こんにちは。ベトナム拠点の清水です。

ベトナムの現地法人が、事業拡大や設備投資、運転資金の確保、あるいは赤字の補填などのために追加の資金を必要とする場面では、親会社から資金を入れることがよくあります。その方法として、大きく分けて「増資」と「借入」の二つがあります。

どちらの方法を選ぶかによって、必要となる手続きやスピード、税務上の取り扱い、入れた資金を後から回収できるかどうかといった点が変わってきます。さらに、借入による場合には、短期借入とするか中長期借入とするかによって、外貨規制上の手続きが変わる点にも注意が必要です。

本記事では、親会社からの資金調達方法として、増資と借入、そして借入における短期と中長期のそれぞれについて、特徴やメリット・デメリットを比較しながら解説します。

1. 親会社からの資金調達方法は大きく二つ

  • 増資:出資として資金を入れ、資本金を増やす方法
  • 借入:貸付として資金を入れ、返済と利息の支払いが発生する方法

両者の根本的な違いは、返済義務の有無、そして入れた資金が自己資本(資本金)となるのか、負債(借入金)となるのか、という点にあります。

2. 増資による資金調達

増資は、親会社が現地法人へ出資という形で資金を入れ、資本金(定款資本)を増やす方法です。一般的に、投資登録証明書(IRC)および企業登録証明書(ERC)の変更手続きが必要となり、払い込みは直接投資資本口座を通じて行います。

増資のメリット

・返済義務がないため、現地法人の財務基盤が安定し、自己資本が厚くなる

・利息が発生しないため、利息の損金算入の上限や源泉税といった論点が生じない

・配当として海外へ送金する場合、配当そのものには原則として源泉税が課されない(ただし税引後利益があることが前提)

・海外からの借入枠(総投資額から資本金を差し引いた金額)を気にする必要がない

増資のデメリット

・IRC・ERCの変更手続きに時間がかかるため、機動的な資金調達には向かない

・一度入れた資本金は容易には回収できず、回収するには配当または減資が必要となる(減資は手続きが重く、時間もかかる)

・配当は利益が出ていなければ行えないため、赤字が続く場合には資金を回収しづらい

増資は、恒久的に現地法人の体力を強化したい場合や、借入枠を確保したい場合に適した方法といえます。

3. 借入による資金調達

借入は、親会社が現地法人へ貸付という形で資金を入れる方法で、元本の返済と利息の支払いが発生します。ベトナムで親会社から借り入れる場合には、いくつか注意すべき点があります。

まず、海外からの借入総額には、一般的に総投資額から定款資本を差し引いた範囲という上限があり、既存の中長期借入もこの枠に算入されます。

また、関連者間の取引となるため、金利は独立企業間価格(市場に見合った水準)で設定する必要があります。無利息や著しく低い金利は、税務上否認され、みなし利息を課されるリスクがあります。市場金利は変動しますが、一般的には5%前後が一つの目安となります。

借入のメリット

・増資に比べて手続きが機動的であり、特に短期借入は当局への登録が不要となるケースが多い

・元本の返済という形で、入れた資金を回収しやすい

・支払利息は、原則として損金に算入できる(ただし上限あり)

借入のデメリット・留意点

・親会社へ支払う利息には、外国契約者税として法人所得税5%分の源泉徴収が必要となる(付加価値税は課されない)

・関連者間の借入に係る支払利息は、損金に算入できる金額がEBITDAの30%までに制限される(超過分は5年間繰り越し可能)

・海外からの借入枠(総投資額から資本金を差し引いた金額)による上限がある

・外貨規制に従った送金手続きが必要となり、中長期借入の場合は当局への登録も必要となる

借入は、いずれ資金を戻す予定がある場合や、増資よりも早く資金を入れたい場合に適した方法といえます。

4. 増資と借入の比較

観点 増資 借入
資金の性格 自己資本(出資) 負債(貸付)
主な手続き IRC・ERCの変更(投資資本・定款資本の増額) 金銭消費貸借契約の締結(中長期は当局登録が必要)
返済義務 なし 元本・利息の返済が必要
資金の回収 配当または減資による(利益や手続きが必要) 元本の返済により回収しやすい
海外送金・税務 配当の送金には原則として源泉税がかからない(税引後利益が前提) 利息に外国契約者税(CIT 5%)が源泉徴収される
利息の損金算入 ― 損金算入可能。ただし関連者間はEBITDAの30%が上限
スピード 変更手続きに時間がかかる 比較的機動的(特に短期借入)

どちらが適しているかは、資金をいずれ回収する予定があるか、どの程度のスピードで資金を入れたいか、税務上の負担をどう考えるか、といった観点から判断することになります。

5. 短期借入と中長期借入の比較

借入によって資金調達を行う場合、その借入を短期とするか中長期とするかによって、必要な手続きが変わってきます。両者は、一般的に借入期間が1年以内か、1年を超えるかによって区分されます。

観点 短期借入(1年以内) 中長期借入(1年超)
当局(SBV)への登録 原則として不要 必要
向いている用途 運転資金などの一時的な補填 設備投資などの長期資金
主な注意点 延長や未返済で期間が1年を超えると登録義務が生じる 登録・報告などの手続きの負担がある
返済 短いサイクルでの返済 長期の返済計画に基づく返済

なお、中長期借入の登録先は、借入金額によって異なる場合があります。当局の審査や登録には一定の時間を要するため、資金が必要となる時期から逆算して、余裕を持って手続きを進めることが重要です。

6. 資金調達方法を選ぶ際のポイント

  • 入れた資金をいずれ回収する予定があるかどうか(回収を想定するなら借入、恒久的な体力強化なら増資が向く)
  • 海外からの借入枠(総投資額から資本金を差し引いた金額)に余裕があるか。枠が足りない場合は、増資(総投資額の増額)とあわせて検討する必要がある
  • 利息に係る源泉税や損金算入の上限、金利水準の妥当性など、税務上の影響
  • 資金が必要となる時期までに、手続きが間に合うかどうか(増資や中長期借入の登録には時間がかかる)

実務上は、増資と借入のどちらか一方に限らず、両者を組み合わせて資金を入れるケースも多くあります。それぞれの特徴を踏まえたうえで、資金の目的や回収の見通し、スケジュールに合わせて、適切な方法を選択することが望ましいといえます。

7. よくある質問(FAQ)

Q. 短期借入が1年を超えてしまった場合はどうなりますか?

A. 原則として国家銀行(SBV)への登録義務が生じます。

8. まとめ

  • 資金調達の方法には、大きく分けて増資と借入があり、返済義務の有無や資金の性格が異なる
  • 増資は財務基盤を安定させられる一方、手続きに時間がかかり、資金を回収しづらい
  • 借入は機動的で回収もしやすい一方、利息への源泉税や損金算入の上限、借入枠といった制約がある
  • 海外からの借入額には、総投資額から資本金を差し引いた範囲という上限があるため、増資と借入は関連づけて検討する必要がある
  • 借入は、短期(1年以内)か中長期(1年超)かによって、当局への登録の要否が変わる

親会社からの資金調達は、方法によって手続き・税務・資金の回収可能性が大きく異なるため、資金の目的やスケジュールを踏まえて、適切な方法を選択することが重要です。

弊社では、増資や借入の手続きから、借入枠や税務上の取り扱いの確認、外貨規制に対応した送金のサポートまで、ベトナムでの資金調達を一括してサポートしております。

「親会社から資金を入れたいが、増資と借入のどちらがよいか分からない」「借入枠がどの程度残っているか確認したい」「短期と中長期のどちらで借り入れるべきか相談したい」など、ベトナムでの資金調達をご検討中の企業様は、お気軽にお問い合わせください。

【参照・引用元】
  • 本記事は執筆時点におけるベトナムでの一般的な実務に基づく解説です。金利水準や借入枠、必要な手続きは、個別の投資登録内容や当局の運用により異なります。
  • 上記は執筆時点の情報に基づきます。法律・制度は変更される場合があります。
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本記事は、執筆時点(2026年7月22日)の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
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