グローバル生産拠点としてのタイ

今回は「グローバル生産拠点としてのタイ」というテーマでお話します。

JBIC2016年度海外直接投資アンケートによると、投資先としてのタイの有望理由として、「第三国輸出拠点として」「組立メーカーへの供給拠点として」を20%以上の企業が挙げています。特に「第 三国輸出拠点として」は、安定的なタイの魅力として認識されています。

日系企業、地場産業を合わせて高度な産業集積が発達しているため、原材料、部品調達が容易であること、製造拠点のネックになりやすいインフラ環境が整っていることなどが大きな要因となり、また外資優遇政策や、インドと先行してFTAを結ぶなど、生産拠点を置くのに適した環境が整えられているといえます。 近年、日本企業のタイの捉え方が変化してきています。その顕著な例が2010年にみられました。日産自動車が、日本国内市場向けの小型車「マーチ」をタイで生産すると決定しました。これは、日 本企業が自国市場に逆輸出する日本車を国外で生産する初めてのケー スです。

このように、日本メーカーは、タイのことを、東南アジアの5億 5,000万人の人々に製品を供給する前線基地としてだけでなく、日本のほか、中国やインドといった巨大な成長市場向けに、製品を輸出する出発拠点としてみなすようになってきています。

[輸出拠点として最適な立地と充実したインフラ]
タイは、東南アジアの中心、インドシナ半島のほぼ中央(北緯5~ 21度・東経97~106度)に位置し、西と北にミャンマー、北東にラオス、東にカンボジア、南にマレーシアと国境を接していることにより、中国とインドの2カ国への玄関口にもなっています。未発達なインフラ、労働力の質、税制など不透明な制度が原因で、インドに新たな製造拠点を築くことにまだ躊躇している日本メーカーはまだ多く ありますが、タイはインドへの入り口として最適な拠点であると位置付けられています。

[ASEAN 自由貿易地域(AFTA)の効果]
AFTAとは、“ASEAN Free Trade Area”の略で、日本語では 「ASEAN自由貿易地域」とも呼ばれ、1993年に発足したASEAN(東南アジア諸国連合)の自由貿易協定のことをいいます。加盟国人口の合計が5億人を超え、その将来的な方向性は、EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)に相当する自由経済(自由貿易)地域を作るという構想になっています。 AFTAでは、ASEAN域内で生産されたすべての産品(国防関連品目や文化財を除く)に係る関税障壁や非関税障壁を取り除くことによって、域内の貿易の自由化と活性化を図り、また域外からの直接投資と域内投資を促進し、そして域内産業の国際競争力を強化しようとしています。 2010年1月1日より、ASEANの原加盟国間の関税がほぼすべて の品目において撤廃されました。

タイ商務省がまとめた2016年の タイの輸出額は、前年比0.5%増の2,153億3,000万USドル、輸入 は3.9%減の1,946億7,000万USドルでした。貿易黒字は206億 6,000万USドル、国・地域別の輸出額は日本向けが205億6,000 万USドル(前年比2.5%増)、アメリカ245億USドル(同1.8%増)、欧州連合(EU)15カ国200億3,000万USドル(同1%増)、東南 アジア諸国連合(ASEAN)546億6,000万USドル(同0.9%減)、 中国238億1,000万USドル(同0.3%増)、香港114億7,000万 USドル(同3.1%減)となっています。主要品目は、ハードディス クドライブ(HDD)、自動車・部品等で、輸出対象国としては中国、 ASEAN各国向けが大幅な伸びをみせています。

この動きは、AFTA を中心として、日・タイをはじめとした二国間自由貿易協定等の始動 に伴う関税先行引下げを積極的に活用して、コスト引下げや企業単位 での効率的な生産を実現しようとする流れの拡大と、企業が投資先を 中国に一極集中するリスクを分散させる必要に迫られた面もあると思 われます。 AFTA導入後のバンコク日本商工会議所の調査によると、一部の企 業、とりわけ自動車、化学、鉄鋼といった重工業の企業は、特にイン ドへの玄関口としてタイに軸足を置くようになってきているといいます。港湾や道路網などの、周辺諸国と比較して充実したインフラと AFTAの相乗効果により、アジア地域向けの戦略的な輸出ハブにとどまらず、タイを世界市場に向けた輸出拠点として成長しています。

[高度な産業集積の形成]
タイは、ASEAN域内最大のエレクトロニクス産業、自動車産業の 生産拠点であり、また中国に次ぐ世界第2位の日系企業の集積国とな っています。このような背景には、タイの自動車産業の生産・国内販 売・輸出において、実に90%のシェアを日系メーカーが握っている という日本企業のタイへの古い進出の歴史があります。 タイでは、産業の基盤がほとんどない状況で自動車生産が開始され ました。そのため、日系完成車メーカーが、日本の部品メーカーの進 出や技術供与を促し、部品の現地調達を拡大させることで、現地にお ける産業集積(クラスター)が形成されてきました。

具体的には、まず市場の拡大を見込んだ新工場の建設や、消費者ニ ーズの変化に対応した新モデルの投入など、完成車メーカーの競争力 強化策に対応して多くの部品メーカーが進出しました。その後、グロ ーバリゼーションの中、中国などの競合に対しての競争力をつけるべく、タイ完成車メーカーが厳しい現地調達比率目標を達成するため1 次部品メーカーに進出を促しました。

その結果、進出した企業が、次の企業に進出を促すという集積サイ クルが生まれ、現在では3次・4次部品メーカーまで進出している状 態です。このような進出は付随するサービス会社の進出を後押しし、 高度な産業集積が形成され、容易な部品調達が可能となりました。 タイ自動車研究所の2010年7月調査によると、タイの自動車産業 には完成車メーカー13社、1次部品供給メーカー(Tier1)が635 社、2次および3次部品供給メーカー(Tier2&3)が1,700社存在し ています。完成車メーカーはすべて外資との合弁の形態を採用してい ます。

しかし、Tier1サプライヤーではタイ資本が過半を占める企業 の割合が53%で、Tier2&3サプライヤーの多くが地場資本となって います。 ここでは、自動車産業を例に挙げ解説しましたが、電器産業の集積 も同様の流れで、他国と比較して高度な産業集積が形成されています。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。

なお、本記事は2019年9月時点の内容となっております。最新情報やより詳細な情報は弊社サービスのWiki Investmentをご利用頂きたいと思います。Wiki Investmentへの登録は、下記のリンクからお願い致します。

 

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2019-10-23

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