みなし解雇に関する判例

労務

<概要>

 N氏は2010年から2013年まで、Club Managerという役職で、M社のコタキナバル拠点で働いていた。2013年に、F&B Managerに降格され、その6ヵ月後にSandakan拠点へ異動となった。

2014年7月23日、N氏は、病気の父親を看病するためにコタキナバルに異動したいと、書面にて取締役に希望を出した。しかしながら、返信はなかった。その後、N氏は直属の上司に、同年9月1日から休暇をとるように言われた。

同年9月2日、取締役と話し合おうとしたが、取締役の時間が取れず同年9月9日までできなかった。9月9日、取締役とのミーティングにて、N氏は目標を達成しておらず他拠点に異動しても意味がないと伝えられ、2か月分の給与と共に退職するよう促された。

しかし、N氏が弁護士を雇い裁判をするとM社に報告した後、追加でミーティングが行われ、会社はN氏を解雇したことを否定し、人道的背景からN氏の要望に同意し、同年9月12日のレターにて、コタキナバルにある拠点に異動のオファーを出した。しかしその役職は、N氏と仲が悪いW氏を直属の上司とするものであった。

W氏とN氏が不仲だということは会社も知っているため、この人事配置は不合理なものであるといえる。みなし解雇であるものとして、N氏はM社を訴えた。

 

<従業員側の主張>

 長年の間、N氏は会社のビジネスが拡大するようにと、義務を果たしてきた。2013年には、コタキナバルの年老いた病気の父親を看病しなければならないことは、会社も良く知っているにも関わらず、Sandakanへ異動させられた。この降格という会社の行動は、N氏の評判と尊厳を落とす悪意のあるものである。

 Sandakanでの月間売上目標116,000RMは、会社によって決められた不合理なものである。会社側がN氏が目標を達成しなかったために解雇したと言っているが、N氏がF&B Managerを引き継いだとき、前月(2013年8月)の売上は69,921RMだったが、オフ・シーズンの2014年3月でも86,188RMの売上を維持し、2014年3月でもそして2014年5月の売上は120,435RMに上ったという記録がある。N氏が引き継いでからの売上は、それまでの売上を下回ることはなく、順調に伸びていた。ピークの時間帯、満席にも関わらず人手が足りず店が回らないこともあったが、それは店の予算が足りず人を雇えなかったからである。

 退職と同時に2ヶ月分の給与を支払うといわれたが、これについて適切な質問を投げかける機会は与えられなかった。この重要な問題を無視することは、自然的正義に背くことを意味する。会社による理由のない解雇のせいで、同僚や関係者、友人の前で恥をかかされ、精神的苦痛を負い、会社の経営に対する信念と信用を失った。

N氏が、弁護士を雇ってこの問題を解決すると会社に伝えた後の9月12日、会社はN氏をコタキナバルに異動することを決め、またW氏という上司のもと働くよう辞令を出した。しかし、会社はこのW氏とN氏の仲が良くないことを良く知っているはずである。この配置は会社の後知恵である。

N氏は会社をやめたが、これは会社に対する信頼を失ったからであり、これらのすべての出来事がN氏に不安・プレッシャー・ストレスを与えた。みなし解雇だとして会社を訴える。

 

<会社側の主張>

 Sandakanでの月間売上目標116,000RMを達成できなかったのは確かであり、正当な理由のもと、コタキナバルへの異動はできないと判断した。異動を希望するのであれば、その希望はかなわないため、退職を促した。

 最終的には、N氏の意見を尊重し、異動のオファーを出した。みなし解雇でも、不当な解雇でもない。

 

<判決>

 本件はみなし解雇ではないが、不当な理由による不正解雇だとみなす。

 N氏がすでに別の会社で働いていることから、復職は適していないため、P氏に補償金を30日以内に支払うよう、M社に命じる。補償金の計算方法は、以下のとおりである。

 

①    未払賃金分

a)    最後に引き落とされたN氏の月給は6,426RMであった。解雇された2014年9月9日から、裁判の最後の聴取があった2016年11月10日まで、本来であれば未払賃金は26ヶ月だが、長すぎるため24ヶ月までとする。

6,426RM × 24ヶ月 = 154,224RM

 

b)    またN氏は解雇されてから3ヶ月で新たな仕事を見つけているため、その収入を考慮して20%差し引く。

154,224RM – (154,224RM×20%) = 123,379.20RM

 

②    退職金分

月給6,426RM × 勤続年数15年 = 96,390RM

 

合計 ①123,379.20RM + ②96,390RM = 219,769.20RM

 

 

 

 

<裁判所の見解>

今回、以下の2点に注目していく。

  1. みなし解雇であるか
  2. 正当な理由があっての解雇だったのか

まず1についてだが、雇用主によって不合理な行為がなされた場合には、従業員が一方的に契約を終了する権利があり、これを『みなし解雇』とする。雇用契約の根本的な部分に関わる重大な違反をした場合や、重要な規定をもう守る意向はないと見受けられた場合、従業員側は業務を遂行する必要は無く、雇用主側の行動が理由で契約を終了することができる。

 しかし、今回の場合、裁判所に訴える前に、不満のある点について正すよう会社に知らせたという証拠がなく、N氏が弁護士と相談したと会社に報告した後、会社は修繕しようとしている。また、会社が契約の根本的な部分に関わる重大な違反をしていたという証拠もなかった。そのため、今回はみなし解雇とは認められないものとする。

 2についてだが、会社が設定した売り上げ目標は3つのメモを通してN氏に伝えられたが、その宛名はSenior ManagerのY氏になっており、直接N氏に対して宛てているものではなかった。このことから、売り上げ目標はN氏だけが責任を持っているものでないといえる。

さらに、業績が低いことに対する警告書や業績評価を持ってしてN氏と話し合ったという証拠が見つからなかった。どうやって評価されたのか、そもそも正確に評価されていたのかということすら確認できる証拠がなかった。このことから、本件は恣意的な解雇とみなす。

 

<判決のポイント>

 みなし解雇と判断する際、「重要な規定を守る意向はないと見受けられるかどうか」という点が注目されます。今回、最終的には従業員の意見を受け入れ、解雇ではなく異動のオファーを出したという行動が、「今後も従業員の意見を尊重し、契約に基づいて行動する意思がある」というアピールになったというのが、みなし解雇と判断されなかった原因のひとつかと思われます。

 また、不当解雇かどうかを判断するにあたり、正しい評価が行われていたのかという点が注目されました。誰にどんな責任があるのか、それに対しての従業員の働き振りをどのような数値で評価するのかという点を明確にしていなかったことが会社側の問題でした。明確な評価基準のもと評価を行い、その結果をもとに従業員と話し合い、なぜ希望の異動や昇格・昇給ができないのか、何が足りないのか、どう改善すれば希望がかなうのかという点を丁寧に伝えることが重要です。

 

 

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