シンガポールで支店?正しい理解で賢い選択を!

会計

シンガポールで活動する外資系の企業、皆さんは、支店の割合が極端に少ないことにお気づきでしょうか。
もちろん、シンガポールに支店がないわけではありません。金融庁MASが管轄する銀行業などのビジネスでは特に、駐在員事務所または支店の形態が一般的です。
外国の銀行で口座開設が可能なところはほとんど例外なく支店だと言えるでしょう。

しかし、一般のビジネスで支店の形態を選択する会社は、きわめて少ないと言えます。
それゆえに、支店の形態について、よくよく条件や活用法を理解している人も少ないことでしょう。

今回は、そんな支店形態の特徴について、まとめ内容を一歩踏み込んでお伝えします。

基本は法人と同じ?共通点と類似点

法人はシンガポール法人、支店は外国法人として、それぞれ税務上の取り扱いを受けますが、それで義務や権利に大きく違いが生じるわけではありません。
建設業、金融業など、ライセンスの取得が必要となる業界であっても、支店ではライセンスの取得が困難になるということはありません。

実は、違うとされる税務上の取り扱いも、シンガポール法人とシンガポール支店の納税義務は、実際にはほとんど同じです。
これは、シンガポール支店の会計が、独立採算制に基づいていることに起因します。

どちらも財務諸表を作成して法定監査を受け、発生した利益に基づいて納税を行いますが、その税率は一律17%となり、それ自体には違いはありません。

また、赤字の場合に純損失の金額が翌年に繰り越され、将来利益を出した時に相殺される点も同一です。シンガポールはこの損失の繰り越しに年限が存在しないため、最終的に黒字になるのであれば、赤字を出すこと自体無駄にはならないという特徴があります。

GST登録する義務や手続き、申告の方法等も同一、現地で雇用する従業員に関する規則も、ほぼ同じものが適用になります。

次に類似点ですが、法人と言えば、名義貸しでもいいのでシンガポールに住む人の中で居住取締役を最低一人確保する必要があります。
一方、支店では代表権者(Authorised Representative)を最低一人設けなければならず、この代表権者はやはりシンガポールに居住している必要があります。

法人と異なり、この代表権者は取締役でなくてもいいとされていますが、シンガポールで生じた法的責任を負う義務があるとされており、非常に重要な役職です。

やっぱり法人が自由?細かいルールが違いを生む

支店の特徴として、以下の点で法人にはない制限がかけられることが挙げられます:
・支店名は本店の名称に「~ Singapore Branch」をつけたものしか許されない
・会計年度末は本店と同じでなければならない
・規模にかかわらず、必ず法定監査(Statutory Audit)を受けなければならない
・休眠会社になることができない
・原則として、本店の事業しか営むことはできない
・負債など、法的責任については100%本店まで遡及し、回避できない

AGM(年次株主総会)がない分、コンプライアンスとしては法人よりも少しだけ少なくなる部分がありますが、基本的にはやらなければならないこと、自由にならないことが多い分、デメリットと感じられる側面が多くなってしまいます。

手続きが煩雑?大変なのは日本企業だから!

支店は登録手続きから大変です。
必要書類として、以下の書類が必要です:
・本店登記簿謄本、全部事項証明書
・本店定款
・取締役の個人情報(氏名・住所・パスポート番号・生年月日・就任日など、全員分)
・代表権者の個人情報記入フォーム・同意書
・登録事務所の詳細

これだけ見れば、それほどでもないと思われることでしょうが、日本の会社の場合、公文書や定款はすべて日本語で書かれているため、それをすべて英語に翻訳して提出することになります。身分証明書なども同様です。
さらにその翻訳が正しいことを証明するために、公証役場により公証認証を受ける必要がありますが、その金額は通常非常に高額になります。

本店の取締役の変更に関しても、同様に逐一証明書等を翻訳、公証認証して提出する義務が生じます。
公証認証した書類は当然に原本の提出が必要になるため、その書類の郵送も必要です。

また、年に一回財務状況を報告する年次報告書の提出(Annual Return Filing)に際して、支店にはシンガポール内で監査を通した財務諸表を本店の財務諸表と合算して英訳し、それをまた公証認証して提出するという義務があります。

普通、監査済みの財務諸表ともなると、何十ページにもなるレポートです。毎年毎年これを翻訳し、公証認証して提出するというのは、なかなかの負担です。

シンガポール同様に英語を公用語とする国の会社であれば、出てくる原本をそのまま提出すれば済むため、特段翻訳や公証認証で費用や労力を使う必要はありません。
日本語を公用語とする日本の会社ならではの、大きなひと手間と言えるでしょう。

支店のメリットとは?あるとしたらそれは本国の側!

ここまで見てくると、法人と同じような部分が多く、かつ手続きが煩雑なるということで、支店のメリットは一つもないように思えることでしょう。

さらに、利益が出てきた場合には、法人であれば内国法人として各種リベートなどを享受することができ、低税率で納税することができますが、支店であればいくらシンガポールで納税を行ったとしても、最終的には本店のある本国の税率で納税する義務が生じ、30%以上の税率で法人税が取られることになります。この点、税務上はメリットがほとんどないと言えます。

なお、シンガポールで納税した金額は本国での納税の際に控除することができるため、二重課税は生じないことになる仕組みです。

この点、逆にシンガポール支店が赤字であれば、赤字分の数字を本店の利益と相殺することができ、本店の納税額を削減する効果をもたらします。
つまり、最初の数年間、確実に赤字が続くことがはっきりしている業態であれば、本店の法人税額を減らすことができるのです。

この点が、現状唯一支店を登録することによるメリットと言えるでしょう。

また、支店は登記の解除をするだけで撤退ができる仕組みであり、法人の場合のように、清算手続きで時間やお金を使うことはありません。
この点、特定の事業を試しに数年だけやってみるという場合には、支店といういつでも撤退できる形態で進出し、シンガポール支店の側で赤字が出れば本店の黒字と相殺し、いざ黒字になったら支店をたたんで法人化する(厳密には全く別の会社を設立するプロセスですが、対外的には「法人化した」として同一の業務を営むことが可能)というやり方が考えられます。

ただし、最初から法人にした場合でも、上記シンガポールの税務上の特徴により、赤字分は最終的に黒字の利益と相殺して納税額を削減することに使われます。
したがって、上記手続きにある程度の費用が掛かってしまうことを踏まえれば、あまりメリットはないと結論づける会社も少なくありません。

これが、シンガポールに支店が少ない理由です。

戦略として、ある程度の費用は覚悟しながら、素早く市場実験を行って経営判断をしていきたいような場合には、支店での進出も決してあり得ない選択肢ではありません。
どのように手続きすれば費用が抑えられるのか、現在の事業計画ならいくら費用が発生し、どの程度赤字が出て、本店の法人税にどのような影響があるのか、といった数字をもとに、賢い選択をしていくことが求められます。

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