【2026年最新版】ベトナム人事労務完全ガイド労務費推移・最低賃金・社会保険・管理実務・ワークパーミットまで徹底解説

皆さん、こんにちは!
東京コンサルティンググループベトナム拠点の小瀬悠也です!

いつもブログをお読みいただきありがとうございます。

さて、今回は「2026年最新版】ベトナム人事労務完全ガイド労務費推移・最低賃金・社会保険・管理実務・ワークパーミットまで徹底解説」についてお話していこうと思います。

 

出所:ベトナム労働法(45/2019/QH14)・政令128/2025/NĐ-CP・改正社会保険法(36/2024/QH15)・東京コンサルティングファーム調査

 

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第1章 ベトナム労務費の推移と現状

 ベトナムの最低賃金は過去10年以上にわたり年平均8〜15%の速度で上昇してきた。かつての「安価な生産拠点」というイメージは大きく変化しており、日系企業の人事・経営担当者は最新の賃金動向を正確に把握することが不可欠である。

ベトナムの総人口は2024年末時点で1億人を超え、依然として増加傾向にある。平均年齢は30代前半と若く、「人口ボーナス期」が続いており、豊富で比較的安価な労働力が魅力であることは変わらない(出所:ベトナム統計局 GSO)。

 

1-1 最低賃金の年次推移(ハノイ・ホーチミン都市部/地域I)

 下表はベトナムが4地域区分を導入した2013年以降の地域I(ハノイ・ホーチミンなど都市部)の最低賃金推移である。政令128/2025/NĐ-CPにより2025年7月1日以降は地域区分がコミューンレベルに細分化された点に注意が必要だ。

 

適用年 月額最低賃金 (VND) 前年比 上昇率 参考 (USD換算) 根拠法令
2013年 2,350,000 約105$ 政令103/2012/NĐ-CP
2014年 2,700,000 +14.9% 約121$ 政令182/2013/NĐ-CP
2015年 3,100,000 +14.8% 約139$ 政令103/2014/NĐ-CP
2016年 3,500,000 +12.9% 約157$ 政令122/2015/NĐ-CP
2017年 3,750,000 +7.1% 約168$ 政令153/2016/NĐ-CP
2018年 3,980,000 +6.1% 約178$ 政令141/2017/NĐ-CP
2019年 4,180,000 +5.3% 約187$ 政令157/2018/NĐ-CP
2020年 4,420,000 +5.7% 約190$ 政令90/2019/NĐ-CP
2021年 4,420,000 ±0% 約192$ COVID-19により凍結
2022年 4,680,000 +6.0% 約197$ 政令38/2022/NĐ-CP
2023年 4,680,000 ±0% 約192$ 政令38/2022/NĐ-CP
2024年 4,960,000 +6.0% 約195$ 政令74/2024/NĐ-CP
2025年(7月〜) 4,960,000 +0%(予定) 約195$ 政令128/2025/NĐ-CP
2026年(予定) 約5,318,000 +7.2%(案) 約210$(推定) 国家賃金評議会提案

 

※ 地域区分:地域I=ハノイ・ホーチミン・ビンズオンなど主要都市部。地域IIIは地方都市部。2025年7月以降は政令128/2025/NĐ-CPによりコミューンレベルで区分変更。

※ USD換算:2024〜2025年はレート1USD=約25,400VND。2026年は推定値。

 

ここ10年の上昇トレンドを見ると、COVID-19禍の2021〜2023年に一時停滞した後、2022年・2024年と各6%引き上げが実施されている。国家賃金評議会は2026年1月施行を目指した7.2%引き上げ案を政府に提出しており(2025年7月現在)、承認されれば地域Iの最低賃金は月額約5,318,000VND(約210米ドル)に達する見通しだ。

 

1-2 職種別市場賃金水準(2025年実績)

 最低賃金はあくまで法的下限であり、実際の採用競争で提示される賃金水準は大きく上回る。下表は主要職種の一般的な総支給額(グロス)の目安である(出所:各種給与調査・求人データ、2025年)。

 

職種 月額総支給額(VND) USD換算(約) 主な特徴
ワーカー(一般工職) 800万〜1,100万 $320〜$440 手当込み水準。離職率高め
事務職(経理・人事等) 1,200万〜1,500万 $480〜$600 日本語・英語加算あり
IT系エンジニア(新卒) 1,500万〜2,000万 $600〜$800 人材不足で高騰傾向
ITエンジニア(中堅3〜5年) 3,000万超 $1,200超 転職市場での争奪激化
中間管理職(課長・部長) 4,000万〜7,000万 $1,600〜$2,800 外資系企業間で引き抜き多発

 

1-3 ASEAN主要都市との賃金比較

 JETRO(2025年市場調査データ参考)によれば、ベトナムはASEAN域内でもコスト競争力を有しているが、ミャンマーなど最低コスト国と比べると上昇傾向にある。

 

都市・国 ワーカー (USD/月) エンジニア (USD/月) 中間管理職 (USD/月) 最低賃金水準
ハノイ(ベトナム) $290 $550 $1,050 地域I:約$195
ホーチミン(ベトナム) $310 $585 $1,100 地域I:約$195
バンコク(タイ) $460 $825 $1,650 約$270
ジャカルタ(インドネシア) $430 $600 $1,275 約$285
マニラ(フィリピン) $290 $415 $1,125 約$240
クアラルンプール(マレーシア) $440 $875 $1,675 約$355
ヤンゴン(ミャンマー) $190 $335 $845 約$95
上海(中国) $685 $1,125 $1,950 約$540
シンガポール $1,950 $2,900 $4,400 約$1,800

 

ベトナムはASEAN域内では中間コスト帯に位置し、中国・タイ・インドネシアより依然として安価である。ただし昇給率(年6〜7%)はアジア最高水準の一つであり、中長期的なコスト試算には賃金上昇分を織り込む必要がある。

 

第2章 最低賃金制度の詳細

2-1 地域区分の仕組み

 ベトナムの最低賃金は4段階の「地域区分」に基づいて設定されている。従来は郡(県)レベルで区分されていたが、2025年7月1日施行の政令128/2025/NĐ-CPにより、コミューン(村・街区)レベルに細分化された。

 

地域区分 主な対象地域 2024年月額(VND) 2025年7月時点(VND)
地域I ハノイ、ホーチミン市、ビンズオン省、ドンナイ省、バリア=ブンタウ省など主要都市部 4,960,000 4,960,000
地域II ハノイ・ホーチミン近郊の一部地域、カントーなど地方主要都市 4,410,000 4,410,000
地域III 地方都市部 3,860,000 3,860,000
地域IV 農村・山岳地帯 3,450,000 3,450,000

 

※ コミューンレベルへの変更により、同一省内でも工業団地の所在コミューンによって適用区分が変わる可能性がある。自社工場・事務所の所在コミューンを確認し、最新の地域区分リストと照合することが必須。

 

2-2 最低賃金違反時のペナルティ

 最低賃金を下回る賃金を支払った場合、政令12/2022/NĐ-CPに基づき違反労働者数に応じた罰金が科される。軽微な違反でも組織に対して最低1,000万VND(約5万円)から、最大で1億VND(約50万円)超の罰金が科されるため、最低賃金の遵守は絶対条件だ。

 

第3章 社会保険制度と負担計算

3-1 強制保険の体系

 ベトナムの強制保険は「社会保険(SI)」「健康保険(HI)」「失業保険(UI)」の3種類で構成される。2025年7月1日に改正社会保険法(法律No.36/2024/QH15)が施行され、加入対象・給付内容が大幅に改定された。

 

保険種別 雇用者負担率 労働者負担率 合計 外国人加入義務
社会保険(SI) 17.5% 8.0% 25.5% あり(1年以上契約)
健康保険(HI) 3.0% 1.5% 4.5% あり(3ヶ月以上契約)
失業保険(UI) 1.0% 1.0% 2.0% なし(ベトナム人のみ)
合計(ベトナム人) 21.5% 10.5% 32.0%
合計(外国人) 20.5% 9.5% 30.0%

 

※ 出所:ベトナム社会保険法改正(36/2024/QH15)・JETRO。外国人は失業保険対象外のため合計は異なる。

※ 社会保険・健康保険の算定基礎賃金の上限:基礎賃金の20倍=36,000,000VND/月(2025年7月時点、基礎賃金1,800,000VND)。失業保険の上限:地域別最低賃金の20倍(地域I:99,200,000VND/月)。

 

3-2 社会保険料の計算例

【計算例①】ベトナム人ワーカー(月給1,000万VND)の社会保険料

 

項目 算定基礎(VND) 金額(VND) 負担者
社会保険(SI) 10,000,000 17.5% 1,750,000 雇用者
健康保険(HI) 10,000,000 3.0% 300,000 雇用者
失業保険(UI) 10,000,000 1.0% 100,000 雇用者
雇用者負担合計 21.5% 2,150,000 雇用者
社会保険(SI) 10,000,000 8.0% 800,000 労働者
健康保険(HI) 10,000,000 1.5% 150,000 労働者
失業保険(UI) 10,000,000 1.0% 100,000 労働者
労働者負担合計 10.5% 1,050,000 労働者
労使合計 32.0% 3,200,000

 

【計算例②】ベトナム人中間管理職(月給5,000万VND)の場合

月給が社会保険の算定上限(36,000,000VND)を超えるため、社会保険・健康保険料は上限額36,000,000VNDを基に計算する。

 

項目 算定基礎(VND) 金額(VND) 備考
社会保険(SI)雇用者 36,000,000 17.5% 6,300,000 上限額適用
健康保険(HI)雇用者 36,000,000 3.0% 1,080,000 上限額適用
失業保険(UI)雇用者 50,000,000 1.0% 500,000 失業保険は上限異なる
雇用者負担合計 7,880,000
労働者負担合計 3,940,000 同率計算

 

※ 社会保険・健康保険の上限:基礎賃金(1,800,000VND)×20倍=36,000,000VND(2025年7月時点)。失業保険の上限:地域I最低賃金(4,960,000VND)×20倍=99,200,000VND。

 

3-3 社会保険未加入・未納のリスク

 社会保険料の意図的な支払回避は、政令12/2022/NĐ-CPにより5,000万〜7,500万VND(約25〜38万円)の罰金対象となる。悪質な場合は刑事責任も問われうる。また未納の場合は未納総額の12〜15%相当の罰金と日率0.03%の延滞利息が加算されるため、適正な加入と納付が絶対に必要だ。

 

第4章 労務管理の基本

4-1 労働法体系

 ベトナムの労働法体系の中核は、2021年1月1日施行の改正労働法典(法律No.45/2019/QH14)である。2025年7月には改正労働組合法(法律No.60/2024/QH15)および改正社会保険法(法律No.36/2024/QH15)が施行され、外国人労働者も労働組合に参加可能となるなど、法的枠組みが一層強化された。

 

4-2 雇用契約の種類と留意点

 ベトナム労働法では雇用契約を「期間の定めのない契約」と「有期契約(最長36ヶ月)」に区分する。有期契約を2回継続した場合、3回目以降は「無期限契約」に自動移行する(第20条)。

 

契約種別 特徴 上限・注意点
無期限労働契約 期間の定めなし 解雇規制が厳格。解約予告が45日前必要
有期労働契約 最長36ヶ月 同一業務に2回まで。3回目は無期限に移行
試用期間 正式契約前の評価期間 管理職180日、専門職60日、一般30日、単純作業6日の上限あり

 

4-3 労働時間・休日・割増賃金

 ベトナムの法定労働時間は1日8時間、週48時間(第105条)。週40時間への段階移行を奨励する政府方針のもと、外資系企業では週40時間制導入が増えている。時間外労働の割増率は日本より高く設定されており、管理を怠ると罰則リスクが生じる。

 

時間外労働区分 割増率 備考
通常の労働日(時間外) 150%
週休日・祭日(時間外) 200%
法定祝日・有給中(時間外) 300%
深夜労働(22:00〜6:00) 130% 基本賃金に加算
平日・深夜時間外 210% 150%+深夜加算
休日・深夜時間外 260% 200%+深夜加算
祝日・深夜時間外 390% 300%+深夜加算

 

時間外労働の月上限は40時間、年上限は200時間(特別業務は年300時間まで)。上限超過時は労働者数に応じ最大7,500万VNDの罰金が科される。

 

4-4 就業規則の作成と登録

 常時10名以上の労働者を雇用する企業は、就業規則を文書で作成し、所轄の労働・傷病兵・社会問題局(DOLISA)に登録する義務がある(労働法典第118〜119条)。登録なしで就業規則を運用すると1,000万〜2,000万VNDの罰金となる。就業規則はベトナム語で作成しなければならず(日本語・英語の並記は可)、ベトナム語版のみが法的効力を持つ。

 

就業規則への必須記載事項(主要項目):

勤務時間と休憩時間

職場における秩序と安全衛生

セクシャルハラスメントの予防と防止

雇用者の資産・営業秘密・知的所有権の保護

労働規律違反行為と懲戒処分の種類

物的賠償責任

 

第5章 解雇規制と雇用終了

5-1 ベトナムの解雇規制の特徴

 ベトナムは社会主義国であり、労働者保護の原則が強い。解雇(一方的な契約解除)には厳格な要件が課されており、手続きの瑕疵があると無効解雇・損害賠償責任を負うリスクがある。

 

5-2 使用者からの一方的解雇が認められる事由(労働法典第36条)

労働者が繰り返し就業規則を違反し、懲戒処分を受けても改善しない場合

労働者が企業財産を窃取・横領・意図的に損傷させた場合

労働者が30日以上正当な理由なく無断欠勤した場合(12ヶ月で5日以上で計算)

懲戒解雇として「解雇」が科された場合

企業が構造的・技術的変更またはリストラを行う場合(手続き要件あり)

 

5-3 解雇禁止・制限のある労働者

業務上の傷病・疾病で治療中の労働者

妊娠中・産休中・育児休業中の女性労働者

使用者と協議・調停・訴訟が続行中の労働者

 

5-4 解雇手続と予告期間

契約種別 解雇予告期間 備考
無期限労働契約 最低45日前 書面による通知必須
有期労働契約(12ヶ月超〜36ヶ月) 最低30日前 書面による通知必須
有期労働契約(12ヶ月以内) 最低3営業日前 書面による通知必須

 

5-5 退職金(勤続手当)

 労働者が12ヶ月以上継続勤務した後に退職・解雇される場合、使用者は「勤続手当(退職手当)」を支払わなければならない。2009年1月1日以前の勤続期間については、各年について平均賃金の半月分が算定基礎となる(2009年以降の期間は社会保険でカバー)。

 

第6章 人事制度設計のポイント

6-1 賃金体系設計

 ベトナムの賃金体系は「基本給+諸手当」で構成するのが一般的だ。社会保険料の算定基礎は雇用契約書記載の基本給に基づくため、手当の設計が労務コストに直結する。

 

実務上よく用いられる手当の種類と社会保険適用の関係:

手当種別 主な内容 社会保険算定基礎への算入
技能手当 日本語能力・専門技術保有者への加算 原則算入(就業規則等で明確化要)
資格手当 会計・TOEIC等の資格保有者への加算 原則算入
危険手当 有害・危険作業従事者への法的義務手当 算入(現物支給も可)
食事手当 食事補助費用 業務費補填として定義すれば対象外になる場合あり
交通手当 通勤費補助 同上(明確な規定が必要)
携帯電話手当 業務用端末費用補助 業務経費であれば対象外になる場合あり

 

6-2 賞与設計

 現行労働法典(第104条)では賞与の支払義務は規定されておらず、支払の有無・金額は労使協議で決定できる。しかし市場慣行として「年1回・月給1ヶ月分以上(テト賞与)」が根強く、JETROの調査では日系企業の平均は1.2〜1.5ヶ月分程度とされている。人件費試算は「年収=月額給与×13ヶ月以上」で見込むのが現実的だ。

 

6-3 評価・昇給制度

 昇給は原則年1回実施される。決定要因は(1)消費者物価指数・インフレ率、(2)地域別最低賃金改定動向、(3)労働市場の需給状況、(4)個人の人事考課結果、(5)企業業績の5点を総合的に勘案するのが標準的だ。外資系企業では年間昇給率6〜7%が一般的(2025年実績)。

 

透明性の高い給与テーブル(賃金表)を就業規則に組み込み、昇給ルールを明文化することで、労務紛争のリスクを大幅に低減できる。

 

第7章 ベトナム語対応と社労士・専門家活用

7-1 労務関連ベトナム語対訳表

 以下は人事・労務管理において頻出するベトナム語専門用語の対訳一覧である。就業規則・雇用契約書作成、当局対応において活用されたい。

 

日本語 ベトナム語 英語(参考)
労働契約 Hợp đồng lao động Employment Contract
就業規則 Nội quy lao động Internal Labor Rules
最低賃金 Lương tối thiểu Minimum Wage
社会保険 Bảo hiểm xã hội (BHXH) Social Insurance
健康保険 Bảo hiểm y tế (BHYT) Health Insurance
失業保険 Bảo hiểm thất nghiệp (BHTN) Unemployment Insurance
労働許可証 Giấy phép lao động Work Permit
居住許可証 Thẻ tạm trú Residence Card
時間外労働 Làm thêm giờ Overtime Work
割増賃金 Lương làm thêm giờ Overtime Pay
年次有給休暇 Nghỉ phép năm Annual Leave
試用期間 Thời gian thử việc Probationary Period
懲戒処分 Xử lý kỷ luật lao động Disciplinary Action
解雇 Sa thải / Chấm dứt hợp đồng Dismissal / Termination
退職手当 Trợ cấp thôi việc Severance Pay
労働組合 Công đoàn Trade Union
労働紛争 Tranh chấp lao động Labor Dispute
賃金表(給与テーブル) Thang lương, bảng lương Salary Scale
有害・危険作業 Công việc nặng nhọc, độc hại Hazardous Work
労働・傷病兵・社会問題局 Sở Lao động – Thương binh và Xã hội (DOLISA) Department of Labor, Invalids and Social Affairs
国家賃金評議会 Hội đồng Tiền lương quốc gia National Wage Council
基礎賃金 Lương cơ sở Base Salary
地域別最低賃金 Lương tối thiểu vùng Regional Minimum Wage
雇用契約終了 Chấm dứt hợp đồng lao động Contract Termination
ワークパーミット免除 Miễn giấy phép lao động Work Permit Exemption

 

7-2 社労士・ベトナム語対応専門家の活用

 日本の社会保険労務士(社労士)は日本国内の労働・社会保険法を専門とするが、ベトナム労働法は対象外である。ベトナムでの労務管理には(1)ベトナム現地の弁護士・労務コンサルタント、(2)日本の社労士資格保有者でベトナム労務実務に精通したアドバイザー、(3)現地日系コンサルティングファームのいずれかを活用することが現実的だ。

 

特にベトナム語の就業規則・雇用契約書のドラフト、DOLISA登録・社会保険手続きの代行、ワークパーミット申請サポートなどは、現地コンサルタントへの委託が強く推奨される。

 

第8章 ワークパーミット(労働許可証)

8-1 取得要件

ベトナム国内で就業する外国人は原則として労働許可証(ワークパーミット、Giấy phép lao động)を取得しなければならない。取得は2段階プロセスとなっており、事前準備に相当の時間を要する。

 

プロセス 手続内容 所要期間の目安 申請先
ステップ1 外国人労働者雇用需要の承認申請(当該ポジションをベトナム人に15日間公募後に申請) 2〜4週間 所轄DOLISA
ステップ2 個別ワークパーミット発給申請(勤務開始15営業日前までに申請) 10営業日以内(書類整備後) 所轄DOLISA
合計目安 両ステップの合計。書類準備期間を含めると余裕をもって3ヶ月前から準備開始が望ましい 6〜12週間

 

8-2 主な対象職位と必要書類

 ワークパーミットが必要な主な職位:管理者・経営者(企業代表者・支店長等)、専門家(関連分野3年以上の実務経験+大学卒業または5年以上の経験+資格)、技術者(専門訓練1年以上+3年以上の実務経験)。

 

主な必要書類(外国発行書類は公証・領事認証+ベトナム語翻訳が必要):

労働許可証発給申請書

外国人雇用需要の承認書(ステップ1で取得)

健康診断書(指定医療機関発行)

無犯罪証明書

パスポート認証謄本

専門家・管理者であることを証明する書類(大学卒業証明書、職務経歴書、任命書等)

カラー写真

 

8-3 有効期間と費用

 ワークパーミットの有効期間は最長2年。期間満了後の継続には1回のみ2年延長が可能。延長後は再度新規申請が必要となる。手数料は新規発行40万VND、延長25万VND、再発行30万VND(書類整備以外のコンサル費用は別途)。

 

8-4 免除対象者(主なケース)

有限会社の所有者または株式会社取締役会メンバー

ベトナム人と結婚しベトナムに居住する外国人

同一グループ内で12ヶ月以上海外勤務後に赴任する専門家・管理者(企業内転勤)

1回の入国が30日未満かつ年間合計90日以下の販売・サービス提供者

※ 免除対象であっても、多くの場合は所轄当局への「免除確認手続き」が必要。確認なしでの就業は違法となるリスクがある。

 

第9章 労務トラブル事例と対策

9-1 日系企業でよく発生するトラブル事例

 

事例①【最低賃金改定の反映漏れ】

状況:2024年7月の最低賃金改定(+6%)を見落とし、旧水準の賃金を4ヶ月間支払い続けた製造業A社。 結果:従業員から労働局に申告が入り、未払い差額の全額遡及払いに加え、行政罰金が科された。対応策:最低賃金改定時期(毎年7月1日)のカレンダーアラート設定と、給与計算システムへの即日反映フローを確立すること。

 

事例②【就業規則未登録による罰金】

状況:ベトナム現地法人設立後、従業員が15名に増加したにもかかわらず就業規則のDOLISA登録を失念したIT系B社。 結果:労働監督局の定期検査で発覚し、1,500万VNDの罰金。対応策:従業員10名到達前に就業規則を整備・ベトナム語版を作成しDOLISAに登録する。

 

事例③【試用期間の上限超過と雇用関係の紛争】

状況:専門職(大卒)に対して90日の試用期間を設定したC社。法定上限の60日を超過していた。 結果:従業員から60日経過後の雇用継続を求める申し立てが発生。試用期間設定が無効と判断され、正式な雇用契約が成立していたとみなされた。対応策:職位ごとの試用期間上限(管理職180日、専門職60日、一般職30日、単純作業6日)を厳守する。

 

事例④【社会保険料を給与から過剰控除】

状況:「ネット契約(手取り保証)」の認識で雇用していたにもかかわらず、グロス換算を誤り、本来雇用者負担であるべき分を労働者から控除していたD社。 結果:労働者が社会保険機関に申告。未納保険料の追徴と延滞利息を請求された。対応策:ネット契約(手取り保証)とグロス契約の違いを明確に理解し、社会保険料の算定を社内規定または外部専門家に確認してもらう体制を整備する。

 

事例⑤【ワークパーミット未取得での就業】

状況:準備が間に合わず、ワークパーミット取得前に日本人駐在員を業務に就かせたE社。 結果:当局の確認により就業停止命令。駐在員は一時帰国を余儀なくされ、取引先との商談に支障が生じた。対応策:赴任予定の3ヶ月以上前からワークパーミット取得準備を開始し、取得確認後に業務を開始する。

 

事例⑥【解雇手続きの瑕疵による無効解雇】

状況:無断欠勤が続く従業員を「口頭での解雇通知」で処理しようとしたF社。 結果:書面による解雇通知・懲戒手続きを経ていないとして、従業員から労働仲裁に申し立て。無効解雇と判断され、未払い賃金の遡及支払いと損害賠償が命じられた。対応策:解雇には書面での予告通知・懲戒手続きの遵守が絶対条件。自己判断での口頭解雇は厳禁。

 

第9章 別紙 労務管理実務チェックリスト

【進出前・設立時チェックリスト】

 

チェック項目 確認内容 完了
地域区分の確認 自社工場・事務所所在コミューンの最低賃金地域区分を確認(政令128/2025/NĐ-CP)
就業規則の作成 ベトナム語版を作成・従業員10名到達前にDOLISA登録を完了
雇用契約書のひな形整備 職種別・職位別のひな形作成。グロス額を明記
社会保険加入手続き ベトナム人採用後速やかに所轄社会保険機関に届出
ワークパーミット取得準備 赴任予定の3ヶ月以上前から準備開始。書類リストを確認
給与テーブル(賃金表)作成 職位別賃金テーブルを就業規則に組み込む
時間外労働管理体制構築 月40時間・年200時間上限の管理システム整備
法定祝日カレンダー設定 年11日の法定祝日と振替休日の管理

 

【毎年実施チェックリスト】

 

チェック項目 実施時期 完了
最低賃金改定の反映 毎年7月1日施行。6月中に改定内容確認・給与システム更新
社会保険料率・算定基礎の確認 法改正・基礎賃金改定があれば即時反映
ワークパーミットの有効期限管理 期限3ヶ月前から延長準備開始
就業規則の改定確認 労働法改正に合わせて就業規則を見直し・再登録
テト賞与の支給計画 1月末〜2月初旬のテト前までに支給スケジュール確定
年次有給休暇の消化状況確認 残有給の買い取り義務対応。退職者の有給精算
労働安全衛生教育 年1回以上の法定安全衛生研修の実施と記録保存

 

第10章 よくある質問(FAQ)

 

Q1. ベトナムの最低賃金は毎年変わるのか?

A. 必ずしも毎年ではないが、近年は概ね1〜2年ごとに改定されている(2021〜2023年はCOVID-19の影響で凍結)。2024年7月に+6%改定が実施され、2026年1月の+7.2%引き上げが国家賃金評議会より提案中(2025年7月現在)。毎年7月1日前後の政府発表に注意が必要だ。

 

Q2. 社会保険料の会社負担率は何%か?

A. 2025年7月時点では、ベトナム人労働者に対して社会保険17.5%+健康保険3%+失業保険1%=合計21.5%が雇用者負担率である。外国人労働者の場合は失業保険が不要のため20.5%となる。算定基礎の上限(社会保険・健康保険:36,000,000VND/月)にも注意。

 

Q3. 外国人はベトナムの社会保険に加入しなければならないか?

A. 2018年12月1日以降、労働許可証を保有し1年以上の労働契約を締結している外国人はベトナムの社会保険(年金・疾病・労働災害等)および健康保険への加入が義務付けられている。ただし失業保険はベトナム人のみ対象。

 

Q4. ワークパーミット取得にはどのくらいの時間がかかるか?

A. 書類が全て揃っている場合、申請から発給まで10営業日以内が法定だが、書類準備・事前承認プロセスも含めると実際は6〜12週間を要することが多い。日本人赴任の場合は赴任予定日の3ヶ月以上前に準備を開始することを強く推奨する。

 

Q5. 就業規則のDOLISA登録は必ず必要か?

A. 常時10名以上の労働者を雇用する企業では法的義務である。未登録の場合は1,000万〜2,000万VNDの罰金が科される。なお就業規則はベトナム語で作成しなければならず、日本語版との双言語作成が一般的だが法的効力を持つのはベトナム語版のみ。

 

Q6. テト賞与は法律で義務付けられているか?

A. 現行の労働法典(第104条)では賞与支払いの法的義務はない。ただし市場慣行として月給1ヶ月分以上のテト賞与が一般的であり、支払わないと従業員の士気低下・離職に直結するリスクが高い。採用時点での明確な説明と就業規則への記載が推奨される。

 

Q7. 有期契約を何度も更新し続けることはできるか?

A. 有期契約(最長36ヶ月)は同一業務・同一当事者間で2回まで更新可能。3回目以降は「無期限労働契約」に自動移行するため、同一従業員を有期契約のまま継続雇用し続けることはできない(2019年労働法典第20条)。

 

Q8. ベトナム語ができない日本人管理職が現地労務管理を担当できるか?

A. 言語上の制約はあるが、現地ベトナム人スタッフ(人事・総務担当)の配置と現地専門家・コンサルタントの活用により対応は可能。ただし就業規則・雇用契約書・当局宛文書は全てベトナム語が正本となるため、翻訳の正確性確認と現地専門家との連携体制構築が必須。

 

Q9. 解雇した従業員が労働仲裁に持ち込んだ場合、どう対応すべきか?

A. ベトナムの労働紛争解決は「労働仲裁→労働裁判所」の順で進む。解雇の有効性が争われる場合、書面による予告通知・懲戒手続きの記録が最も重要な証拠となる。解雇前に現地の弁護士・労務専門家にプロセスを確認し、全ての手続きを書面で記録・保存することが不可欠。

 

Q10. 2025年の改正労働組合法により何が変わったか?

A. 2025年7月1日施行の改正労働組合法(法律No.60/2024/QH15)により、外国人労働者もベトナムの労働組合に参加することが可能となった。これにより、外国人を雇用する企業でも労使関係管理の重要性が高まった。労働組合との良好な関係構築と、組合代表との定期的な情報共有が求められる。

 

Q11. ネット契約(手取り保証)は法律上問題ないか?

A. ベトナムでは雇用契約書にはグロス(税・社会保険料控除前)の賃金額を記載することが求められる。ネット契約自体は禁止されていないが、ネット額からグロス額への換算方法は労働法により計算方式が定められており、これに従って個人所得税・社会保険料を計算する必要がある。誤った換算は社会保険料の不足徴収・過剰徴収につながるため、専門家への確認が必須。

 

Q12. 地方都市(ハノイ・ホーチミン以外)に工場を設置する場合、労務管理で特別に注意すべき点は?

A. 地方都市では(1)適用最低賃金区分の確認(2025年7月以降はコミューンレベルで変わる)、(2)工場周辺の労働市場賃金水準の調査(近隣工場との賃金競争)、(3)DOLISA担当官との関係構築、(4)採用チャネルの確保(求人サイト・工業団地内告知板等)、(5)日本語対応スタッフの確保困難への対策が特に重要となる。

 

まとめ:日系企業がとるべき労務管理戦略

本稿では2026年最新版として、ベトナム労務費の推移から最低賃金・社会保険・就業規則・解雇規制・ワークパーミット・トラブル事例・FAQまでを包括的に解説した。

 

ベトナムの労働法制は毎年のように改正が行われており、2025年7月には改正社会保険法・改正労働組合法という大きな法改正が施行された。ベトナム進出を検討・実行中の日系企業の経営者・人事責任者にとって、最新情報を継続的にキャッチアップし続けることは不可欠だ。

 

実務上の重要ポイントとして(1)最低賃金は毎年7月1日前後の改定に注意、(2)社会保険の適正加入と計算方法の正確な把握、(3)就業規則のベトナム語版作成とDOLISA登録、(4)ワークパーミット取得は3ヶ月以上前から準備、(5)解雇手続きは全て書面で記録保存、の5点を優先的に整備されることを強く推奨する。

 

ベトナム進出企業においては、現地の弁護士・労務コンサルタントとの継続的な連携体制を構築し、法令遵守と従業員との良好な関係構築を両立させることが、中長期的な事業成功の鍵となる。

 

 

【参考文献・一次情報源】

・ベトナム労働法典 No.45/2019/QH14(2021年1月1日施行)

・改正社会保険法 No.36/2024/QH15(2025年7月1日施行)

・改正労働組合法 No.60/2024/QH15(2025年7月1日施行)

・政令128/2025/NĐ-CP(2025年7月1日施行・最低賃金地域区分改定)

・政令74/2024/NĐ-CP(2024年7月施行・最低賃金改定)

・政令12/2022/NĐ-CP(労働違反罰則規定)

・政令70/2023/ND-CP(外国人労働者雇用規制)

・ベトナム統計局(GSO)人口・労働力統計2022〜2024

・JETRO アジア・オセアニア投資関連コスト調査(2025年)

・国家賃金評議会 2026年最低賃金改定提案(2025年7月時点)

・東京コンサルティングファーム ベトナム黒本(設立・会社法・会計・労務編)2024〜2025年版

 

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