233のFast Trackルートが使えます。NCLTへの申請が不要で、中央政府(Regional Director)の承認で完結するため3〜4ヶ月が目安です。ただし株主の90%以上と債権者の100%の承認が必要です。

Q: NCLTが合併を承認すれば税務上も適格合併になりますか?

A: なりません。NCLT承認は会社法上の手続きの完了を意味するだけで、税務適格(§47)は所得税法§2(1B)の条件を独立して充足しているかで判断されます。対価が現金中心だったり、消滅会社の資産・負債の全部が移転しない場合は非適格合併となりキャピタルゲイン課税が発生します。

Q: 合併に際してGSTは課税されますか?

A: 適格合併は原則としてGSTの対象となる「供給(Supply)」に該当しないためGSTは非課税です。ただし合併スキームの設計や資産の一部だけを切り出すDemerger等の場合は、Going Concern要件の充足状況によってGST課税が生じるケースがあります。

合併・吸収合併は資産移転登記が不要で権利義務が一体的に承継される点で、株式取得・Slump Sale・資産譲渡にはないメリットがあります。日系グループ内再編では§233 Fast Trackを使えばNCLTなしに3〜4ヶ月で完結できるため、子会社整理や重複機能の統合に実務上よく使われます。

注意すべき落とし穴は「NCLT承認=税務適格」という誤解です。対価設計(株式対価75%以上)・全資産移転・株主全員引継という3条件を充足しない限り、NCLT承認後でも課税リスクが残ります。また複数州にまたがる事業ではStamp Dutyの累積コストが見落とされがちです。合併スキームの設計段階で税務・会社法・FEMA・GST・Stamp Dutyを一体で検討することが成功の鍵です。

インドにおけるM&Aスキームの選定や、合併にかかる税務・会社法デューデリジェンスのご相談は、東京コンサルティングファームまでお気軽にお問い合わせください。

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