判例の紹介(1)

 

平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
東京コンサルティングファームの谷口で御座います。

今回は判例の紹介を致します。

 

<判決>

従業員Xは、Y社に1993年6月15日にHR Managerとして入社し、1994年1月27日には、Yグループ全体のHR Managerに昇進し、給与も7,870RM/Month受取ることとなった。その後、1994年11月1日にY社が組織再編をすることとなり、従業員Xは新たに任命されたVice HR Managerの下に組み込まれることとなった。業務内容は、Vice HR Managerに報告するという業務が新たに追加された点を除けば前役職と同じであった。この人事を従業員Xは、降格処分と考え、11月4日に会社再編による人事についての意見書をY社に提出し、11月15日には、自分で考えた新たな人事案をY社に提出した。しかし、Y社はもうすでに決まったことであり、設備が整っており、今までより大きな部屋を用意したのであるから決して降格処分ではないといい、取り合わなかった。1995年2月3日、この揉め事が発端で、従業員XはY社にいづらくなったとの理由で自主退職した。

 

<従業員側の主張>

自ら自主退職という形をとったが、Y社都合による降格をめぐり、もめたことによってY社に居づらくなったことが原因である。X自身は何回も歩み寄りを見せていたが、Y社は一向に取り合うこともなかった。本件は、Y社のみなし解雇であると主張する。

 

<会社側の主張>

会社の組織再編は、経済上仕方のないことである。また、業務内容は同じであるにもかかわらず、大きく設備の整った部屋を用意しており、また従業員Xはすぐに辞めたのではなく、その後何ヶ月か勤務を続けている。その少しの期間でも、彼は、新しい役職を理解して働いていたと考えており、決してみなし解雇事由には該当しないと主張する。

 

<判決の要旨>

本件はみなし解雇と認め、補償金として解雇日から遡った24ヶ月分の給与、勤続年数×月給を元従業員に支払うよう命じた。みなし解雇と判断した理由は、Vice HR Managerの下に入る前は、従業員Xが事実上のHRのトップであったが、この人事によって役職は変わらないが、従業員Xの上に上司ができたことにより、立場が変わっていることの証拠になり、降格とみなすことができる。また、従業員XがY社に対して、何回か歩み寄りの機会を設けようとしているにも関わらず、Y社は経済上の理由による組織再編を理由に断っている。それにより、従業員Xは会社に居づらくなり、自ら退職を申し出ている。これは、Y社の従業員Xに対する嫌がらせと受け取ることができ、みなし解雇の事由に該当すると考えられる。また、互いが歩み寄れる機会をY社自身が放棄していることも本判決を下す、大きな理由の一つである。

 

<判決のポイント>

本件のポイントは、給与のみならず立場の階層の変更の場合でもそれが降格とみなされる可能性があるということです。また、会社が歩み寄れる機会を自ら放棄したことも大きな原因とされています。その際に、従業員が自ら歩み寄り、妥協点を見つけようとしていたことも、みなし解雇と判断される大きな要因となったものと考えられます。
必ずしも意図的でない労働条件の変更の場合でも、使用者からの訴えには誠意をもって対応することが重要と言えます。

以上となります。

どうぞ引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。

 

 

 

東京コンサルティングファーム
谷口 翔悟

 

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