従業員解雇の取り扱い

こんにちは、タイ駐在の小林平悟です。

洪水の影響で業績の悪化が見込まれる企業については、人員の整理も考えざるを得ない企業も出てきています。バンコク日本人商工会議所の会員企業を対象に実施した洪水被害に関する調査によると、「休業補償を支払って従業員を解雇しない」が62・2%(71件)、「整理解雇を含めた人員削減」が14・9%(17件)、「タイ国内の代替工場への人員振り替え」が7・9%(9件)、「海外(日本など)の代替工場への人員振り替え」が11・4%(13件)、「被災地にて全く違う業務へ従事させる」が5・2%(6件)とあります。

今回はこの中でも、従業員の解雇にフォーカスして書いていきます。

解雇については大きく以下の3つに分けられます。
1 懲戒解雇(解雇手当を有しない解雇)
2 通常解雇(解雇手当を伴う解雇)
3 不当解雇

まず、1の懲戒解雇についてですが、以下の正当事由を以て解雇した場合には、会社側は退職手当を支払う必要はありません。(労働者保護法119条にあります)

(1) 職務に対する不正、使用者に対し故意に刑事犯罪
(2) 使用者に故意に損害を与えた
(3)過失により重大な損害を与えた場合
(4)就業規則、使用者の合法的命令に違反し、警告書を受けた場合、重大な場合警告書は不用
(5)正当な理由なく3日(間に休日の有無を問わず)連増して職務を放棄した
(6)最終判決により禁固刑を受けた

ここで注意しておきたいのは、解雇通知の中に必ず正当事由を書いておくというとことです。
後々裁判になった際に後付けで理由を主張したとしても受け入れられません。

2の通常解雇とは、その名の通り通常一般的な解雇となるので解雇手当を伴います。
解雇手当の算出方法は以下の通りです。

【3の不当解雇とは、会社都合で従業員を一方的に解雇することを言います。この場合、勤続120日以上の場合は、勤続年数に応じて解雇補償金を支払うこととなります。(保護法118条)
一般的には、この解雇補償金は1年勤続につき30日分となることが多いようです。

また、上記全てのケースに置いて、1給与期間以上前の解雇事前通知をするか、直ちに雇用を終了する場合は、解雇の事前通知の代わりとなる雇用報酬を払う必要があります。未使用有給休暇の買い取り義務もお忘れなく。(保護法67条です)

さて、今回の洪水により事業が悪化したために整理解雇しようとした場合、不当解雇とならないように気をつける必要があります。、タイ労働者保護法は整理解雇の正当事由について規定していないので、一般的な解雇についての規定をみると以下のように書かれています。

「雇用契約に期間の定めがない場合には、次の賃金支払時期に雇用契約の終了の効力を生じさせるべく、一賃金支給期間以前に他方当事者に文書により予告することを以って使用者または労働者は雇用契約を終了させることができる」(保護法17条2項)

上記内容からは、一見一賃金支給期間以前に通知をすれば、使用者も労働者も雇用契約を何時でも解消できるように見えますが、実際は正当事由なく解雇すると、不当解雇となりますのでお気をつけください。

一般的には正当事由の要件としては以下のものがあります。

1 人員整理の必要性
2 解雇回避のための努力義務の履行
3 被解雇者選定の合理性
4 解雇手続の妥当性

今回の例で言うと、
1洪水の影響により、業績が悪化 ⇒2役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等により、整理解雇を回避するための経営努力がなされたしたが、人員整理(解雇)に着手することがやむを得ないと判断 ⇒3解雇の対象となる労働者の人選基準が合的で、具体的人選も合理的かつ公平であることの立証 ⇒4説明・協議、納得を得るための手順をきちんと踏んでいる。 
と、上記4要件をきちんと満たしていなければ、不当解雇とされる危険があります。
この点、一賃金支給期間以前に通知をすれば、不当解雇とならないという認識の企業様も多いようですので、お気を付けください。

タイは裁判になると労働者側に有利になりがちなことは有名なところかと思います。解雇にいかなる理由があろうとも、会社側がきちんと立証できなければ、労働者側が有利となります。裁判になってもしっかりと立証可能な状況を作っておくことが大事ですね

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2019-10-23

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