こんにちは。ベトナム拠点の清水です。

ベトナムに駐在員事務所を構えて活動を続けるなかで、現地での取引を本格化させたい、あるいは売上を計上できる体制に移行したいという理由から、駐在員事務所を法人へ切り替えたいというご相談をいただくことがあります。

しかし、ベトナムでは、駐在員事務所をそのまま法人へ切り替えるという手続きは、原則として存在しません。実務上は、既存の駐在員事務所を閉鎖したうえで、あらためて現地法人を新規に設立するという対応になります。

そのため、単純な名義変更や組織変更というよりも、二つの手続きを並行または順次で進めていくイメージになります。

駐在員事務所から法人へ移行する際の全体的な流れと、資産や従業員の移動、法定代表者の取り扱いなど、実務上、特に注意が必要となるポイントを前後編の2回に渡って解説します。

1. 「切り替え」という手続きは存在しない

まず前提として、駐在員事務所と法人は、ベトナムの制度上、まったく別の主体として扱われます。

項目 駐在員事務所 現地法人
目的・活動範囲 親会社の連絡・調整や市場調査などが目的。原則として直接的な営業活動や売上の計上はできない 事業活動や売上計上を行うことができる
根拠となる登録 駐在員事務所としての登録 投資登録証明書(IRC)および企業登録証明書(ERC)

この二つは、根拠となる登録も、税務上の取り扱いも、権利義務の主体も異なります。そのため、駐在員事務所の登録内容を書き換えて法人にする、というような「切り替え」の手続きは用意されていません。実際には、以下のように、二つの手続きを組み合わせて進めることになります。

  • 現地法人を新規に設立する
  • 駐在員事務所を閉鎖する

この二つを、どのような順序・スケジュールで進めるかが、移行を検討するうえでの最初のポイントになります。

2. 移行の全体的な流れ

駐在員事務所から法人への移行は、大きく分けて次の二つの進め方があります。

方法① 先に法人を設立し、その後で駐在員事務所を閉鎖する

一定期間、駐在員事務所と法人が並行して存在することになりますが、事業や契約の継続性を確保しやすいという利点があります。

方法② 先に駐在員事務所を閉鎖し、その後で法人を設立する

二重の維持コストを抑えられる一方で、閉鎖から設立までの間に活動の空白期間が生じる可能性があります。

ただし、駐在員事務所の閉鎖は一般的に非常に時間を要します。特に税務調査は担当官や状況によって数年単位で終わらないこともあるため、駐在員事務所の閉鎖を待ってから法人を設立する場合、法人の設立が予定よりもかなり遅れる可能性が生じます。

したがって、スケジュールを優先する場合は方法①を推奨します。

なお、駐在員事務所と法人を一定期間並行して運営する場合には、それぞれについて会計・税務・労務上の対応が必要となる点に注意が必要です。

3. 駐在員事務所の閉鎖手続き

駐在員事務所の閉鎖にあたっては、一般的に以下のような対応が必要となります。

  • 管轄当局への閉鎖の届出・ライセンスの返却
  • 税務上の清算(法人所得税・個人所得税などの申告・納税、税務コードの閉鎖)
  • 従業員との労働契約の終了に伴う手続き
  • 日本人駐在員の労働許可証(WP)・一時滞在カード(TRC)の返却手続き
  • 銀行口座の閉鎖、残高の送金
  • 保有資産の処分または移管

閉鎖手続きは前述のとおり、当局の対応状況や税務清算の進み方によって、想定よりも時間を要することがあります。特に税務清算は、過去の申告内容の確認を求められる場合もあるため、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。

4. 現地法人の新規設立

現地法人の設立自体は、通常の新規設立と同じ流れで進みます。一般的には、事業内容・資本金・法定代表者・オフィス住所などを整理したうえで、IRC、続いてERCを取得し、その後、会社印の作成、銀行口座開設、資本金送金、税務登録、電子インボイス登録などを進めていきます。

法人設立時に事前に決めておくべきポイントについては、こちらの記事(ベトナム法人設立時の注意点 ― 設立前に決めておくべきポイントを解説)で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

ここで特に意識しておきたいのは、既存の駐在員事務所で行っていた活動や、雇用している従業員、保有している資産を、新設する法人へどのように引き継ぐかという点です。これらは、法人設立の申請と並行して、早い段階から整理しておくことが望ましいといえます。

所長と法人代表者の兼務はできません

駐在員事務所の所長と法人の代表者は同一人物が兼務することができません。したがって、現地に駐在している駐在員事務所の所長がそのまま新法人の代表に就くことを想定している場合は注意が必要です。

5. 後編の予告

資産および従業員の移動、代表者の兼務不可については、後編で詳しく解説します。

弊社では法人および駐在員事務所の設立から、運営中のバックオフィス業務、そして閉鎖まで一気通貫してサポートしております。何かお困りごとがあればお気軽にお問い合わせください。

【参照・引用元】
  • 本記事は執筆時点におけるベトナムでの一般的な実務に基づく解説です。所要期間や必要な手続きは、当局の対応状況や個別の事情により異なります。
  • 上記は執筆時点の情報に基づきます。法律・制度は変更される場合があります。
【免責事項】
本記事は、執筆時点(2026年7月8日)の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
また、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を行うものではありません。個別案件については、必ず専門家へご相談ください。
本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。