メキシコにおける会社の清算について

経営

 

今回はメキシコにおける会社の清算についてお話します。

 

会社の清算とは、メキシコからの撤退又は法人成り等の組織変更をした場合に、現在メキシコに存在する現地法人(支店・駐在員事務所)の資産負債を清算し、会社の法人格を消滅(支店・駐在員事務所の場合はメキシコの事務所を閉鎖)させる手続です。

 

会社の清算手続は、各会社の定款と連邦民法、商事会社一般法の規定によって実行されます。ただし、関連する税制等にも注意する必要があります。
ここでは商事会社一般法に定める会社の解散・清算手続の概要を述べます。会社清算に関しては、商事会社一般法の10章および11章(229~249条)に書かれており、手続の概要は以下の通りです。

 

①解散・清算の事由 (商事会社一般法229条)
会社は、以下の事由が発生した場合に、解散することになります。
(イ)定款に定められた存続期間の満了
(ロ)会社の主たる事業目的の遂行不能、もしくは完了
(ハ)株主の合意(特別総会決議)
(二)法律に定められた株主数員数(2 名)の不足
(ホ)会社資本の 3 分の 2 の欠損

 

②解散・清算の手順
商事会社一般法に基づく解散・清算の手順は以下の通りです。
(イ)会社解散の取締役会および特別総会の招集
(ロ)会社解散の特別株主総会開催 (清算人の決定)※1
(ハ)解散および清算人の登記
(二)清算事務手続き開始
(ホ)清算事業年度貸借対照表の公告
(へ)清算事業年度貸借対照表の承認
(ト)残余財産の分配
(チ)清算人の保存の義務の履行
※会社解散の特別株主総会はスペイン語で、Asamblea General Extrardinaria de Accionistas de Disolucion といいます。

それではこれらの解散・清算の手順を1つずつ細かく見ていきますが、その前に事前準備として実施しておく事項があります。

 

<事前準備>
商事会社一般法に基づく解散・清算の手順は上記の通りですが、それらの手続を開始する前に事前の準備としてメキシコ移民局(INM)、社会保険庁(IMSS)、給与税(ISN)等の登録抹消を行う必要があります。
これらの手続きを完了させ以下のような具体的な商事会社一般法に基づく手順を進めていくことになります。

 

(イ)会社解散の取締役会および特別総会の招集
会社解散の特別株主総会の開催の前に、上記の解散事由が発生した段階で、取締役会を開催することになります。この取締役会において会社解散の特別株主総会の招集開催が決議され、それに基づき会社解散の特別株主総会の招集通知が発送(又は公告)されます。
この会社解散の特別株主総会の招集通知の発送(又は公告)は、当該特別株主総会開催の15日前までに行わなければなりません。

 

(ロ)会社解散の特別株主総会開催 (清算人の決定)
上記の招集通知の発送(又は公告)から15日以内に、会社解散の特別株主総会を開催します。
当該特別株主総会において、会社の解散の決定、清算人の任命(複数任命可)、その他必要事項を決議します。
この会社解散の特別株主総会については、通常の特別総会と同様に、発行済株式の75%を超える株式(議決権)の参加により、法的に開催が認められ、当該参加株式の過半数(50%超)の賛成により決議されます。

 

(ハ)解散および清算人の登記
上記の会社解散の特別株主総会の決議事項(解散の決定、清算人の任命等)は、公正証書化し、公証人によって登記が行われなければなりません。
この登記がなされることにより、会社の形態が清算会社へと変化することとなります。つまり営利活動を目的とした形態から、清算を目的とした形態へと変化するのです。清算を目的とする形態へと変化するために、会社の権利も取締役から清算人に移管されることになり、全ての帳簿類と資産が清算人に引き渡されます。
また、商事会社一般法233条には、この登記の後に新しい業務を開始してはならない旨が定められています。

 

(二)清算事務手続き開始
上記の登記により、通常の事業年度が終了し、清算事務年度が開始します。
清算事務年度においては、新たにビジネスは発生しませんが、現在の残余財産の分配を目的(残余財産の分配が目的であるので、清算貸借対照表を作成することが主目的)とし、清算貸借対照表の作成(資産の売却等)により、利益が発生した場合には税金の支払義務が発生することもあります。
清算貸借対照表の作成に伴い必要となる清算事務は以下の通りです。

【清算事務】
A)SATに対する開始通知(1月以内)
B)外資登録抹消(40日以内)
C)債権回収
D)債務弁済
E) 資産の売却
F)その他各種登録の抹消(RFCおよびRPPC:商業登記を除く)
G)清算損益計算書及び清算貸借対照表、清算申告書の作成

※登記の段階で全ての事業活動は終結しており、その後に新たに事業が始まることはありません。事業活動が終結するため、に全ての従業員の雇用関係の終了、退職金の支払いもこの時点で行うこととなります。

 

(ホ)清算事業年度貸借対照表の公告
清算人は、清算の目的となる残余財産の分配案を含めた当該清算事業年度貸借対照表を官報公告しなければならない(回数は3回で、10日間ごとに行う)。
最終公告日から15日の間に限り、残余財産の分配案に異議のある株主は清算人に対し、異議申し立てを行うことができます(異議申し立てがあった場合には、清算には再度残余財産の分配案を作成し、再度官報公告を行わなければなりません)。

 

(へ)清算事業年度貸借対照表の承認
上記の清算事業年度貸借対照表の官報公告が異議申し立てなく終了した場合には、会社清算の特別株主総会(上記の会社解散の特別株主総会は解散のためのもので、こちらは清算のための特別株主総会)を開催して、清算事務、清算最終貸借対照表(残余財産の分配案を含む)、その他必要な事項を決議する。
なお、決議事項は、上記の会社解散の特別株主総会と同様に、公正証書化し、登記を行います。
この段階で残余財産が確定するために、清算事業年度確定申告書をSATに提出(清算終了の通知および納税含む)し、RFCの登録を抹消することとなります。
また、RPPCについても、この登記の段階で、会社の法的な消滅が認められるために、自動的に抹消されることとなります。

 

(ト)残余財産の分配
清算特別株主総会の決議事項に基づいて、株主へ残余財産の分配が行われます。残余財産による株券の買い戻しの位置づけとなり、買い戻された株券に関しては清算人によって破棄されます。

 

(チ)清算人の保存の義務
清算人は清算完了から10年間、関連資料を保管しなければなりません。

 

③事業譲渡等による事業の売却
清算中に事業譲渡や合併などの方法によって、事業を他社に売却するという方法も選択できます。
ただし、事業譲渡の場合は売却した事業の対価が出資先のメキシコ内国会社に支払われるので、結局この資金を外国会社の株主に分配するためには、当該メキシコ内国会社を清算する等もう1ステップ手続が必要となります。
また、合併の場合にも合併存続会社の株式が割当てられるので、これを残余財産として分配するため、事業譲渡の場合と同様に、もう1ステップ手続が必要となります。
また、統合後の人事の重要性など事業譲渡や合併にはたくさんの不確定要素が伴いますので、社員の職業安定性の問題や合併後の社員のモラル低下を招く導く恐れがあるために注意が必要です。

 

④支店および駐在員事務所の閉鎖
メキシコにおいては、民法2736条に、「外国法人の存在、権利、機能、形態、解散、清算、合併等については、当該本国の法律が適用される」という原則が存在する以外に、支店および駐在員事務所の閉鎖に係る明文規定は存在しません。
そのためにメキシコにおける支店および駐在員事務所の閉鎖には、一般的に、次の(イ)~(ホ)の手続きが必要と考えられています。

【必要手続き】
(イ)本国の法制に従った支店および駐在員事務所の閉鎖決議の採択、閉鎖に係る代表者の任命等の決議、当該決議事項を本国において公正証書化
(ロ)一般業務の終了
(ハ)メキシコ経済省外資局へ閉鎖通知の提出および確証の入手
(二)閉鎖の確証を含ませるよう公正証書を編集
(ホ)登録の抹消

 

ただし、実務上の取り扱いとしては、この様な簡便な処理とならないことが多々ありますので注意が必要です。
特に支店の閉鎖に関しては、メキシコ内国法人と同様にメキシコ国内でビジネスを行っていますので、債権者の保護等の観点から、法人と同様の手続きを経て、支店が閉鎖される場合も多くあるようです。
そのためメキシコにおいて会社の清算を行う場合にはメキシコ現地の専門家指導の下、当局と折り合いをつけながら進めることが望ましいと言えます。てもらえればと思います。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。

なお、本記事は2019年12月時点の内容となっております。最新情報やより詳細な情報は弊社サービスのWiki Investmentをご利用頂きたいと思います。Wiki Investmentへの登録は、下記のリンクからお願い致します。

 

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