OFW報道での違和感

こんにちは、フィリピン駐在員の井本です。

「比較」する機会に恵まれることは、駐在員生活の1つの魅力です。日本で報道され、そこから知り、感じることができる「主観」と、実際に現地で目にし、感じることができる「主観」とを比較し、気づいた「違和感」を伝えることができるように文書化する作業は大変難しいのですが、それもまた2つ以上の異なる国や文化圏を往来できる者の役目だと考えています。「違和感」はアイデアの芽であるからです。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、6月上旬に数日、日本へ一時帰国しました。次に紹介する番組にも登場した、Cebu Pacificのフィリピンへ戻る機体で、この原稿を書いています。私の日本帰国する直前にテレビ東京の「未来世紀ジパング」という番組でフィリピンのOFWについての放送がありましたので、録画を妻に依頼し、この機会に見ました。
OFWがフィリピンの国家戦略であり、優秀で勤勉な若者が訓練され、海外を目指しているという論調でした。番組の最後には、「日本がこのような移民を受け入れれば、働き手が増えることで国内GDPも増えるし、フィリピンのOFWの方にも喜ばしいことである。そして、フィリピンへの海外送金が増え、Win-Winを生み出せる」という明るい未来をある新聞社の方の見解が結論として述べられました。

違和感を覚えました。

違和感の原因は、「フィリピンの方にとってベスト」とは思えず、ひどく日本へのWinを強調した意見なのではないだろうかと「感じた」からでした。

OFWになるフィリピンの方は自国や家族と離れて、出稼ぎにいくことに心理的なハードルがあるはずではないだろうか。自国で出稼ぎと同程度の所得があれば、何も家族と離れる選択肢をわざわざ選択するだろうか。
言い換えるのであれば、今は経済的便益(海外での所得獲得)と、心理的な安定(家族との生活)はトレードオフの関係であり、OFW各人が自らの価値観に応じて選択している。ただし、経済的便益の差がなくなったフィリピンであるならば、家族との関係を重要とする彼らの価値観としては、家族との生活を尊重するのではないだろうか。相手(フィリピンの方)の本当のWinは、経済的側面だけではなく、他の面からも考えなければならないのではなかろうか。そして、経済的便益の差をなくすことは、OFWの増大に寄与することだけではなく、むしろ出来ることであれば、フィリピン国内自体に雇用を生むことが経済的な側面と、心理的な側面、両方を満たす好ましい解決策ではないだろうか。もちろん、文化や歴史、他国の慣習を学びたいなど他のインセンティブがある場合は考えないという条件ではありますが。

「日本人」である私達にできることは、もちろん「自国の移民制度がひどく規制されている」ことに異を唱えるという方法もあります。しかし、この方法だけに固執することは「労働する方に来ていただく方法」であり、「私達日本人が物理的に動く」ことを前提として放棄しています。故に、私は日本のWinを強調していると感じたのです。極端に言うのであれば、フィリピンには、海外へ出ることしか選択肢を残さないままで、日本には海外へ出る選択肢と、残る選択肢の両方が準備されているシナリオが、私にそう感じさせたのです。

この「違和感」を取り除く案は、上述のように、フィリピン国内自体に雇用を生むことだと思うのですが、では、ただ雇用創出のために、事業展開をすればいいかといえばそれもまた、エゴイスティックだと思うのです。この点はまたの機会に述べることとします。

フィリピンで生活し、フィリピンの方と時間をともにする中で、単純化しすぎだと思いますが、「人はみな本質的には同じである」と感じます。そして、「不平等だ」とも感じます。

日本の駐在員の方が日本の家族と離れる気持ちと、フィリピンのOFWの方が家族と離れる気持ちに、差はないと思うのです。そして、平等な選択肢が生まれるようにすることが、原理原則であり、求められることであり、長期的なモデルになるのではないだろうかと感じたのです。

当社にお問合せいただく方や、このブログをご覧いただいている方は、「海外進出」=「コスト低減」を形にしようとされている方が多いと思います。そのような方に、コスト低減の視点だけではなく、別の視点もご紹介したかったので、この記事を投稿しました。つまり、双方のあらゆる側面からのWinを考え、どちらかに偏ることなく、双方のWinを実現に向けて動くことが、原理原則ではないだろうか、という問題提起をしたかったのです。

今回の投稿は私個人の「主観」によるところが大きいと思います。数ある情報の1つとして、このようは意見や見方もあるのだという、「違和感」「差異」をお伝えしました。

以上

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