皆様こんにちは、カンボジア駐在員の西山です。
今回は「カンボジア移転価格税制」についてお話しします。
そもそも移転価格とは何でしょうか。移転価格とは、端的に言えば国外関連者(グループ企業)の取引価格であり、移転価格税制は、その国外関連者との所得の国外移転の防止を目的とした制度です。
カンボジアの子会社「S社」が50のコストで自動車を製造します。次にS社が日本の親会社「P社」に販売します。P社は200で自動車を顧客に販売します。このとき、S社からP社へ販売される自動車の取引価格が、「移転価格」です。
ここで2つのケースを見ていきます。
ケース①
移転価格を70に設定します。このとき、S社の利益は20、P社の利益は130、グループ全体の利益は150となります。
ケース②
移転価格を180に設定します。このとき、S社の利益は130、P社の利益は20となりますが、グループ全体の利益は150と変わりません。
これだけ見ると、70でも180でも問題ないように思えますが、「税金」が関わってくると大きな問題となります。グループ全体の利益は150と変わりませんが、S社とP社のそれぞれの利益は変化します。そして、企業への税金は利益に応じて増減します。
カンボジアの税率を20%、日本の税率を40%とした場合を考えてみます。
ケース①
S社の利益は20、P社の利益は130なので、S社がカンボジアで支払う税金が4 (20×20%)、P社が日本で支払う税金が52 (130×40%)となります。
ケース②
S社の利益は130、P社の利益は20なので、S社がカンボジアで支払う税金が26(130×20%)、P社が日本で支払う税金が8(20×40%)となります。
グループ合計の利益は150で変わらないので、支払う税金が減れば、手元に残るお金が増えることになります。
では、移転価格を自由に設定しても良いのでしょうか?
仮にS社が移転価格を120と設定して取引しており、グループとは関係のない第三者であるA社に対しては同じ自動車を170で販売していた場合、カンボジアの税務当局は、S社は移転価格を120にすることにより、50の利益を日本のP社に移転していたとして、P社への販売価格は第三者への販売価格と同じ170とみなし、課税します。
そうなると、S社の実際の利益は70 (移転価格120-コスト50)で、企業が支払うつもりの税金は14(70×20%)であるにもかかわらず、120 (みなし価格170-コスト50)の利益とみなされ24 (120×20%)もの税金を支払わなければならなくなります。
問題はこれだけでなく、カンボジアで支払う税金が増加した代わりに日本で支払う税金が減少するわけではありません。これが二重課税になります。
まとめると、移転価格税制とはグループ企業ではない第三者との取引価格(独立企業間価格:ALP)と移転価格が異なる場合、独立企業間価格で取引したと見なして課税する制度です。
これまでお話ししてきたように、移転価格の設定次第で、企業のグループ内での利益配分が変わり、それぞれの所在国での納税額が変わります。一方の国で利益が増えれば、他方の国での利益は減ります。移転価格税制とは、国家間の税金の取り合いということになります。
次回以降、カンボジアにおける移転価格税制の状況を見ていきたいと思います。
今週は以上になります。
西山 翔太郎