過去には解雇し放題だった期間こそあれ、従業員の権利が少しずつ保護されてきているシンガポール、今現在、給与を下げるのは容易ではありません。
しかし、コロナウイルス(COVID-19)の影響もあって、シンガポールでも企業が従業員を働かせられない状況が続いています。
シンガポール政府のこれでもかという助成金を組み入れても、なお余りある資金難は、給与を支給しなければならない従業員を多く抱える業界であればあるほど、深刻な打撃を与えています。
今回は、シンガポールで給与の調節に関して考え得る選択肢を簡単にまとめてお伝えします。
目次
まずは立場の区別から
国内で働く労働人口をとっても、外国人がその4割を占めるシンガポールでは、その内訳は多種多様です。
しかし、給与をどのように調整すべきか、という観点からは、大きく以下のように区分することができます。
1.シンガポール国籍/永住権保持者
シンガポール人(Singapore Citizen:SC)および永住権保持者の外国人(Permanent Resident:PR)はいずれもほぼ同じような待遇で雇用法等によりその権利が守られています。
このシンガポール国籍/永住権保持者(以下「SC/PR」)は給与体系に従って、更に二つに区分されます:
- 1A.フルタイムSC/PR
- 1B.パートタイムSC/PR
この2者の区別は契約の形態とも言えますが、雇用法上では週単位の平均労働時間が35時間以上であればフルタイム、35時間未満をパートタイムとして、後者の給与を時給計算で行うこととする点に大きな違いがあります。
2.外国人人材
上記PR以外の外国人は、いずれも長期滞在許可として就労許可などを取得して働いていなければなりません。
就労許可には給与所得の高い順からEP、Sパス、ワークパーミット(Work Permit)、LOC(配偶者パス保持者等の就労許可)などいくつか種類がありますが、原則としてシンガポール国内では獲得することのできない技能やノウハウを有した人材のみを働かせるという方針が打ち出されています。
このため、就労許可の申請時に月額給与所得を申告しており、外国人人材には上記1B.のようなパートタイムでの雇用は原則あり得ません。
従って、以下では主に1A.フルタイムSC/PR、1B.パートタイムSC/PR、2.外国人人材の3つについて適宜場合分けをして説明します。
そもそも給与はどう決定される?
給与を変更する権利は、通常企業にあると理解されがちですが、シンガポールの法律上、給与は雇用者と従業員双方の合意(Contract of service)によって定められる事項とされています。
具体的には、多くの場合取り交わされる雇用契約書(Letter of Appointment:LOA)に記載された計算方法に基づき、月や週、日などの期間、または時間数によって定められます。
なお、シンガポールの法律上、双方の合意により定められていない事項は、雇用法の記載に従うか、都度合意してこれを定めるものとされています。
減給も合意すればOK?
上記給与金額の決定方法に準じ、減給する方法もまた合意によって定められる事項となりますが、シンガポールでも基本的には従業員側が無給休暇(Unpaid leave)を取得すると減給になる、という理解が一般的であり、その無給休暇も特別な事情がなければ取得はさせない、つまり原則減給は行われない、というのが法の第一に想定する雇用関係と言えます。
しかし、実際には様々な事情で従業員が勤務できないことは起こり得ます。
また、従業員が雇用者・会社に通知することなく勝手に休暇を取得してしまう場合(Absence from work)も起こり得ます。
その際には、原則としては従業員が希望した場合に限って、雇用者との合意により無給休暇が与えられ、または無断で休暇を取得した結果として、当該休暇の期間分、日割り計算などで計算して減給が行われることになります。
ただし、このような給与の調整はSC/PRであれば問題ありませんが、外国人人材では人的資源省MOMへの通知と許可の取得が必要です。シンガポール政府としては、収入のない外国人が国内に滞在すること自体、あってはならないこととしているため、説明する事情によっては許可が下りないことも覚悟しなければなりません。
違反行為があれば減給可?
集団的雇用契約とされる就業規則(Employee Handbook)などでは、しばしば懲戒規定が設けられます。これは、従業員が会社の禁ずる違反を起こした際に、どのように処罰されるかを規定したものですが、その中に減給の対応を導入している企業もあります。
これは、MOMがそのサイト上でも公開している、一定限度の損害回復措置を許容するもので、従業員が会社のお金を着服する、会社の資産を損壊するなど、会社に金銭的に見積もられる損害を与えた場合に、一定程度までであれば従業員の給与から控除することを認めたものです。
具体的には、月額基本給の25%までは損害の補填や従業員貸付金返済のために控除が可能と定められています。それ以外に通常のCPF(~20%)などを合わせれば更に給与控除の金額は増加しますが、最大でも50%までしか控除してはならないと定められています。
ただし、従業員が退職する場合などはこの規定によらず、50%を超える給与控除が許されるとされています。
この規則はフルタイムかパートタイムかによらず、結果として月額支給される給与に対し、25%まで、50%まで、と規定するものであるため、パートタイムの従業員の勤務が少ない場合には、控除できる金額も減るため注意が必要です。
なお、この場合でも外国人人材の給与から控除する場合には、MOMへの通知が必要です。
仕事ができない場合はどうする?
従業員が雇用契約に書かれた職務が遂行できない状態の時、それが自然災害など、本人の責任でないのであれば、会社はできる限り雇用を維持することが求められます。
最も直接的に影響を受けるのは、契約上最低勤務時間の定めなくシフトで働く、パートタイムの従業員です。会社側は特に法的な手続きなく仕事をゼロにすることで、給与をなくすることができます。
もちろん、それ以外の従業員も、この先任せられる仕事がないという場合には、契約に基づいて行動すること自体ができないため、雇用者も雇用を解除することになります。
しかし、非常事態で一時的に職務遂行が難しくなるような場合には、以下のような方法で給与の調整が求められます:
- 年次休暇(Annual leave=有給休暇)を消化させる
- 年次休暇を前倒して使用させる(記録して復帰後の年次休暇から控除)
- 将来のみなし残業時間を増加させる(Flexible Work Schedule)
- 政府の助成金(Absentee Payroll Funding)の利用できる研修に参加させる
※以上はいずれも会社が普段通り給与を払い続けられるという条件下で実現が可能な施策です。
- 兼業を認めて自社の就労時間を減らす
- 労働組合(Union)で談合を行い、一定の日数無給休暇を発生させることで合意する
※以上は会社が実質的に負担する金額が減るものですが、従業員の合意を得ることが前提となります。
特にCOVID-19によるサーキットブレーカー措置を受けて、業務の遂行が不可能になった会社では、ローンを組んで資金調達を行い、従業員と話し合って合意し、一定の給与調整を行いながら回復するまで雇用を維持することが、国としてシンガポール政府から期待されていると言えます。
結果的にはその期待に副うことで補助金をより多く受け取ることになる可能性もあるため、企業には総合的な判断が求められます。
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株式会社東京コンサルティングファーム シンガポール法人
近藤貴政
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