雇用形態に関する判例

労務

<前提:Contract of ServiceとContract for Serviceの違い>

今回の判例では、Contract of serviceとContract for serviceという二つの種類の契約書が論点となります。前者は、従業員と雇用主間で結ばれる契約(雇用契約)を指し、後者は、一方がサービスの供給者でもう一方が顧客となり結ばれる契約(サービスの契約)を指します。会社側は”Contract for service”を結んでいたつもりでも、従業員側は”Contract of service”を結んでいたと認識している場合、裁判所はどこに注目して判断するのでしょうか。今回の判例と共に見ていきます。

 

<概要>

G氏は、2008年から物流企業であるD社のCustomer Service部門の部門長として勤めていた。D社は外資企業との合併があり、組織の再編成を行っていた。2009年9月2日、D社は、Customer Service部門とCommercial部門を、CS/Commercial部門として統合することを発表した。2009年9月10日、D社はG氏に、同年11月4日を最後の出勤日として、解雇通知を出した。組織の再編成の影響で、G氏の役職は縮小されることになったというのが原因であった。退職金を受け取り、G氏は退職した。

2009年11月5日、G氏はD社から、CS/Commercial部門のコンサルタントとして、月給RM16,000でオファーを受けた。この契約は2009年11月5日から2009年12月31日までの有期契約であった。2010年1月1日のレターで、D社はG氏の契約を6ヶ月間延長し、2010年1月1日から同年6月30日までとした。

 2010年3月26日、D社はG氏に、2010年4月2日で契約を終了させると書面で通知した。G氏は、有期雇用契約の期間が満了していないにも関わらず理由もなく解雇したとして、D社を訴えた。

 

<従業員側の主張>

D社は、雇用契約は結んでおらず、”Contract for service”を結んだと主張しており、確かに契約書の名前自体は”Contract for service”となっているが、その内容は雇用契約と同じものであり、「有期雇用契約」だと思って働いていた。

契約終了通知には、契約期間の満了前に契約を終了する理由も記載されていなかった。コンサルタントと客という関係ではなく、雇用主と従業員という関係である以上、契約終了(解雇)の理由を明記するべきであり、理由がないのであれば不当な解雇である。

 

 

<会社側の主張>

 G氏とは、コンサルタントと顧客として、”Contract for service(取引先契約)”を結んでいただけであり、雇用契約ではなかった。”Contract of service(雇用契約)”を結んでいたわけではないのだから、従業員ではない。D社が顧客である以上、契約を終了させる権利はD社にある。

G氏が従業員ではない証拠として、報酬はG氏から提出された「コンサルティングサービス」に対する請求書に基づくものだったということがあげられる。G氏は有期でコンサルティングサービスを提供していただけである。また、EPFの支払いも行っておらず、G氏から支払うように指示もなかったことから、G氏は従業員ではないと言える。

 

                   

<判決>

G氏がD社の従業員であったものとし、G氏は有期雇用契約を結んでいたものとする。また、満期になる前に契約を終了した理由が、契約終了通知に記載されていなかったことから、理由のない不当な解雇であると判断する。よって、以下の処罰を下す。

解雇された時点で、有期雇用契約の終了まで3ヶ月間あったため、月給の3か月分であるRM48,000を30日以内にG氏に支払うこと。

式) RM16,000 × 3か月分 = RM48,000

 

<裁判所の見解>

G氏が従業員だったのか否かを判断するにあたり、「コンサルタント」や”Contract of service”といった名目で判断するのではなく、D社とG氏の契約の中身で判断する。以下の3つの条件が満たされていれば、それは「雇用契約」としてみなす。

1)    仕事に従事している側が、賃金あるいはその他報酬を考慮し、雇い主側のために労働や技術を提供していると認める場合

2)    仕事に従事している側が、明示または黙示を問わず、もう一方の契約者を「雇用主」と呼ぶに十分なほど、サービスの業績について規制をうけていると認める場合

3)    その他の契約の条項が、雇用契約の内容と一致している場合

 

G氏とD社の契約書内にある以下の事項が、雇用契約の内容と一致しており、D社を十分に「雇用主」と呼べることから、G氏がD社の「従業員」であったことは明らかである。

・契約では、G氏はD社以外との取引を禁止されており、D社は、契約期間中、G氏のサービスを独占していた

・G氏は決まった就業時間(月~金の8:30~17:30)に従って働いていた

・G氏はCS/Commercial部門のDirectorへ報告しなければならなかった

・直属の上司または部門長から、業績について評価の対象となっていた

・D社が判断した仕事を適宜G氏に与えていた

・G氏は仕事をするためにノートパソコンを会社から支給されていた

 

会社側は、EPFを支払っていなかったことが従業員でないことのひとつの証拠だと主張しているが、EPFの支払いがあったか否かは重要ではない。EPFを支払うべきだったのか否かが重要である。EPFを払う必要はないという証拠は提出されなかった。

毎月の報酬について、G氏から請求書が出ていたというが、その請求書のフォーマットはD社のFinance部門から提供されていたものであり、その部門からG氏に、請求書を準備するよう指示があった。そのため、G氏は外部の「コンサルタント」ではなく「従業員」であったものとする。

 

契約終了通知には、満期になる前に契約を終了する理由が記載されていなかった。有期雇用契約にもかかわらず、期間満了前に解雇する際は、理由を記載しなければならない。理由がない場合は、理由のない解雇、すなわち不当な解雇と判断する。よって、本件はD社による不当解雇である。

 

<判決のポイント>

 今回の判例では、G氏が従業員かコンサルタントなのかを判断するにあたり、契約書の名前が”Contract FOR service”か”Contract OF service”かどうかではなく、その契約の中身が重視されました。裁判所が判断基準とする条件の2,3に特にあてはまったのが、以下の点かと考えられます。

 ・D社以外との取引を禁じられていた点

 ・就業時間が、8:30~17:30と決められていた点

 ・直属の上司または部門長から、業績について評価の対象となっていた点

 ・G氏は仕事をするためにノートパソコンを会社から支給されていた点

 

 これらについては、フルタイムでD社に従事することを強く暗示するものであります。この条件で働かせていたにも関わらず、「従業員ではなくコンサルタントである」と主張するのはとても難しいです。このような条件で働かせている場合は、雇用契約として契約を結び、労働法や就業規則にある規定に則って解雇の手続きをとる必要があります。雇用契約をどうしても結びたくない場合は、労働時間の制限などを制限せず、従業員とみなされないような文章を契約書に盛り込み、契約を結ぶ方がいいかと思います。

 また、有期雇用契約を結んでいる場合、正社員の解雇と同様に、基本的には契約期間の途中で解雇はできません。契約期間中に解雇する場合には、正当な理由が必要となり、その理由を解雇通知に明記しなければなりませんので、ご注意ください。

 

 

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