こんにちは。ベトナム進出・駐在員サポートを行っているハノイ拠点の小瀬です。

全3回でお届けしてまいりました2026年個人所得税(PIT)重要改定の解説シリーズ、最終回となる今回は、経理・財務のご担当者様向けに、日常の税務実務および特定の取引が生じた際に確認すべき論点を解説いたします。

シリーズ記事

Vol.2:手当・福利厚生の非課税枠の変更点(食事代・社宅・残業代・退職手当など)

Vol.3:経理・財務実務への影響(本記事)

1. 適用開始時期(再掲)

根拠法令は個人所得税法第109/2025/QH15号および政令第253/2026/NĐ-CP号です。

適用開始 対象となる規定
2026年1月1日
(2026年課税年度)
居住者の給与所得および事業所得に関する規定(食事代・昼食代を除く)
2026年7月1日 上記以外のすべての規定、および食事代・昼食代に関する規定

本記事で解説する項目は両方が混在しますので、各項目に記載の適用開始時期をご確認ください。

2. 外貨建て所得のベトナムドン換算レート基準の変更

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第17条/適用:2026年7月1日から

給与・賞与等を米ドル等の外貨で支給・受領している場合に、個人所得税を計算するためベトナムドン(VND)へ換算する際の適用レート基準が変更されます。

区分 2026年7月1日から 従来
ベトナム国内に
口座がある場合
個人が取引口座を開設している商業銀行、または所得を支払う法人・個人が支払用の口座を開設している商業銀行の買入レート(所得発生時点) 個人が取引口座を開設している銀行の実勢買入レート(所得発生時点)
ベトナム国内に
口座がない場合
ベトナム国家銀行の電子ポータルで公表されるVND対米ドルの中心レート、またはVNDと他の外貨とのクロスレート ベトコムバンクの買入レート(所得発生時点)。VNDとの為替レートがない通貨は、VNDとレートのある通貨を経由して換算

実務への影響

従来は個人の受取口座がある銀行のレートに限定されていましたが、支払側企業が使用する銀行の買入レートも選択できるようになります。外国人従業員が多数在籍する企業においては、従業員ごとに異なる銀行レートを確認する必要がなくなり、給与計算実務の効率化が期待されます。

3. 一時所得に対する10%源泉徴収の基準額が「1回500万VND」へ

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第50条2項/適用:2026年7月1日から

  • 新規定:労働契約を締結していない、または3か月未満の労働契約を締結している居住者に対して給与・賃金・報酬その他の支払いを行う場合、1回あたりの支払額が500万VND以上であるときに、支払前に10%の税率で源泉徴収を行います
  • 従来との違い:従来の基準額は1回あたり200万VNDでした。少額のスポット報酬に係る源泉徴収および支払手続の負担が大きく軽減されます
  • 500万VND未満の場合:本人からの要求がある場合にのみ源泉徴収を行います

実務上ご注意いただきたい点

新規定では、源泉徴収の対象に「労働契約を終了した労働者に対する支払いを含む」ことが明記されました。退職後に支給する賞与、インセンティブ、各種清算金等について、源泉徴収の要否を改めてご確認ください。

また、源泉徴収の対象となる所得のみを有し、扶養控除後の課税所得総額が納税を要する水準に達しないと見込まれる個人については、所定様式の誓約書を所得支払組織に提出することにより、一時的に源泉徴収を行わないことが認められます。

4. 任意退職年金・生命保険に係る控除限度額が「月額300万VND」へ

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第46条2項a号/適用:2026年課税年度から

  • 新規定:給与所得の課税所得を算定する際、社会保険法に基づく補足退職年金、任意退職年金および生命保険の保険料について、課税所得から控除できる上限額が月額300万VNDとなります
  • 控除上限の範囲:企業が労働者のために負担した金額と、労働者本人が負担した金額(ある場合)の合計に対する上限です
  • 従来との違い:旧政令第65/2013/NĐ-CP号における月額100万VNDから3倍に拡大されました。福利厚生の一環としてこれらの保険プログラムの導入を検討されている企業様にとって、追い風となる改定です

5. 資本譲渡課税の抜本的変更(M&A・持分譲渡実務に重大な影響)

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第10条、第52条〜第65条/適用:2026年7月1日から

(1)税額計算方法の一本化 ― 居住者・非居住者の区分が撤廃

区分 2026年7月1日から 従来
資本譲渡所得 居住者・非居住者に共通して適用
・取得価額および関連費用が確定できる場合:課税所得 × 20%
・取得価額および関連費用が確定できない場合:譲渡価額 × 2%
居住者・非居住者を区分
・居住者:課税所得 × 20%
・非居住者:譲渡価額 × 0.1%

非居住者による持分譲渡は税負担が大きく変わります

日本本社等の非居住者がベトナム子会社・関連会社の持分を譲渡する場合、従来は譲渡価額の0.1%の課税で完結していました。新規定では、取得価額および関連費用を証憑により確定できなければ、譲渡価額の2%が課税されます(従来の20倍)。確定できる場合は課税所得に対する20%課税となります。

出資時の払込証憑、株式・持分の取得価額を裏付ける資料、および取得に付随して発生した費用の証憑について、これまで以上に厳格な保管・整備が求められます。持分譲渡やグループ内再編をご予定の場合は、事前のご相談をお勧めいたします。

(2)課税対象となる場合の追加・明確化

  • 現物出資時の課税(第10条3項):法人の設立または増資のために、出資持分または有価証券をもって出資した場合に生じる所得が、資本譲渡所得として新たに明記されました
  • 不動産を伴う個人企業等の譲渡(第10条5項):個人がオーナーである個人企業または一人有限責任会社の全部を、不動産に付随する資本譲渡の形式で売却する場合、当該所得は資本譲渡所得ではなく不動産譲渡所得として区分されます

従来はこの2つの場合について具体的な指針がなく、所得の性質および納税義務の判定について実務上の取扱いが統一されていませんでした。

6. その他の所得区分に係る税率・課税最低基準額の変更

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第52条〜第65条/適用:2026年7月1日から

所得区分 2026年7月1日から 従来
投資所得 課税所得 × 5% 課税所得 × 5%(変更なし)
著作権所得 課税所得 × 5%
課税所得は2,000万VNDを超える部分
課税所得 × 5%
課税所得は1,000万VNDを超える部分
フランチャイズ所得 課税所得 × 10%
課税所得は2,000万VNDを超える部分
課税所得 × 5%
課税所得は1,000万VNDを超える部分
当選・相続・贈与
による所得
課税所得 × 10%
課税所得は2,000万VNDを超える部分
課税所得 × 10%
課税所得は1,000万VNDを超える部分

課税最低基準額はいずれも1,000万VNDから2,000万VNDへ引き上げられ、少額の所得は課税対象外となります。一方、フランチャイズ所得については税率が5%から10%へ引き上げられている点にご注意ください。

7. オープンエンド型ファンド受益証券の譲渡所得の非課税(新設)

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第43条/適用:2026年7月1日から

  • 証券関連法令に基づき設立されたオープンエンド型ファンドの受益証券について、購入日から2年以上保有した後に譲渡した場合、その譲渡所得は非課税となります
  • 2026年7月1日前に購入し、同日以後に譲渡する受益証券についても、購入日から2年以上保有していれば非課税の対象となります
  • 複数の時点で購入した受益証券を譲渡する場合、保有期間は先入先出(先に購入した受益証券から先に売却したものとみなす)の原則により判定します
  • 旧政令第65/2013/NĐ-CP号その他の従前の法令には規定のなかった、まったく新しい制度です

8. 新たに課税対象とされた「その他の所得」

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第16条/適用:2026年7月1日から

個人所得税法2025において新たに課税所得とされた項目について、政令第16条が具体的に規定しています。

  • ベトナム国別ドメイン「.vn」の譲渡所得:使用権を他の法人・個人に譲渡することにより得る所得
  • 温室効果ガス排出削減結果・カーボンクレジットの譲渡所得:ただし、当該結果・クレジットの交付または認定を受けた個人による初回の譲渡から生じる所得を除きます
  • オークションで落札した自動車ナンバープレートの譲渡所得
  • デジタル資産の譲渡所得:デジタル技術産業関連法令に定める仮想資産、暗号資産その他のデジタル資産

9. 社内イベント・コンテストの賞金・賞品の所得区分の変更

根拠:政令253/2026/NĐ-CP 第12条/適用:2026年7月1日から

  • 使用者が労働者向けに開催するコンテスト・イベントから生じる賞金・賞品(金銭によるもの、金銭によらないもの、有価証券による賞与を含む)は、「当選所得」ではなく給与所得として区分されます
  • 従来は主催者を問わず一律に「当選所得」とされていましたが、今回の改正で使用者が自社の労働者向けに開催する場合が除外されました。社内表彰、レクリエーション、周年行事等における金銭・現物の支給は、給与としての源泉徴収が必要となります
  • なお、カジノにおける当選所得を除くその他の当選所得については、引き続き「当選所得」として区分されます

既にご案内済みの項目について

医療費控除・教育費控除の新設、扶養家族の要件変更、および確定申告が不要となる場合の追加につきましては、本シリーズ Vol.1 および別途お送りした「Vol.1 訂正および補足のご案内」にて解説しております。あわせてご参照ください。

10. シリーズを終えるにあたって

全3回にわたり2026年個人所得税の主要な変更点を解説してまいりました。今回の改正は、税率構造の緩和、非課税枠の拡大、控除額の引上げなど、労働者・企業実務の双方にとって有利な方向の変更が多く含まれています。

一方で、各種の非課税措置や新設の控除(医療費・教育費控除、深夜・時間外労働の非課税など)の適用にあたっては、インボイスの保管、社内明細書の整備、規程の事前明文化など、税務調査を意識した厳格な事務管理が前提となります。

また、資本譲渡課税のように税負担が増加する項目や、社内イベントの賞金・賞品のように新たに源泉徴収が必要となる項目もございますので、あわせてご留意ください。

新規定への実務移行、各種手当・規程の見直し、給与計算システムの改修、持分譲渡に係る税務シミュレーション等につきましては、弊社専門コンサルタントがサポートいたします。お気軽に弊社窓口までお問い合わせください。

【参照・引用元】
  • 個人所得税法 第109/2025/QH15号
  • 政令第253/2026/NĐ-CP号(個人所得税法の施行政令)第10条・第12条・第16条・第17条・第43条・第46条・第50条・第52条〜第65条
  • 旧政令第65/2013/NĐ-CP号(従来規定)
  • 上記は執筆時点の情報に基づきます。法律・制度は変更される場合があります。
【免責事項】
本記事は、執筆時点(2026年7月29日)の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
また、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を行うものではありません。個別案件については、必ず専門家へご相談ください。
本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。