越境リモートワーク~シンガポール、日本と諸外国の課税~

税務

特にコロナ禍でリモートワークが発達した2020年以降、移動ができないために現地では働けないものの、外国の法人からオファーを受けて、雇用されて働くということが徐々に一般化してきました。

シンガポールでも、個人の働き方にバリエーションが生まれつつある今、外国法人による雇用に関して、しばしば質問をいただきます。

今回は、シンガポール、日本、および諸外国での越境リモートワークの条件と、税務上の取扱いについてお伝えします。

雇用と業務委託の違い

雇用と業務委託は、シンガポールではそれぞれ「業務の契約(Contract of Service)」と「業務用の契約(Contract for Service)」によって規定されるとされています。

(※シンガポール人的資源省公式サイト情報:https://www.mom.gov.sg/employment-practices/contract-of-service/what-is-a-contract-of-service)

前者は雇用者と従業員の雇用関係のための契約で、原則としてシンガポール雇用法の適用を受け、雇用契約書の形で主要な雇用条件(Key Employment Terms:KETs)を明文化することが半義務化されています。

一方、後者は独立した個人事業主と法人(個人でも可)との契約で、法人間の業務委託契約と似て、どちらかに法的な保護が与えられるような内容ではありません。

いずれも、一方が業務を提供して報酬を受け取る点では共通していますが、大まかに言えば雇用法の適用を受けるか否かによって異なっていると言えます。

越境リモートワークの実態

従前、シンガポールではEP保有の外国人材の配偶者について、許可書(Letter of Consent:LOC)を申請・取得することを条件に、就労を許可していました。

(※EP=Employment Pass:管理者・技術者などハイレベル人材の雇用に必要な就労許可)

しかし、2021年5月以来、このLOCの発行を原則許可しない方針が打ち出され、配偶者の就労にもEPの申請・取得が必要になりました。

このため、給与条件などからEPが取得できないシンガポール居住者の失業が始まり、日本や諸外国の日系企業などで越境リモートワークの雇用をされる例が増えてきています。

また、もともとシンガポールで就労許可を取得して働いていた外国人が、何らかの事情で母国に帰るなど、長期的にシンガポール国外に滞在し、そこで越境リモートワークを展開する場合や、これからシンガポール企業で雇用されることが決まっていながら、EPが取れない、入国許可が下りない、といった理由でシンガポールに入国できず、越境リモートワークをする例も出てきています。

反対に、シンガポール人で日本企業に就職が決定したけれども、ビザが下りないなどの理由から入国ができない場合に、越境リモートワークで就労をスタートさせる例もあります。

給与報酬については、当該業務を提供する個人が、雇用元企業のある国で銀行口座を保有していないケースが多く、一般的には海外送金によって支払いが行われますが、シンガポールに居住する日本人が日本企業に雇用される例などでは、雇用元企業のある日本で支給を受けることもよくあります。

法律上の取扱い

こうした越境リモートワークでは、その立場がいずれの国でも雇用に該当せず、個人が法律的保護を受けられない傾向にあります。

国によっては越境リモートワークが雇用と認められず、個人事業主の登録なく業務委託を受けることを許さない、というところもあります。

シンガポールにおいては、個人が外国法人に対して業務を行うのは、雇用の形でも業務委託の形でも問題なく、後者の場合も特に個人事業主(Sole Proprietor)としての登記が必要とは考えられていません。

(※個人事業主の登記は、個人が「屋号」を持つ際には必要になります)

法律の適用がないために、社会保険、年金基金などへの加入も行われなくなるため、個人の側から見れば雇用条件は不利なものが多く、この格差是正のため、この分の金額を足した形で報酬が支払われる例も多くあります。

従って、越境リモートワークにおける雇用は、その条件をどのように調整するかが最初の課題と言えるでしょう。

国際税務上の規制

越境リモートワークによる雇用の論点の一つが、当該個人の活動が恒久的施設(Permanent Establishment:PE)と認定されないか、という問題です。

通常、租税条約などで規定されるPEは、例えば日本企業がシンガポールの個人に営業活動をさせ、日本企業の名前でモノやサービスを販売させたり、営業事業所としてシンガポールで個人が輸入販売などを行う場合に該当し、PE認定された場合、この例で言う日本企業は、シンガポールで法人所得税を支払う必要があります。

(※代理店として販売代行を行う場合は、代理店(Agent)として活動していればPEには該当しません)

従って、原則として越境リモートワークでは、業務を遠隔でできる事務作業に限定するべきだと考えられます。

個人所得税の取扱い

次に、個人所得税についてですが、こちらは原則として、報酬を受け取る場所にかかわらず、越境リモートワークで雇用される当該個人が、自分の滞在している国で課税所得を申告し、納税することになります。

シンガポールに居住している日本人が日本企業に越境リモートワークで雇用される場合や、日本人が日本にいながら外国法人に雇用されるような場合は、当該個人の居住地で申告・納税します。

一方、一時帰国などで雇用元の国と異なる国で滞在し、長期化した結果越境リモートワークになったような場合は、居住者要件や納税義務要件に従って、少し扱いが異なってきます。

一般的に、税務上の居住者(Tax Residence)は、その国に183日以上滞在することが要件となりますが、納税の義務自体はいくつかの国で、もっと短い滞在で発生します。

シンガポールでも、個人所得税の居住者レートは183日以上の滞在という規則ですが、納税・課税所得申告の義務自体は年間60日を超える滞在で発生します。

(※居住者レートは、一般に6か月以上の就労許可を取得した時点で適用対象になります)

一方、日本では年間183日以上の滞在で納税義務が発生するというルールになっています。

この場合、滞在先で義務が発生したら納税は避けられず、雇用元でも就労許可要件などから納税が必要になり、二重課税が発生します。

この点、シンガポールと日本など、租税条約を締結している国同士であれば、お互いの国で課税されていることを通知することにより、雇用元の国で該当期間の個人所得税を免除する外国税額控除の制度があります。

滞在の証明、および申告・納税の証明を用意して雇用元の法人に連絡、税務当局に通知することで、二重課税を避ける必要があることに注意しましょう。

以上、シンガポールの税務情報をお伝えします。

 

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株式会社東京コンサルティングファーム  シンガポール法人
近藤貴政

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