労働争議関連の法に関して

労務

いつもお世話になっております。

東京コンサルティングファーム ミャンマー拠点の西野由花です。

前回のブログ記事ではストライキに関してご紹介しましたが、

一方で労働争議に関しては2014年に労働紛争解決法が制定されました。

 

これは1929年の労働紛争方を改正する形で制定された2012年の労働紛争解決法の改正となっています。法律の適用対象となる雇用者は労働紛争解決法2条によると、日雇い労働者、臨時労働者、豪業従事者、家事労働者、公務員及び見習いも含む他、労働紛争期間中に解雇されたものも含むとしています。

また、例外規定として国防に関わるミャンマー国軍には適用されない旨も明記されています。

 

この法律は雇用者もしくは雇用者組織と一名~複数の従業員もしくは労働組織との間の紛争の解決を目的とした法となっており、特に使用者と労働組織との間の職場における労働組織の認知や、雇用者と労働者間の関係に関する紛争である団体紛争(Collective Dispute)に特に焦点が当てられています。

一方、労働紛争解決法では団体紛争の対となる個別紛争(Individual Dispute) を既存の法や規則、合意に関連する雇用者と一名もしくは複数の従業員間における権利であると定義されています。

労使間で紛争が発生した場合、まず雇用者もしくは労働者が調停機関に申し立てをし、当該紛争が個別紛争かもしくは団体紛争かに分類をします。

調停機関により個別紛争と定義され、調停機関の和解案に不服がある場合、本人もしくは法的な代理人によって管轄の裁判官へ訴訟を提起することができます。(労働紛争解決法23条)

 

労働紛争解決法によると、労働紛争の解決に関しては4つの組織が存在します。団体労働紛争の解決は上記4つの組織を通じて行うこととなります。

 

 

目次

【労働紛争解決法に基づく組織構成】

・職場調整委員会

労働紛争解決法によると、30人以上の労働者が事業所にいる場合、雇用者は職場調整委員会というものを設置なければなりません。(労働紛争解決法3条)

この職場調整委員会は雇用者と労働者の間の良好な関係の促進や労働環境、福利厚生の改善などを目的として設立されます。労働者、労働組織もしくは雇用者の個人および代表により不平不満の申し立てがあった場合、申し立てを受け付けた日から公的な祝日を除いた5日以内に職場調整委員会により交渉と解決をすることが求められています。加えて、紛争が解決された場合、職場調整委員会は解決の記録を取り、その状況を関連する調停機関に規定に従い提出する義務があります。(労働紛争解決法6条)

 

職場調整委員会の構成は労働組織(any labour organization)の有無によって条件が異なり、以下の通りとなります。

空席が発生した場合は関係者からの依頼により補充されなければいけません。

 

  労働組織あり 労働組織なし
従業員代表 各組織より代表2名 代表2名(労働者から選挙により選出)
雇用者代表 上記代表と同数 2名

 

なお、労働者が30人未満の職場の場合職場調整委員会は設置されませんが、その場合に従業員から不平や不満がでた場合は労働紛争解決法7条に従い、雇用者が職場調整委員会の代わりに申し立てを受け付けてから公的な祝日を除く5日以内に交渉と解決を行い、記録の保持と調停機関への提出を行わなければなりません。

上記の不平不満に対する申し立てによる交渉が解決しない場合は、労働者及び雇用者は関連する調停機関に訴えることも可能となっています。

 

・調停機関

調停機関は管区、もしくは州政府により当該地区内のタウンシップに設置される組織となっており、以下のメンバーによって構成されます。(労働紛争解決法10条)

 

  概要 人数
(a) 関連する管区もしくは州によって任命された議長 1名
(b) 雇用者もしくは雇用者組織により選出された代表 3名
(c) 従業員もしくは労働組織により選出された代表 3名
(d) 関連のあるタウンシップレベルの部門代表者 1名
(e) 雇用者及び労働組織により認められた専門家(distinguished persons) 2名
(f) 省庁により義務を負った秘書 1名
  11名

 

 

・紛争解決仲裁機関

紛争解決仲裁機関は連邦政府の許可のもと、労働省により管区/州、及び政府の承認を得た自治管区又は自治地域において設置される組織となっており、以下のメンバーによって構成されます。(労働紛争解決法16条)

これらの設立期間は2年間です。(労働紛争解決法17条)

 

  概要 人数
(ⅰ) 関連ある管区/州政府により任命された議長 1名
(ⅱ) 雇用者組織により提出された候補者リストより選出されたもの 3名
(ⅲ) 労働者組織により選出された候補者リストより選出されたもの 3名
(ⅳ) 関連のある管区/州によって選出された部門代表者 1名
(ⅴ) 雇用者もしくは雇用者組織及び労働組織によって認められた専門家 2名
(ⅵ) 省庁により義務を負った秘書 1名
  11名

 

 

・紛争解決仲裁評議会

紛争解決仲裁評議会は連邦政府の許可のもと、労働省により設置される機関であり、

法律及び労働問題に精通した以下の15名の専門家によって形成されます。

 

  概要 人数
(a) 労働省により選出されたもの 5名
(b) 雇用者組織により提出された候補者リストより選出されたもの 5名
(c) 労働組織により提出された候補者リストより選出されたもの 5名
  15名

 

 

 

[団体紛争解決の手順]

労使間においてどちらか一方から不平不満の申し立てがあった場合に、申し立てを受け付けた日から公休日を除いた5日以内に職場調整委員会は交渉と解決をすることが求められています。(労働紛争解決法6条)

上記の不平不満に対する申し立てによる交渉が解決しない場合は、労働者及び雇用者は関連する調停機関に訴えることが可能です。

 

調停機関は申し立てを受け付けた場合、当該紛争が個別紛争もしくは団体紛争のいずれかに分類をします。当該紛争が団体紛争であった場合、調停機関は大臣、もしくは管区/州政府への通知を行い、団体紛争の認知日もしくは受理日から公休を除く3日以内に調停を行い両者の和解と合意をとります。(労働紛争解決法24条)

この段階で解決に至らなかった場合、調停機関は紛争関係者に対し通知を行い、この紛争を管轄の紛争解決仲裁機関に移送します。(労働紛争解決法25条)

この移送は公休日を除いた2日以内に和解に至らなかった事実やサマリーレポートの提出と共に行われます。(労働紛争解決法26条)

 

調停機関より移送を受けた紛争解決仲裁機関は、移送を受けた日より公休日を除いた7日以内に判断を行うこと、判断日から公休日を除く2日以内にその判断を関係者に送付することが義務付けられています。

また、上記の判断が社会的に不可欠なサービスもしくは公共サービスに関する場合、労働省及び管轄管区又は州政府に判断の写しを送付しなければならなりません(労働紛争解決法27 条)。

雇用者、労働者のどちらの当事者であっても紛争解決仲裁機関の判断に不服がある場合は、不可欠なサービスに対する決定を除き、労働紛争解決法28条に基づき以下の選択をすることができます。

  • 当該判断を受けとったから公休日を除く7 日以内に両当事者により紛争解決仲裁評議会に申立てを行う
  • 関連法に基づきロックアウト又はストライキを行う

不可欠なサービスに対する決定に関して紛争解決仲裁機関の判断に不服がある場合、片方の当事者のみであっても判断を受け取った日から公休日を除いた7 日以内に紛争解決仲裁評議会に申立てを行うことが認められています。(労働紛争解決法29 条)。

 

 

紛争解決仲裁評議会は、労働紛争解決法28条及び29条のどちらの法に基づいて申し立てを受けたか(必要不可欠なサービスかどうか)によって、以下の通りの対応を行います。

必要不可欠とされていないサービス関係者による申し立ての場合:

団体紛争に関する申し立てを受理日した日から公休日を除く14 日以内に判断を行い、判断日から公休日を除く2 日以内にその判断を関係者に送る(労働紛争解決法31 条)。

必要不可欠なサービス関係者による申し立ての場合:

団体紛争に関する申し立ての受理日から公休日を除いた7 日以内に判断を行い、判断日から公休日を除く2 日以内にその判断を関係者に送る(労働紛争解決法32 条)。また、紛争解決仲裁評議会は、32条に基づいた判断の写しを労働省及び関連する管区/州政府に送付する義務があります。

 

紛争解決仲裁機関の判断に労働者と雇用者双方が合意した場合は、紛争解決仲裁機関の判断は判断日から効力を持ち、紛争解決仲裁評議会の判断は判断がなされた日から効力を生じます(労働紛争解決法34、35 条)。

これら紛争解決仲裁機関もしくは紛争解決評議会の判断が効力をもってから3ヶ月以上経過しており、かつ労働者と雇用者双方が同意した場合は、これらの判断内容に関して修正を行うことも可能です。(労働紛争解決法36 条)。

これら判断の効力の範囲は、当該紛争の関係者、当該紛争の使用者の法的相続人、労働紛争時もしくは紛争後に当該事業で働くすべての労働者を含みます(労働紛争解決法37 条)。

 

 

【紛争開始前~紛争解決後の禁止事項】

労働紛争解決法38条~45条において、紛争開始前から紛争後における禁止事項が規定されています。

各条項における禁止事項は以下の通りです。

  • 雇用者が特別な理由がなく当該紛争に関する交渉や調整を避けること(労働紛争解決法38条)
  • 紛争開始前及び紛争期間中に当該紛争に関係のある労働者の勤務条件に関して労働者の利益に影響を及ぼす可能性のある変更を行うこと(労働紛争解決法39条)
  • 当事者が紛争解決仲裁機関による法律に基づいた交渉や調停、仲裁等を受け入れることなくロックアウト又はストライキを行うこと(労働紛争解決法40条)
  • 紛争解決仲裁機関もしくは紛争解決仲裁評議会による決定、もしくはその他の労働協約の有効な期間の間にその決定や同意を修正するためにストライキもしくはロックアウトを行うこと(労働紛争解決法41条)
  • ストライキの参加を望まない、もしくはストライキの実行妨害を行わない労働者が自主的に働く権利を剥奪すること(労働紛争解決法42条)
  • 個別紛争及び団体紛争における、調停機関において締結された合意における条件を順守または実行しないこと(労働紛争解決法43条)
  • 紛争解決仲裁機関もしくは紛争解決仲裁評議会が当該紛争を調査するため事前に通知をした後、紛争に関する調査や、上記機関によって求められた紛争に関連する文章の用意や証人の召喚に対して妨害行為を行うこと(労働紛争解決法44 条)
  • 紛争解決仲裁機関もしくは紛争解決仲裁評議会によって調査通知を受け取った際に、十分な理由なく所定の期間内に本人もしくは法定代理人が出頭しないこと。(労働紛争解決法45 条)

 

 

【その他】

紛争解決法によって決められたその他の規定としては以下のようなものがあります。

  • 労働紛争解決法51条:雇用主が紛争解決の過程で従業員に不利益となるような何らかの行為を十分な理由なく行った場合、紛争解決仲裁機関または紛争解決仲裁評議会が決定した金額の全額を土地収入の滞納として支払う義務があります。
  • 労働紛争解決法52 条:紛争の当事者は、紛争解決法に基づく機関において当該紛争が審理中であったとしても、刑事又は民事裁判の提訴を妨げることはできません。
  • 労働紛争解決法54 条:ストライキが雇用契約の一時停止とみなされることから、雇用者はストライキに参加している労働者に対しストライキ期間中の賃金を支払う義務はありません。
  • 労働紛争解決法55条:紛争に関する交渉、調停及び仲裁の各段階において当事者は費用の支払いを求められることはありません。
  • 労働紛争解決法57 条:両当事者が紛争解決仲裁機関等に書面を提出する際、当該機関はそれらの機密保持を守る義務があります。

 

 

いかがでしょうか。

労働争議は自社では起こらない。と考えることも可能ですが、万が一の事態に備えて知識を持っておくことで、対策を考えていくことが出来ます。

また、昨今ではミャンマー労働事務所が職場調整委員会の設置についての確認を従来よりも厳しく見るようになったとの声も聞かれます。

職場調整委員会の設置は義務となりますので、しっかりと確認の上で対応していきましょう。

 

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最後までお読みいただきありがとうございました。

 


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Tokyo Consulting Firm Co., Ltd (ミャンマー)・ヤンゴン駐在員
西野由花(Nishino Yuka)

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