いつもお世話になっております。
東京コンサルティングファーム・マニラ支店の早川でございます。
今回は、実際に労働裁判となった例と共に、どういうところで労働問題が起こるのかという点と、その防ぎ方について、具体的にご紹介していこうと思います。
(会社名や詳細はここでは伏せておりますが、公に発表されている判例からご紹介しております)
<労働裁判までの経緯>
P社は、日本に本社をもち、フィリピンにて鉱山開発のため駐在員事務所を設けていた。
2010年9月から、原材料の市場調査・開発のため、T氏を採用した。その際は有期雇用契約として、2か月間の契約を結んだ。
また、その期間が延期となり、2011年1月31日まで働くという契約に、書面で更新された。
2011年1月17日に、P社はE社と、共同開発プロジェクトを行うこととなった。
T氏はそれをうけこのプロジェクトのマネージャーに任命されたが、前述の契約書以外に、T氏の雇用契約書は作成されなかった。職務としては、開発事業を行う中で、報告書の用意・更新(管理)や、E社社長からの予算承認を担当していた。
2011年11月29日付のレターにて、同年12月31日をもって解雇されるという事が書面で通知された。
その理由は、プロジェクトの完了だとそのレターには記載されていた。
退職手続きが進められ、T氏は一部引き継ぎ義務を全うできなかった部分がありつつも、退職となった。
2013年1月12日、T氏はP社およびE社社長にメールにて、不当な解雇であり、もし現在まで雇用されていた場合の賃金(Backwage)や、損害賠償として10,000,000ペソの支払い等の希望を聞かなければ、労働局に訴えに行く、というメールの内容であった。
会社側はそれに返答することはなかった。
実際には2012年12月12日、T氏は不当解雇だとしてP社とE社の両方を訴えるため、労働局に申請した。
<従業員側の訴え>
- 2011年1月31日、E社社長に、プロジェクト終了後のキャリアパスについて問い合わせのメールを送ったが、返事はなかった。
その後、他の社員の自分に対する社員が変わり、自主退職に追い込まれた。 - 自分は契約社員ではなく、P社の正社員、または共同開発プロジェクトの正社員である。
このプロジェクトに欠かせない業務を行っていたことからそう言える。 - 有期雇用社員であるという話は、自分がプロジェクトのマネージャーに任命された際になかった。
よって、自分は正社員である。 - 正社員として解雇される場合は、会社はDOLE(労働局)への通知を行わなければならないが、それは行われていなかった。
<P社側の主張>
- T氏との契約は、2か月の有期雇用期間と、そのさらに2か月の延長の、合計4か月間だけであり、そのあとはE社とT氏との契約で業務を行っていたのであり、P社は雇用主ではない。
- よって契約していない人への、要求に対応することはできない。
<E社の主張>
- P社が最初にT氏を採用し、その後P社がT氏にプロジェクト開発マネージャーとして参画するように推奨したという認識である。
- (有期雇用の)契約社員(Project employment)であり、その契約期間は実際のプロジェクトの長さと一致するものである。
よって、プロジェクトが終了したと同時に解雇されることは自然であり、不当解雇ではない。
<最高裁判所の判決(2019年12月5日)>
従業員側の主張を認める。
P社は、T氏を前職に復職させるか、または前職がすでにない場合には同等の役職に復職させることを命じる。
その際、入社年数は最初に入社した年から継続するものとし、給与が支払われていなかった、2011年12月から今日までの給与、および弁護士費用を会社は負担すること。
<判例のポイント>
会社側(P社)は有期雇用であった、と言っているが、今回の論点はその期間の労働ではなくとの後の労働であり、これは別途契約書が設けられるべきてあった。
雇用契約書がないからといって、これまで通りの有期雇用契約であると、雇用形態を勝手に決定してはならない。
以前に有期雇用契約を結んでいたとしても、それが継続していると決めつけることはできない。
労働法上、正社員としてみなされるのは以下のいずれかに当てはまるときである。
- a) 会社の通常の運営のうち必要とされている業務を行っている(※プロジェクトや季節的な業務を除く) または
- b) 1年以上、継続的出勤か否かを問わず、業務を行っている
今回のP社側の、プロジェクトが完了している、という主張は証拠に弱く、またT氏の業務の性質上、aに当てはまると考えられる。
また、(4か月の有期雇用契約を終えてから)2011年1月~12月に勤務を継続し、あと数週間で1年たつところだったがその目前で解雇をしていることから、正社員としてみなされるのを避けた可能性がある。
また、過去の判例でも、(1)継続的または断続的に、同じ職務内容で再雇用され、かつ、(2)会社の通常の運営のうち必要とされている業務を行っている場合は、契約社員ではなく正社員であると認められている。
これらの状況から、T氏はP社の正社員であると認める。
<この判例に学ぶ>
①有期雇用で社員を雇うと思ったら、まずは以下に当てはまっていないことを確認することが必要です
- a) 会社の通常の運営のうち必要とされている業務を行っている(※プロジェクトや季節的な業務を除く) または
- b) 1年以上、継続的出勤か否かを問わず、業務を行っている
②さらに、プロジェクトが延期されている場合は、曖昧にせず必ず契約を更新していくことです。
少しでもご参考になりましたら幸いです。
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東京コンサルティングファーム・マニラ拠点
早川 桃代
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