皆様、こんにちは。ベトナムハノイ拠点の小瀬です。
全3回でお届けしております2026年個人所得税(PIT)重要改定の解説シリーズ、第2回となる今回は、日系企業の皆様の関心が高い「食事代、社宅、時間外手当、有給休暇の精算、退職手当など、従業員向け手当・福利厚生に係る非課税枠の変更点」を取り上げます。
今回の改正には、就業規則、賃金規程、さらには福利厚生制度の設計そのものを見直す契機となる内容が含まれております。
1. はじめに ― 適用開始時期の整理
本シリーズで解説する規定の根拠法令は、個人所得税法第109/2025/QH15号および同法の施行政令である政令第253/2026/NĐ-CP号です。適用開始時期は次のとおり整理されます。
| 適用開始 | 対象となる規定 |
|---|---|
| 2026年1月1日 (2026年課税年度) |
居住者の給与所得および事業所得に関する規定(食事代を除く) |
| 2026年7月1日 | 食事代・昼食代に関する規定(政令253号 第8条2項g号)、およびその他すべての規定 |
経過措置
2026年1月1日から6月30日までの間に旧規定に基づき申告・納付済みの給与所得については、月次・四半期の申告書を再提出する必要はなく、調整が必要な事項は2026年の年次確定申告時に行います。
実務上の留意点
本記事で解説する項目のうち、適用開始が2026年7月1日となるのは「1. 食事代」のみです。他の項目は2026年課税年度(1月1日)に遡って適用されます。
2. 食事代(食事手当)の非課税枠が「月額120万VND」へ
根拠:政令253/2026/NĐ-CP第8条2項g号/適用:2026年7月1日から
- 新規定:使用者が労働者に金銭で支給する食事代・昼食代は、1人あたり月額120万VNDまでが非課税となり、これを超える部分のみが課税所得に算入されます
- 現物支給の場合:企業が直接調理して提供する場合、弁当(食事)を購入して支給する場合、食券を支給する場合は、金額の多寡にかかわらず引き続き全額が課税所得に算入されません
- 従来との違い:2025年6月14日以前は通達第26/2016/TT-BLĐTBXH号に基づく月額73万VNDが基準でしたが、その後は企業の内部規程に適用されていました。今回の改正により、労働・賃金に関する法律を参照することなく、非課税となる支援額が月額120万VNDと明確に規定されました
3. 自社建設住宅に係る福利厚生(社宅ベネフィット)の非課税範囲の拡大
根拠:政令253/2026/NĐ-CP第8条2項h号/適用:2026年課税年度から
- 新規定:使用者が、自社で勤務する労働者のために建設した住宅から労働者が受ける利益については、電気代・水道代および付帯サービス費用を含め、その全額が労働者の課税所得に算入されません
- 従来との違い:従来は、工業団地・経済特区、または社会経済的に困難な地域・特に困難な地域に建設し無償で提供した住宅のみが対象でした。また、労働者が事業所内に居住する場合は、賃借料相当額または減価償却費に加え、使用面積に対応する電気・水道・その他サービス費用を課税所得に算入する必要がありました。今回の改正により、免税範囲が大幅に拡大されました
借上社宅のルールは据え置きです
企業が第三者から賃借した住宅の家賃・電気・水道・付帯サービス費用を代払いする場合の取扱いに変更はありません。実際の代払額を課税所得に算入しますが、家賃・電気水道・付帯サービス費用を含まない総課税所得の15%を上限とします。
4. 未消化の年次有給休暇に対する精算金の非課税化
根拠:政令253/2026/NĐ-CP第26条/適用:2026年課税年度から
- 新規定:労働者が年次有給休暇を消化しなかったことにより受け取る給与・賃金について、労働法第113条第3項の規定に基づく条件と支給水準を満たし、関連法を遵守している場合、課税所得に算入されません。これは従来と比較して完全に新しい規定です
- 法定水準を超える部分:企業が法で許可されている水準を超えて支払った超過部分は、労働者の課税所得に算入されなければなりません
5. 深夜労働・時間外労働(残業代)の非課税化
根拠:政令253/2026/NĐ-CP第26条/適用:2026年課税年度から
- 新規定:労働法上の条件および時間に関する規定に適合する、就業場所における深夜労働・時間外労働に対して支払われる給与・賃金は、免税されます
- 従来との違い:従来は、通常労働時間の賃金を超える差額部分(深夜・時間外労働による割増分)のみが非課税とされ、通常労働時間の賃金に相当する部分は課税所得に算入されていました。新規定では、労働法上の要件を満たす深夜・時間外労働から生じる給与・賃金の全額が課税所得に算入されなくなります
証憑の整備が必要です
本非課税の適用にあたり、所得支払組織は、就業場所における深夜・時間外労働の時間および実際に支払った深夜・時間外労働賃金を明確に反映した明細書(Bảng kê)を作成しなければなりません。
明細書がない場合は、労働契約書、タイムカード、給与明細、その他の合法的な資料が代替書類として含まれます。これらの資料は所得支払組織に保管し、税務機関の要求に応じて提示する必要があります。
6. 退職手当・失職手当の非課税範囲の拡大(法定超の支給も対象に)
根拠:政令253/2026/NĐ-CP第8条3項h号/適用:2026年課税年度から
- 新規定:企業が、財務規程、社内規程、労働契約または労働協約において、法令の定める水準を上回る退職手当・失職手当の支給水準を具体的に定めている場合、実際に支払われた法定超過部分も課税所得に算入されません
- 従来との違い:従来は、労働法および社会保険法に定める法定基準に沿った額のみが非課税対象でした
用語の整理
政令第8条3項h号が列挙する非課税対象は、法令の規定に基づく突発的困難手当、失業給付、退職手当(trợ cấp thôi việc)、失職手当(trợ cấp mất việc làm)です。
7. 外国人労働者の子女に係る学費の非課税要件の拡大
根拠:政令253/2026/NĐ-CP第8条4項/適用:2026年課税年度から
企業が労働者に代わって子女の学費を負担する場合の非課税要件について、範囲が拡大されました。新旧の条文は次のとおりです。
| 時期 | 条文 |
|---|---|
| 2026年1月1日から (政令253号 第8条4項) |
「ベトナムで就学する外国人労働者の子女、および国外で勤務するベトナム人労働者の国外で就学する子女に係る、幼稚園から高校までの学費で、使用者が代払いする(または労働者に支払う)もの」 |
| 2025年12月31日まで (通達111/2013/TT-BTC) |
「ベトナムで勤務する外国人労働者の子女でベトナムで就学するもの、および国外で勤務するベトナム人労働者の国外で就学する子女に係る、幼稚園から高校までの学費で、使用者が代払いするもの」 |
- 「ベトナムで勤務」要件の削除:旧規定は外国人労働者本人が「ベトナムで勤務している」ことを要件としていましたが、新規定ではこの条件が削除されました。外国人が必ずしもベトナムで働いている必要はなく、子女がベトナムで就学していればよいことになります
- 精算方法の追加:旧規定は使用者による代払い(直接支払い)が必要でしたが、現在は労働者に対する清算(支払い)も可能となりました
8. 労働組合財源から受け取る金銭・利益の非課税
根拠:政令253/2026/NĐ-CP第8条4項/適用:2026年課税年度から
- 新規定:労働組合法の規定に基づき労働組合財源から受け取る金銭および利益のうち、給与・賃金の性質を持たないものは、個人の課税所得に算入されません
- 意義:これは労働組合組織から支払われる支援金や福利厚生に対する税務上の取扱いメカニズムを明確にするための新しい規定です
本改定に伴う就業規則・賃金規程の見直し、社宅制度や退職金規程の設計、給与計算システムの改修など、実務面のサポートが必要な場合は、いつでもお気軽に弊社までご相談ください。
- 個人所得税法 第109/2025/QH15号
- 政令第253/2026/NĐ-CP号(個人所得税法の施行政令)
- 通達第26/2016/TT-BLĐTBXH号、通達111/2013/TT-BTC(いずれも従来規定)
- 上記は執筆時点の情報に基づきます。法律・制度は変更される場合があります。
本記事は、執筆時点(2026年7月22日)の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
また、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を行うものではありません。個別案件については、必ず専門家へご相談ください。
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