皆さん、こんにちは!
東京コンサルティンググループインド拠点の松波 優大です!
いつもブログをお読みいただきありがとうございます。
さて、今回は「インドにおける株式取得:株式譲渡と第三者割当増資の実務」
についてお話していこうと思います。
あわせてご覧ください
インドに関する基礎知識が知りたい方は、こちらから▼
・インドの基礎知識
インドに関するセミナーに参加したい方は、こちらから▼
・インド関連セミナー【本記事の重要なポイント】
- インドM&Aにおける株式取得は「株式譲渡」と「第三者割当増資」があり、FEMA上の報告義務や税務処理が異なる
- 株式の譲渡・発行にはCA等による「評価書」が必要であり、有効期限(90日)のスケジュール管理が重要
- 最新の法改正により、株式交換の解禁や新たなCCI届出基準(2,000クロール超)が適用されている
- 株式取得の2つの形態
インドでM&Aを通じて対象会社の持分を取得する方法として、大きく「株式譲渡(Secondary Transfer)」と「第三者割当増資(Third-Party Allotment)」の2形態があります。どちらを選ぶかによって、資金の流れ・FEMA上の報告義務・既存株主への影響・税務処理が大きく変わります。
| 比較項目 | 株式譲渡(Secondary Transfer) | 第三者割当増資(Third-Party Allotment) |
| 取引の性格 | 既存株主からの株式購入。持分比率が移転するのみで会社に資金は入らない | 会社が新株を発行して買主に割り当てる。会社に資金が流入する |
| FEMA上の報告 | FC-TRS(株式移転後60日以内) | FC-GPR(株式割当後30日以内) |
| 価格規制 | 居住者→非居住者:公正価値以上(Floor) 非居住者→居住者:公正価値以下(Ceiling) | 非居住者への発行:公正価値以上(Floor) |
| 既存株主への影響 | 会社の資本構成は変わらず。株主間で持分が移動するだけ | 新株発行により既存株主が希薄化(Dilution)する |
| SHAのROFR | SHAにROFR(先買権)がある場合、既存株主への先買権通知が先行する | 既存株主のPre-emptive Rights(新株引受権)の確認が必要 |
| Companies Act上の手続き | 株式移転登録(Register of Members更新)・Form SH-4 | 取締役会・株主総会決議・Form PAS-3(割当後30日以内) |
実務上は両形態を組み合わせるケースも多くあります。例えば既存株主から一部持分を譲受しつつ(株式譲渡)、同時に新株引受で追加投資をする(第三者割当増資)という構造です。この場合、FC-TRSとFC-GPRの両方を期限内に提出する必要があります。
- FEMA価格規制と評価書
株式取得においてFEMAの価格規制は最も重要な遵守事項です。方向性によって「床(Floor)」と「天井(Ceiling)」が課されます。
- 居住者 → 非居住者への譲渡(日本親会社がインド株主から買う場合):譲渡価格は公正価値以上(Floor)
- 非居住者 → 居住者への譲渡(日本親会社がインド側に売る場合):譲渡価格は公正価値以下(Ceiling)
- 非居住者への新株発行(第三者割当増資):発行価格は公正価値以上(Floor)
公正価値の算定にはSEBI登録のCategory I マーチャントバンカー(Merchant Banker)または公認会計士(CA)等が作成した評価書が必要です(NDI Rules / RBI Master Direction on FDI)。評価書の有効期間は作成日から90日間であり、取引実行(割当または移転)はこの期間内に完了させる必要があります。
なお、Finance Act 2024によりエンジェル税(株式を公正価値以上で発行した場合の課税)がAY 2025-26以降廃止されました。従来はFEMA(公正価値以上で発行)とエンジェル税(公正価値以上は課税)が矛盾する構造でしたが、この問題は解消されています。
III. 2024〜2026年の主要改正
① クロスボーダー株式交換(Share-for-Share取引)の解禁2024〜2025年のFEMA改正により、インド法人と外国法人の間でのShare-for-Share取引(現金を伴わない株式交換によるM&A)が解禁されました。従来は外貨の流出入を伴わない株式交換はFEMA上困難でしたが、この改正によりグローバル標準のM&Aスキームがインドでも実現しやすくなりました。
② CCIのDeal Value基準の新設(2024年Competition Act改正)
従来のCCI届出基準(資産・売上高ベース)に加え、取引金額がINR 2,000クロール(約₹200億ルピー・USD 2億4,000万相当)超かつインドで実質的な事業活動(ユーザー数・売上・GMVの10%超)がある場合に事前届出が義務化されました。高バリュエーションのデジタル企業買収がターゲットです。日系企業のインドIT・スタートアップ投資でも注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q: 株式譲渡と第三者割当増資はどちらを選ぶべきですか?
A: 既存株主から持分を取得するだけであれば株式譲渡、対象会社に資金を注入しながら持分を取得する場合は第三者割当増資が適します。買収後の資本構成・希薄化・税務コストを総合的に比較して選択します。
Q: FEMA評価書は誰が作成する必要がありますか?
A: FDI・ODI取引(外国人への株式発行または外国人からの株式取得)の場合、SEBI登録のCategory I マーチャントバンカーまたは公認会計士(CA)が作成した評価書が必要です。評価書の有効期間は90日です。IBBI登録鑑定人の評価書のみでは不十分な点に注意してください。
Q: CCI(競争委員会)への届出は必ずしも必要ですか?
A: INR 2,000クロール(約₹200億ルピー)を超え、かつインドで実質的な事業活動がある場合に事前届出が必要です(2024年改正)。従来の資産・売上高基準も並存しており、どちらかの基準を超えれば届出義務が生じます。小規模取引は免除されますが、M&A計画段階でCCI要件を確認することを推奨します。
まとめ
株式取得は最もシンプルなM&Aスキームですが、FEMA価格規制・評価書の90日有効期限・CCIの事前届出・SHAのROFR手続きなど、クロージングまでに確認すべき事項が多くあります。
特に落とし穴になりやすいのが「評価書取得後のスケジュール管理」です。90日の有効期限を意識せずに稟議・交渉・手続きを進めると、クロージング時に評価書が失効してしまいます。取引の意思決定後は速やかに評価書を取得し、クロージングまでの逆算スケジュールを管理することが重要です。
2024〜2025年の改正(Share-for-Share解禁・CCI Deal Value基準新設)はインドのM&A市場をグローバルスタンダードに近づけるものです。これらの新制度を活用しながら、FEMA・Companies Act・Competition Actの三つを同時に遵守する取引設計が求められます。
東京コンサルティングファーム インド拠点
松波 優大