今回はメキシコに進出する際の税務についてお話します。
■拠点を設けずにビジネスを行う場合
メキシコに拠点がない場合でも、メキシコにある会社と取引を行う際には、その取引に付随して税金の問題が生じてきます。メキシコ国内に拠点が存在しない場合には通常「非居住者」とされ、メキシコにおいて発生した所得にのみ、メキシコの租税法に基づき、課税が行われることになります。また、拠点がない場合であっても、メキシコにおいて恒久的施設(PE:Permanent Establishment)認定という形で課税が行われるケースがあるため、注意が必要です。
■拠点を設置してビジネスを行う場合
メキシコでの取引が本格的になってくると、現地に拠点を設けてビジネスを展開していくことになります。以下では、駐在員事務所、支店、現地法人など、進出の形態ごとに関連する税務規定を検証していきます。
[駐在員事務所を設けて活動する場合]
駐在員事務所(OficinadeRepresentación)については、民法2736条において「メキシコ国内に常態では商行為を行わない外国法人」と規定されているため、基本的に所得が発生することはありません。
よって、駐在員事務所自体に対する直接的な所得課税のリスクが生じることはありませんが、この駐在員事務所がPEとして認定される場合には、メキシコに営業拠点があるものとみなされ、外国法人として、そこで発生したとされる所得に対して法人所得税(ISR)が課されることとなります。
[支店などの営業拠点を設けてビジネスを行う場合]
支店(Sucursal)については、外資法17条において「メキシコ国内において常態で商行為を行おうとする外国法人」と規定されており、基本的にメキシコを源泉地国とした所得が発生します。上記の駐在員事務所との間には、これ以外に明確な違いはなく、常態で商行為を行うか否かによって判断されることとなります。外国法人がメキシコにおける支店で活動する場合、税法上は非居住者に該当し、メキシコ国内で発生した所得に対して課税(源泉地国課税)されます。
[現地法人を設けてビジネスを行う場合]
現地法人を設立した場合には、メキシコの内国法人となるため、メキシコを含むすべての国で発生した所得に対して、メキシコにおいて課税されます(全世界所得課税)。また、メキシコ以外の国で発生した所得につき、当該他の国において既に課税がなされ、メキシコとの二重課税となる場合には、外国税額控除の規定を適用することにより、その二重課税部分につきメキシコにおいて納付すべき法人所得税額から控除することになります。日本、メキシコについては両国間の租税条約において外国税額控除が定められているため、これに従って二重課税部分を調整する形になります。
■投資還流方法についての検証
メキシコへ進出し、現地での活動を通じて利益が発生した場合、この利益を留保して再投資するか、親会社に還流するか、という問題が発生してきます。現地において再投資をする場合には、税務上の問題は特段生じませんが、日本にある本社または親会社へ利益を還流する場合には、その還流方法により税務上の取扱が異なります。
[支店➡本店への還流]
日本企業がメキシコに支店を設置し、そこで発生した利益を日本の本店へと還流する場合、メキシコには利益送金に対する課税はありませんので、特段課税がない状態で本店へと利益を還流することが可能となります。
[子会社➡親会社への還流]
メキシコの子会社で生じた利益を日本の親会社へ還流する場合、その方法としては以下のものがあります。
①配当により親会社へ還流する方法
②親会社との取引を通じて還流する方法
①を行う場合、メキシコ子会社からの配当金支払時における源泉税率は原則10%となります。日墨租税条約上では、配当金にかかる源泉税率は、親会社への配当であれば5%(関係会社以外への配当15%)と規定されていますので、租税条約を適用することで有利な源泉税率により親会社へ配当を行うことができます。
2014年度の税制改正前は、メキシコ国内法の配当に係る源泉税率は0%であり、両国間の租税条約で定められた5%の源泉税率よりも有利でした。そのためプリザベーション・クローズ(国内法が租税条約よりも有利な場合に、国内法を優先適用することにより0%の税率で親会社への還流を行うことができましたが、税制改正によって税率に変更があったため、国内法と租税条約での税率を比較し、5%の源泉税率を適用することとなります。
また、配当を受け取る日本の親会社にとっては、配当は所得として法人税の課税対象になります。しかし、外国子会社から受け取る配当については、配当額の95%分を益金不算入とする「外国子会社益金不算入制度」があります。適用を受けられる対象は、以下のとおりです。
【外国子会社からの配当に係る益金不算入制度の対象となるための要件】
②を行う場合、親会社に対しての経営指導料やシステム使用料の対価、ロイヤルティなどの支払時に、国内法では非居住者に対する源泉税率25%または30%の税率が適用されます。ただし、日墨租税条約で源泉税率10%の適用が認められているため、実際は上記の国内法に比べて有利な租税条約の税率を適用することとなります。
以上、お読みいただきありがとうございました。
なお、本記事は2019年7月時点の内容となっております。最新情報やより詳細な情報は弊社サービスのWiki Investmentをご利用頂きたいと思います。Wiki Investmentへの登録は、下記のリンクからお願い致します。