判例 3

皆様こんにちは。Tokyo Consulting Firm Sdn. Bhd.の佐藤です。

今回も引き続き、過去に発生した裁判を解説していきます。

今後は判例だけでなく、雇用法の開設も行っていこうと考えております。

 

<概要>

H氏は2006年12月15日にwaiter cum Bar TenderとしてK社に雇用される。2015年4月16日から2015年5月9日までの間にK社はH氏の数々の違反行為に対して警告書を発行する。2015年4月17日に出された1つ目の警告書にはH氏の上司であるOperation Managerがコタキナバルへの異動を命じた際に反抗するような態度を取ったことに対して、2015年4月27日にはH氏が違法なストライキへの参加や扇動、他の者を違法行為へと扇動したとして2番目の警告書を発行する 。また同日、K社はH氏に対して警告書とは別に書面を発行しており、業務の質が会社の求めるものと合致しないため、2か月観測期間を行い、それでも改善が見られない場合は解雇すると伝える。2015年5月9日、他の従業員や上司に対する暴力行為、脅迫行為に対して3つ目の警告書を発行し、同日付けで解雇することを告げる。

H氏はこのことに対し、K社の行った解雇は合理的な理由のない解雇であり、不当解雇であるとしてK社を訴える。なお、H氏の最後に引き落とされた給与は4月分給与のRM610.00である。

 

<従業員の主張>

2015年4月17日、同年4月27日および同年5月9日にK社から出された警告書の内容について、H氏自身を訴えるような違法行為は発生していない。K社が発行した3つの警告書に記載されている内容はどれも詳細が説明されていないため、解雇を決定づけることはできず、H氏は最初に発行された2つの警告書によりすでに処罰されている。また解雇の本当の理由は違法行為によるものではなく、業務の改善が見られなかったからである。

K社は2012年の最低賃金命令に沿った額を支払っておらず、K社自身が違法行為を行っている。

これらの理由により、K社の行った解雇は正当な理由による解雇ではなく、不当解雇である。K社に対しては解雇される前の役職での復職、または復職をする代わりに賠償金の支払いを求める。

 

<会社の主張>

K社が2015年4月17日、同年4月27日および同年5月9日に発効した警告書に書かれている違法行為について、H氏がこのことが会社の規則を破っているという事実は明白である。H氏は警告書に指摘された一連の行為の詳細を知っているため、警告書でK社が詳細を述べる必要はない。

また、H氏は最後に受け取った給与がRM610であると主張しているが、K社はRM800を支払っている。

よって、K社の行った解雇は正当性があり、不当解雇ではない。

 

<判決>

本件はK社によるH氏への不当解雇とみなす。H氏をK社へと復職させることは両者の関係性を考え、適切ではないため賠償金の支払いをK社に命じる。  ① 賃金

賃金は最後に引き落とされた給与を基準とするが、24カ月を上限とする。

今回は17か月なので、全ての期間が該当する。また、基準となる月給はRM800とする。

RM800 × 17か月 = RM13,600.00

 ② 控除

解雇された後、月RM600.00のパートタイムを行っていることを考慮し、

①の合計金額より30%控除する。

RM13,600.00 - 30% = RM9,520

③ 賠償金

2006年12月15日から20015年5月9日まで8年間勤務していたことから

1年間を1か月として換算し、8か月分の給与を賠償金とする。なお、1か月分の給与はRM800とする。

RM800 × 8か月 = RM6,400.00

④合計額

① - ② + ③ = RM15,920

 

上記の合計金額から弁護士費用等を差し引いた残額を30日以内にH氏の代理人を通じてH氏に支払うこと。

 

<裁判所の見解>

労働裁判所において解雇を扱う際は①申し立てられた違法行為が確立されているか、②証明された行為が解雇の正当な理由となるか、この2点が判断の基準とされる。H氏の違法行為を証明し、それが解雇に該当することを説明する責任はK社側にある。

2015年5月9日にH氏が解雇されたのは明白な事実である。そのため、H氏は自身が警告書で何を指摘されたのか知る必要があり、違反行為の性質も知っておかなければならない。K社はH氏に対して適切な説明を行い、K氏が自身で説明責任を果たし、自身を弁護する機会を与えなければならない。K社の発行した警告書が不明確または不正確で、開示された情報の詳細が不明な場合、それは相手の信頼を裏切らず、誠意をもった行動をしていると判断することはできない。この原則に従い、K社はH氏に対して十分な明確性と確実性を持って伝えなければならない。また、この原則に従った場合、2015年5月9日に発行された3番目の警告書が最終的にH氏とK社との雇用関係を終了するものと判断する。その場合にK社が記載したH氏の行為は犯罪もしくは純犯罪にあたるため、特に2015年5月9日に発行された警告書に関しては時間、場所、および影響を受けた従業員の身元を確認し、H氏が自身を弁護できる準備期間を与える必要がある。警告書にはこれらのことが記載されていないため、書面自体が法的に適切ではない。裁判においては3番目の警告書に関する証拠が提出されたが、警告書内に書かれている事実を確認できないため証拠としての価値はない。

また、H氏が警告書に記載された一連の行為が会社の規則に違反していることを否定できないのは事実であるが、K社はH氏が一連の行為の詳細を知っていることを理由に警告書に詳細を書かないということを正当化することはできない。

本件において特に重要なことはH氏に出された書面の有効性である。有効性を持たせるためには時間、場所、身元についての項目はH氏に対して平等な情報を与えるとともに、たとえH氏が一連の詳細を知っていたとしても、K社は解雇の正当性を常に示さなければならない。

上記の原則に基づき、2015年5月9日に発行された3番目の警告書はH氏を解雇するには不十分であり、H氏の解雇は合理的な理由による解雇ではなく不当解雇となる。

 

<判決のポイント>

本件は警告書の有効性が争点となっています。先に記述しました通り、従業員が違法行為を行ったとして警告書を発行する場合、「いつ起きたどの行為に対する警告なのか」を詳細に書く必要が求められます。また、従業員の違法行為を証明し、それが解雇に該当することを証明する責任も会社側に発生しますので、解雇通知書や警告書をもって従業員に解雇を告げる際は、解雇の正当性を立証する責任が会社側にもあることをご注意ください。

 

それでは今週も頑張っていきましょう。

 

 

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