ベトナムに進出された日系企業のお客様から、非常に多くいただくご相談のひとつが「VAT(付加価値税)の還付」に関するものです。「輸出中心のビジネスなので、還付が受けられると聞いたのですが本当ですか?」「申請したのに、いつまで経っても入金されません……」といったお声を、毎月のようにお聞きしています。
VAT還付は、企業のキャッシュフローに直接影響する非常に重要な論点です。しかし日本の消費税還付とは実務が大きく異なるため、日本での常識のまま進めてしまうと、思わぬ資金繰りの悪化につながることもあります。今回は、そもそもVAT還付とは何かという基本から、実務上の留意点まで整理してご説明いたします。
1. ベトナムのVAT還付とは?(概要と仕組み)
ベトナムのVAT還付とは、仕入時に支払った付加価値税(インプットVAT)が売上に係る付加価値税(アウトプットVAT)を上回った際、その差額を国から現金で返還してもらう手続きのことです。
ベトナムのVATは、日本の消費税と基本的な考え方は同じです。企業は、売上に係るVAT(アウトプットVAT)から、仕入時に支払ったVAT(インプットVAT)を差し引いた金額を、月次または四半期ごとに申告・納付します。これを「控除方式」と呼び、日系企業ではほぼこの方式が採用されています。
ここで、インプットVATがアウトプットVATを上回った場合、その差額は「控除しきれなかったVAT」として残ります。この超過分について、一定の要件を満たす場合に国から現金で返してもらうのが「VAT還付」です。
ここが最初の分かれ道
ポイントは、控除しきれなかったVATがあれば自動的に返ってくるわけではない、という点です。ベトナムでは通常のVAT申告とは別に、還付申請という独立した手続きを行う必要があります。ここが日本の消費税と大きく異なります。
2. どのような場合に還付を受けられるのか
還付の対象となるケースは法令で限定列挙されていますが、日系企業で実際によく該当するのは、次の2つのパターンです。
- 輸出企業のケース
輸出売上に係るVATの税率は0%です。売上側でVATが発生しない一方、国内での仕入や経費にはVATがかかるため、構造的にインプットVATが溜まり続けます。控除しきれない金額が一定額(3億VND)以上となった場合に、還付申請が可能です。 - 新規・拡張投資プロジェクトのケース
工場建設や設備導入など、投資フェーズではまだ売上が立たない一方、多額のインプットVATが発生します。このような投資プロジェクトについても要件を満たせば還付の対象となります(※ただし改正法により、売上発生日等の完了定義や投資期間中の申請期限が厳格化されているため注意が必要です)。
逆に、国内販売のみを行っている一般的な商社や小売業では、通常はアウトプットVATが上回るため、還付の対象となる場面はほとんどありません。まずは自社のビジネスモデルが還付対象になり得るのか、ここを最初に確認することが大切です。
3. 還付を受けるための基本要件
還付申請の前提として、そもそもインプットVATが「控除できる」状態になっていなければなりません。基本となる要件は次の3点です。
第一に、自社(ベトナム法人名)宛の適格なVATインボイスを保有していること。宛名や税コードに誤りがあるだけで否認されてしまうため、受領時のチェックが欠かせません。
第二に、銀行送金等による非現金支払の証憑があること。従来は2,000万VND以上の取引のみが対象でしたが、2025年7月施行の改正により、VAT込み500万VND以上の支払いについて非現金支払証憑が必要とされています。少額取引の現金決済にもご注意ください。
第三に、輸出取引の場合は、輸出契約書や通関書類に加えて、梱包明細書、船荷証券といった証憑類の整備が求められます。改正により、この輸出関連の書類要件は明確に厳格化されています。
4. 実務上の最大の注意点は「時間」
ここが、日本の消費税還付との最も大きな違いです。日本であれば確定申告と同時に還付申請を行い、おおむね2か月程度で入金されます。一方ベトナムでは、審査に非常に長い時間を要するのが実情です。
実務上の傾向として、還付申請から実際に入金されるまでに要する期間は、案件によって大きく異なります。比較的短期間で完了することもあれば、年単位の時間を要するケースもあります。また、税務当局の審査基準や実務上の運用は地域によって異なる傾向があるため、他社の事例や過去の経験がそのまま自社に当てはまるとは限らない点も、ベトナム特有の難しさです。
資金計画上の注意
ベトナム法人の資金計画を立てる際は、「VAT還付でいずれ戻ってくるお金」を前提にした予算編成は避けるべきです。還付されるまでの期間は、その分の資金が事実上寝てしまうものとして、保守的に資金繰りを組んでおくことを強くおすすめしております。
5. 2025年7月施行の改正VAT法について
2024年11月に改正付加価値税法(第48/2024/QH15号)が可決され、2025年7月1日より施行されました。あわせて、実施細則を定める政令第181/2025/NĐ-CP号、手続の詳細を定める通達第69/2025/TT-BTC号が公布されています。
今回の改正は、従来の制度の不明確な部分を整理する一方で、還付申請の基準や必要書類をより厳格化する方向性が明確に打ち出されています。前述の非現金支払証憑の基準額の見直しや、輸出関連の証憑要件の追加は、いずれも控除・還付の濫用防止を目的としたものです。
つまり、還付を受けられる企業にとっては手続がより明確になった一方で、書類の不備に対する当局の目は今後さらに厳しくなると考えられます。日々の証憑管理の精度が、そのまま還付の成否に直結する時代になったと言えるでしょう。
まとめ
- VAT還付は自動的に受けられるものではなく、通常のVAT申告とは別に還付申請が必要です。
- 実際に還付対象となるのは、主に輸出企業と新規・拡張投資プロジェクトのケースです。
- 還付までに要する時間は日本と比べて圧倒的に長く、資金計画は保守的に組む必要があります。
VAT還付は、要件の判定から書類の整備、当局対応まで、実務の負担が非常に大きい分野です。「自社は還付対象になるのか」「申請したものの審査が進まない」といったお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。現地の運用実務を踏まえて、丁寧にサポートさせていただきます。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回もベトナムの実務に役立つ情報をお届けいたします。
本記事は、執筆時点(2026年8月6日)の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
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