インドのインフレについて

インド駐在が始まり、5ヶ月が経とうとしています。ようやくインドの生活にもなれ、日々の生活でも驚きがなくなりつつあり、嬉しくもあり、寂しくもあります。ただ、物価の上昇率については信じられないくらいです。というのも、社宅の近くに行きつけのレストランがあるのですが、その値上がりのペースが速いのです。たったの5ヶ月で2回も値上がりしています。例えば、カルボナーラが275ルピーから325ルピーに上がり、フィッシュアンドチップスが295ルピーから370ルピーほどになっています。それもそのはず、インドの消費者物価指数は2010年を100として、110.4(8月18日現在)となっており、卸売物価指数は前年比9.78%と市場予想を超える伸び率となっています。これを見るとインドのインフレ圧力はとても強いように見えます。


インドのインフレ圧力を考える前に、今インドで起きている事象で経済に多大なインパクトを与えている要因を整理してみましょう。そして、インドのインフレ圧力について考えてみたいと思います。まずディマンドサイドにおいては、人口増加、所得の増加とりわけ農村部の所得の増加が考えられます。サプライサイドにおいては、インフラの未整備による流通や生産の非効率性が考えられます。


ディマンドサイドの人口増加については、人口増加による需要増加です。実際、インドの人口は毎年1000万人から1500万人のペースで増加しています。2026年には中国を抜いて世界一の人口になるとのことです。次に所得の増加ですが、農村部の所得増加が伸びています。シン政権下での全国農村雇用保障計画によって農村部の低所得者の受け取り賃金が2558億ルピーに達し、一世帯当たりで考えれば4869ルピーに達しています。これは、2005年の平均支出額の1.7カ月分に相当します。


一方、サプライサイドのインフラの未整備による流通や生産の非効率性とは簡単に言えば電力や道路網等の整備が遅れていることや、税制の複雑さにより効率的な供給ができないということです。一言でいえばビジネスコストが高いということです。駐在員の方にお話しを伺うと「インドは勝手が違う、すぐに停電するし道もぼこぼこで渋滞するし・・・」という不満を良く聞きます。税制については、直接の影響は無いかもしれませんが何か取引をしようと思えば事前にスキームを作り、税金のシミュレーションをしないと思わぬところで多大な税負担に見舞われることになりかねません。


このようなインパクトがどのようにインフレ圧力につながるかという点ですが、まずディマンドサイドについては一見すると経済発展に寄与し、良いインパクトを与えていると思われますが、超過需要が生じている状況下では物価上昇を売価に転嫁しやすく、それによってさらなる物価上昇を誘発してしまいます。また、所得の増加に伴う食生活の変化により、食製品全般の値上がりも懸念されます。ただ、私はインドの場合は、サプライサイドの問題の方がはるかに深刻だと思います。なぜなら、インド投資のメリットである旺盛な需要や所得拡大の影響を減殺しているからです。このような状況が続きインフレが高まり、それに伴うコスト高が無視できない影響を持つと外国直接投資が減少する可能性があるからです。実際インド向けの対内直接投資が減少傾向にあります。もちろんインフレだけの影響ではありませんが、インフレによる金利上昇、物価上昇によるコスト高が企業の投資意欲を下げていると思われます。


インド人の方とインド経済のお話しをすると「インド未来は明るい」と一様におっしゃいます。もちろんインドの今後の発展については期待するところは大きいのですが、サプライサイドの問題が解消されない限り、インド投資のメリットが逆にインフレを加速させるという奇妙な事態を引き起こしかねません。RBIは再三にわたり金利を引き上げていますが、それもあまり奏功していません。次回の金融政策決定会合は10月25日ですが、RBIの次の一手を注意深く見守る必要があります。

 

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