お世話になっております。東京コンサルティングファーム ベトナム拠点の下田琴美(しもだ ことみ)です。

ベトナムで従業員を採用・管理するなかで、日系企業様から以下のような「よくある声」を耳にすることがあります。

よくある声

「入社後3年以内に退職した場合は違約金を支払ってもらう」

「会社負担で研修を実施したため、短期間で退職した場合は費用を返還してもらう」

本記事では、代表的な3つのケースについて整理します。結論から申し上げると、以下のとおりです。

ケース 結論
単なる退職を理由とする違約金請求 原則として無効となる可能性が高い(労働者の権利制限に該当)
予告期間違反による退職 法定のペナルティ(半月分の給与相当額等の支払い)が発生する
会社負担の研修後の退職 適法な「職業訓練契約」を締結していれば返還請求が可能

1. 【パターン①】「○年以内に退職した場合、違約金を支払う」という条項の法的有効性

一般的に、単に「一定期間勤務しなければならない」「期間内に退職した場合は違約金を支払う」と定める条項については、法的な有効性に疑義が生じる可能性があります。

ベトナム2019年労働法では、労働者は契約の種類に応じた所定の予告期間を守ることにより、理由を示すことなく一方的に労働契約を終了することが認められています。具体的な予告期間は以下のとおりです。

労働契約の種類 予告期間
無期限労働契約 45日前までに通知
12か月以上36か月以下の有期限労働契約 30日前までに通知
12か月未満の有期限労働契約 3営業日前までに通知

このように、労働者には適法な手続きを経て退職する権利が認められています。そのため、退職そのものを理由として一律に違約金を課す条項については、労働者の法定上の権利を制限するものとして、紛争時にその効力が認められない可能性があります。

なお、ベトナム労働法第17条では、使用者による労働者への金銭や財産による保証の要求が禁止されていますが、この規定と退職時の違約金条項との関係については、個別の契約内容や状況に応じた検討が必要になると考えられます。

2. 【パターン②】予告期間を守らず退職した場合

一方で、労働者が法律上必要な予告期間を守らずに一方的に退職した場合には、2019年労働法第40条に基づき、一定の義務が発生します。具体的には、違法な一方的労働契約解除と判断される場合、労働者は以下の義務を負うこととされています。

  • 退職手当を受け取る権利を有しないこと
  • 労働契約に基づく0.5か月分の給与相当額を使用者に支払うこと
  • 予告期間を守らなかった日数に対応する給与相当額を支払うこと
  • 職業訓練契約がある場合には、第62条に基づく訓練費用を返還すること

これらは、あらかじめ会社が自由に設定できる違約金ではなく、法律上、違法な退職が発生した場合に生じる義務です。

3. 【パターン③】会社負担の研修後に退職した場合

会社が従業員に対して国内または海外で職業訓練を実施し、その費用を負担した場合には、2019年労働法第62条に基づき、使用者と労働者との間で職業訓練契約を締結することができます。同条では、職業訓練契約において、少なくとも以下の事項を記載することが求められています。

  • 訓練の職種
  • 訓練場所および期間
  • 訓練期間中の賃金
  • 訓練費用
  • 訓練終了後の勤務期間
  • 訓練費用の返還責任

適切な職業訓練契約が締結されている場合には、その契約内容に基づき、一定の条件のもとで訓練費用の返還を求めることが可能になる場合があります。

一方で、単に労働契約書や社内誓約書に「退職した場合は費用を返還する」と記載するだけで足りるかについては、記載内容や契約の形式・実態を踏まえた個別の判断が必要になります。

勤務継続期間の上限について

法律上、勤務継続期間の上限について明確な年数は定められていません。そのため、たとえば「3年間の勤務義務」が当然に有効であるとは限らず、個別の契約内容や訓練内容などを踏まえて判断されるものと考えられます。

4. 最後に

「長期間勤務してほしい」という企業側の意向と、法的に有効な制度設計は区別して検討する必要があります。特に、退職そのものを理由とする違約金条項については、法的な有効性に疑義が生じる可能性があります。

一方で、法律に沿った職業訓練契約を適切に締結している場合には、一定の範囲で会社の教育投資を保護できる可能性があります。

現在使用している労働契約書、職業訓練契約、社内規程などに退職時の金銭負担に関する条項がある場合には、実際の運用前にベトナム労働法に詳しい専門家へご確認いただくことをお勧めします。

【参照・引用元】
  • ベトナム2019年労働法(法律番号45/2019/QH14)第17条・第40条・第62条
  • 本記事は2026年6月時点で確認可能な同法に基づく一般的な解説です。個別事案における契約の有効性や請求可能性については、具体的な事実関係により判断が異なる場合があります。
【免責事項】
本記事は、執筆時点(2026年6月11日)の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
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