判例 6

労務

皆様こんにちは。Tokyo Consulting Firm Sdn. Bhd.の佐藤です。

今回は過去判例より退職強要による不当解雇について扱います。

 

<概要>

S氏は2002年5月30日にSale ExecutiveとしてB社に雇用されジャカルタ拠点にて勤務していた。月の給与は基本給がRM4,000、手当としてRM2,500を受け取っており、総額はRM6,500である。S氏がマレーシアに戻ることを申し出たため、2005年10月1日S氏はジャカルタよりマレーシアに帰任する。2005年10月から2006年4月までのマレーシアにいる期間、S氏はスンガイブローあるC部署に勤務し、2005年10月から2005年11月までの給与はRM6,500であるが、2005年12月から2006年1月までの手当はRM1,000に減額される。2006年1月10日、S氏はB社のManaging DirectorであるL氏と6カ月の間、毎月300~500の売上げ達成した場合に手当のRM2,500のうち、RM700を支給するとして、基本的な手当の支給額を月RM1,800とすることに同意する。この同意により、S氏の月給はRM5,800となる。2006年4月1日、S氏はB社より書面にて同年4月27日よりこれまでと同条件のもとSales & Marketing Managerとしてベトナムへ出向することを知らされる。給与は同額のRM5,800であり、内訳としては基本給がRM4,350であり、手当が1,450とされた。このことにより、2006年5月と6月の給与はRM5,800となる。

 しかし、S氏は7月の給与においてRM2,800しか受け取っていなかったため、同年8月15日にB社は7月分の未払いとしてRM1,000を支払う。また、B社はS氏がベトナムで勤務している間の4か月分の交通費、総額RM6,000を支払っていなかった。S氏は手当を受け取ることができなかったことから会社の費用から仕事に必要な経費を使う必要があり、その経費を差し引いたRM2,761.60分の交通費が支払われていなかった。

 2006年8月末、S氏はベトナムからマレーシアに帰任し、同年7月および8月分給与の未払賃金の支払いを人事部のJ氏に訴える。同年9月、S氏はL氏に未払賃金分の説明を求めたがL氏は説明することはなかった。このことからS氏は9月12日にL氏に書面を発行し、6月および7月に給与がRM1,000減らされたことは契約違反であること、また8月給与が未払となっていることに対する説明を求め、1週間後までにB社から返事をすることを求める。このことに対し、B社が返信をすることはなかったため、S氏は同年9月20日に書面にてこのことはB社の退職強要にあたるとして退職し、未払賃金分の支払いを求め裁判所に訴える。

 

<従業員の主張>

2006年4月1日にB社より書面を受け取った際、同条件でのベトナム出向を命じられた。しかし、実際は同年6月および7月の給与はRM1,000少なく、またベトナムで勤務している間の交通費も支払われていない。さらに8月分の給与も未払である。このことは契約書違反の行為である。9月12日に書面にて6月、7月および8月分未払賃金の要求とも払い分の交通費の支払いを求めているにもかかわらずB社より何の返事もなかったため、このことはB社によって退職を強要されているのと同じであり、9月20日に退職せざるを得ない状況に追い込まれた。

 

<会社の主張>

2005年12月より手当がRM2,500からRM1,800に減額されたのは、2005年11月にB社は書面にて業績が好ましくないことから毎月の売上目標を設定し、達成していない場合にはペナルティが発生するとの旨を社員に伝えているにもかかわらず、業績不振が続いていたからである。2006年6月および7月に給与をRM1,000減額したのはS氏の業績不振によるものであり、週2回行われる販売会議において既に伝えられている。また、反対尋問の際にB社弁護士がS氏に給与の支払いについて質問した際、S氏は6月分給与を全て受け取っていると発言している。S氏がベトナム勤務している間の業績不振は会社が原因によるものではなく、その証拠にS氏以外の販売員が同商品を販売しているときは売上が伸びている。2006年7月の給与に関して本来はRM5,800支給するところをRM3,800しか支給しなかったことは認める。S氏は2006年8月27日に自身で帰任している。給与の支払いは毎月7日であり、2006年8月分給与は2006年9月7日に支払うべきであるが、未払の状態であることを認める。S氏の業績不振により、S氏の給与を減額する権利および給与を一時的に預かる権利を有する。もしもS氏がベトナムへ戻る場合に未払である8月分の給与を支払うつもりであったが、S氏はベトナムへと戻ることを拒否したため、契約違反を犯しているのはS氏の方である。また、手当の支払いは契約書の中に記載されていないので手当の未払いが契約違反になることはない。よって、S氏の主張する解雇は退職強要によるものではなく、自主的な退職である。

 

<判決>

本件はB社による退職強要であるとみなす。

賠償金としてRM65,800を30日以内にS氏の代理人を通じて支払うべきである。賠償金の内訳は下記に準ずる。

              ① 復職に代わる賠償金

                 RM5,800 × 4 = RM23,200

              ② 未払賃金

                 RM5,800 × 12 = RM69,600

              ③ 退職後、すでに再就職をしているのでそれを考慮し、②から-10%および業績

不振という事実を考慮し―40%する。

  RM69,600 – 50% = RM34,800

              ④ 7月の未払い分(RM2,000)および8月分の未払給与(RM5,800)

       RM2,000 + RM5,800 = RM7,800

        ⑤ ①+③+④

                RM23,200 + RM34,800 + RM7,800 = RM 65,800

 

<裁判所の見解>

B社による2006年7月および8月の給与未払いは契約違反となる。また手当に関する残額(RM2,791.60)は契約書内に交通費の支払いについての記載がないことから今回は支払う必要なない。給与の未払が行われた事実に対して、B社はS氏からの書面を受け取っていたにもかかわらず、何も行動を起こすことはなかった。給与の未払は契約違反の行為であり、さらにS氏が書面を発行してから十分な期間が与えられていることから、本件は自主的な辞職ではなく解雇に追い込まれたものであると判断することができる。また、B社は本解雇が正当な理由によるものであることを証明する必要があるが、証明することができなかったため、本件は退職強要による不当解雇であると判断する。

 

<判決のポイント>

本件は契約書に書かれているか否かが重要な争点となったように思えます。給与の支払いに関しては従業員との雇用契約書に記載されてあったため未払い分に関しては支払う必要が生じましたが、手当に関しては契約書内への記載がなかったことから支払う必要はないと判断されました。契約書をきっかけとした従業員とのトラブルをなくすためにも給与の支払いや手当に関する項目などは細かく定めていく必要があります。

また、給与を改訂する際など、契約書に変更が生じる際は必ず双方の同意を持って変更することが従業員との摩擦を防ぐ1つの方法となります。

 

それでは今週も頑張りましょう!

 

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