皆さん、こんにちは!東京コンサルティングファーム インド拠点の松波 優大です。

【この記事の要約】

インドにおけるSlump Sale(事業譲渡)は、特定の事業部門のみを一括で譲渡するM&Aスキームです。売主には12.5%の長期キャピタルゲイン課税が適用され、買主は不要な負債を切り離せるメリットがあります。本記事では、税務・GST免除要件・会社法上の手続きについて解説します。

Slump Sale(スランプセール)とは、個々の資産・負債に価格を付けることなく、事業全体を一括の対価で譲渡することです(所得税法§2(42C))。「工場ごと丸ごと売る」「事業部門を一括で譲渡する」といったケースが該当します。

Slump Saleは株式取得と異なり、特定の事業・資産・負債のみを切り出して移転できるため、不要な部分を切り離したスリムな取引設計が可能です。一方で資産譲渡(Asset Transfer)と似ていますが、個別資産に値を付けるかどうかが法的に決定的な違いとなります。

比較項目Slump Sale(事業譲渡)資産譲渡(Asset Transfer)
対価の設定事業全体に一括対価。個別資産に値を付けない個別資産ごとに対価を設定
根拠条文§2(42C)・§50B(所得税法)§50(減価償却資産)等の通常規定
売主の課税事業全体のNet Worthとの差額がキャピタルゲイン。LTCG 12.5%(保有36ヶ月超)資産ごとに通常の規定が適用。減価償却資産はみなし短期ゲイン
買主のGoodwillAY 2021-22以降、Goodwillの減価償却は不可個別資産の帳簿価額から減価償却可能
GSTGoing Concern移転はNILレート(免除)個別資産の種類に応じたGSTが課税
偶発債務事業に付随する債務は買主が引き継ぐことが多い指定した資産のみ移転。未開示の債務は売主に残る
株主決議§180(1)(a):事業の実質全体の譲渡は特別決議が必要個別資産売却は取締役会決議で可能なケースが多い

Slump Saleの売主は§50Bに基づき「キャピタルゲイン = 売却対価 − Net Worth(純資産額)」として課税されます。Net Worthとは帳簿価額ベースの資産合計から負債合計を控除した金額であり、インデクセーション(物価調整)は認められません。

保有期間が36ヶ月超であれば長期キャピタルゲイン(LTCG)として扱われ、税率はFinance Act 2024の改正により20%から12.5%に引き下げられています(2024年7月23日以降の譲渡から適用)。36ヶ月以下は短期(STCG)として通常税率が適用されます。

Form 3CEA:公認会計士による証明書

売主はNet Worthの計算が正確であることを証明するCAの証明書(Form 3CEA)を、ITR提出期限の1ヶ月前までにCBDTに提出しなければなりません。2024〜2026年にかけてCBDTはForm 3CEA申告の監査を強化しており、Net Worth計算に誤りがある案件は再査定・ペナルティの対象になっています。

買主はSlump Saleで取得した資産・負債を登録鑑定人(Registered Valuer)が証明した価値で帳簿に計上します。

  • 売却対価 > 純資産価値:差額をGoodwillとして計上。ただしAY 2021-22以降、Goodwillの減価償却は認められない
  • 売却対価 < 純資産価値:差額を資本剰余金(Capital Reserve)として計上
  • 取得した減価償却資産:帳簿計上額を基礎として減価償却が可能
  • TDS義務なし:§194-IAおよび§194Qは事業全体の譲渡には適用されない

また買主にとって重要なのが未開示の偶発債務リスクです。Slump Saleでは事業に付随する債務が包括的に引き継がれるため、DDで顕在化しなかった訴訟リスク・税務リスク・労務リスクが取得後に顕在化する可能性があります。表明保証(Representations & Warranties)とインデムニティ条項のSPA設計が重要となります。

Slump Saleは原則としてGSTの「供給(Supply)」に該当しますが、事業全体をGoing Concern(継続企業)として移転する場合はNILレート(GST免除)が適用されます(GST通知 No. 12/2017 – Central Tax (Rate))。

Going Concern移転と認められるための主な要件は以下のとおりです。

  • 事業の実質全体(資産・負債・従業員・契約・許認可等)が包括的に移転されること
  • 買主がその事業を継続して運営すること
  • 単なる資産の集合体の売却(個別資産の整理売却)ではないこと

2024〜2026年にかけてGST当局はGoing Concern要件の審査を厳格化しています。移転後に事業が実際に継続されているかの証拠(従業員の移籍・契約の引継・事業ライセンスの更新等)を整備しておくことが必要です。なお未使用のITC(Input Tax Credit)は Form GST ITC-02を用いて買主に移転できます。

Companies Act §180(1)(a)は、取締役会が事業の「実質的な全部(Whole or Substantially Whole)」を売却・処分する場合に株主総会の特別決議(議決権の75%以上)を要求しています。「実質的な全部」の判断は事業の規模・収益への依存度等を総合的に勘案します。個別の事業部門のみの譲渡であれば取締役会決議で足りるケースもありますが、重要な事業の譲渡は特別決議を取得しておく方が安全です。

Q: Slump Saleと資産譲渡(Asset Transfer)はどう見分けますか?

A: 個別資産に対価を付けるかどうかが法的な分岐点です。一括の対価で事業全体を譲渡し、個別資産の価格を契約書に記載しなければSlump Saleです。資産ごとに価格を列挙した場合は資産譲渡となり、§50Bではなく個別資産の通常規定(§50等)が適用されます。

Q: GSTのGoing Concern免除は必ず適用されますか?

A: 事業全体が包括的に移転され、買主が事業を継続して運営することが条件です。資産の一部だけ移転する場合や、移転後に買主が事業を継続しない場合はGoing Concern移転とみなされずGSTが課税されます。2024年以降、GST当局による審査が厳しくなっているため、事業継続の証拠書類を整備しておくことが重要です。

Q: 買主はGoodwillの減価償却ができますか?

A: できません。AY 2021-22(2021年4月1日)以降、Goodwillは減価償却の対象から除外されています。取得対価が純資産価値を上回る場合、その差額(Goodwill)は非償却の無形資産として帳簿に残り続けます。Slump Saleの買主側の税務コストを試算する際は、この点を必ず考慮してください。

Slump Saleは事業の切り出しに適した柔軟なスキームです。売主にとっては12.5%のLTCG税率と偶発債務の遮断、買主にとっては選択的な資産・負債の取得というメリットがあります。

ただし「個別資産に値を付けない」という定義の遵守、Form 3CEAの正確な作成、Going Concern要件の立証という3点のコンプライアンスが近年の当局強化で特に重要になっています。また買主側はGoodwillの非償却リスクとSPA上の表明保証・インデムニティ設計を取引前に十分に検討する必要があります。

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