こんにちは。東京コンサルティングファーム、ベトナムホーチミン拠点の下田です。
中国国籍者のベトナム入国・就労には、他の国籍にはない注意点がいくつかあります。ビザ免除の対象外であることに加え、いわゆる「九段線パスポート」の取り扱いや、TRC(一時滞在許可証)の実務上の制約など、企業の担当者が事前に把握しておくべき論点が複数存在します。
本稿では、短期入国から長期駐在までの手続きの流れと、企業として押さえておきたいポイントを整理します。
1. 九段線パスポートをめぐる誤解
2012年以降に発行された中国パスポートには、南シナ海の領有権を主張する「九段線」の地図が印刷されています。「このパスポートはベトナムで使えない」という話を耳にしたことがある方もいるかもしれません。
ベトナム政府の立場は一貫しています。2012年、外務省報道官は政府公式サイトを通じて中国の新パスポートへの正式な抗議を表明しました。2023年にも外務省報道官が「九段線を含む製品の普及・使用はベトナムの法律に違反し、受け入れられない」と改めて声明を発表しています。
ただし、「九段線パスポートの保持者は入国不可」という規定が公式文書として存在するわけではありません。実務上では、国境でパスポートへのスタンプ押印を拒否し、代わりに別紙ビザを発行することで入国を認めるという対応がとられてきたと報告されています。
入国の可否は現場の審査官の裁量に委ねられる部分もあり、書類に不備があれば入国を拒否されるリスクがある点は念頭に置いておく必要があります。
2. 短期入国(観光・出張・視察)の場合
中国国籍者のベトナム入国にはビザが必要です。日本国籍者に適用される45日のビザ免除措置は、中国国籍者には適用されません。
現在最も一般的な方法はe-Visaです。オンラインで申請でき、最大90日間(シングル・マルチ入国)のビザを取得できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 滞在可能期間 | 最大90日間(シングル・マルチ入国) |
| 費用 | 単回入国 25USD / 複数回入国 50USD |
| 処理期間 | 3〜7営業日 |
申請にあたっての基本要件は以下のとおりです。
- パスポートの残存有効期間:入国日から6か月以上
- 空白ページ:2ページ以上
タンソンニャット国際空港の入国前オンライン事前申告
2026年4月15日以降、タンソンニャット国際空港(ホーチミン市)へビザを利用して入国するすべての外国人に対し、入国前オンライン事前申告(QRコード取得)制度が開始されています。
事前申告は義務ではありませんが、未申告の場合は空港到着時に入力対応が必要となり長時間を要するため、中国国籍者も出発前に公式サイトでの申告を済ませておくことを強くお勧めします。
3. 長期駐在・就労の場合:WP → LDビザ → TRC の流れ
長期就労には、一般的にワークパーミット(WP)の取得から始まる3つのステップがあります。
STEP 1:WP(労働許可証)取得
WP(Work Permit)とは、外国人がベトナムで合法的に就労するために必須となる労働許可証です。
2025年8月7日に施行された政令第219/2025/ND-CP号により、就労手続きが大きく簡素化されました。従来は別々に行っていた「外国人労働者の使用需要承認」と「WP発行申請」が統合され、1回の申請で手続きが完結します。処理期間の法定目安は10営業日です。
STEP 2:LDビザ(就労ビザ)取得
WP取得後、就労目的のLDビザに切り替えます。実務上では、一度国外へ出てビザを貼り直す「ビザラン」が必要となるケースが報告されていますが、個別の状況によって異なります。
STEP 3:TRC(一時滞在許可証)取得
TRC(Temporary Residence Card)とは、外国人に対して発給される1〜5年間の長期滞在許可証です。
長期滞在の安定性という観点から、TRCの取得が最終的なゴールとなります。ここが中国国籍者にとって特に注目すべきポイントです。
4. 2025年7月まで、中国国籍者はTRCを取得できなかった?
実はつい最近まで、中国国籍者には他国籍者にはない制約が存在していた可能性が指摘されています。
実務上、2025年7月頃まで、中国国籍者はワークパーミットの有効期間が1年を超えていてもTRCを申請することができず、最長1年のビザしか取得できない状態が続いていたとされています。なお、この制限の根拠となるベトナム政府の一次文書は現時点で公開されておらず、あくまで実務上の報告に基づく情報である点にご留意ください。
日本人や他の多くの国籍者であれば2年有効のTRCで済む手続きを、中国国籍者は毎年繰り返す必要がありました。更新のたびに費用と時間がかかり、タイミングを誤れば滞在資格が途切れるリスクもあったと報告されています。
こうした状況への対応として、実務上では主に2つの方法がとられてきたと報告されています。1つは毎年のビザ更新、もう1つはカンボジア・ラオス・タイなど隣国に短期出国して再入国する「ビザラン」です。
ビザランはベトナムの法令上、明示的に禁止された行為ではないものの、入国審査官の裁量によって入国を拒否されるケースも報告されており、必ずしも確実な方法とは言えません。繰り返しの短期出国が「就労目的での滞在継続」とみなされた場合、入国を跳ね返されるリスクがある点には注意が必要です。
2025年7月23日以降の変化
2025年7月23日以降、中国国籍者もTRCの申請が可能となったとされています。既存のWP保持者で1年を超える有効期間がある場合も、TRCへの切り替え対象となる可能性があります。
なお、この変更についてもベトナム政府による公式な発表は確認されておらず、引き続き専門家への個別確認をお勧めします。
5. 企業として押さえておきたいポイント
- ビザ取得の確認を赴任前に必ず行う:中国国籍者はビザなしでベトナムに入国できません。出張・赴任前のビザ取得が漏れると、搭乗拒否につながるケースもあります。渡航予定が決まったら、最低でも2週間前から手続きを開始することが望ましいです
- 九段線パスポートの取り扱いを本人に説明しておく:パスポートへのスタンプが押されず別紙ビザになる可能性について事前に説明しておくことで、現地での混乱を防ぐことができます
- WP・TRCのスケジュールを早めに設計する:WP取得・LDビザ取得・TRC申請の順番やタイミングを誤ると、赴任予定どおりに入国できなくなるケースがあります。赴任予定日の3〜4か月前から逆算してスケジュールを組むことをお勧めします
- 既存の中国国籍スタッフのビザ状況を見直す:毎年のビザ更新を繰り返しているスタッフがいる場合、2025年7月以降はTRCへの切り替えを検討する価値があります。更新コストと管理負担の両面で改善が期待できます
6. よくある質問(FAQ)
Q. 中国の九段線パスポートでベトナムに入国できますか?
A. 公式には抗議の対象ですが、実務上では、パスポートへのスタンプ押印の代わりに別紙ビザが発行される運用が一般的です。
Q. 中国国籍の駐在員はベトナムのTRC(一時滞在許可証)を取得できますか?
A. 以前は取得できないケースが一般的でしたが、2025年7月以降は中国国籍者も要件を満たせばTRCの申請が可能となっています。
7. まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 短期入国 | e-Visa必須。ビザ免除の対象外 |
| 九段線パスポート | 政府は公式に抗議のスタンス。実務上は別紙ビザでの入国が報告されている |
| 就労手続き | WP → LDビザ → TRC |
| TRC取得 | 2025年7月以降、中国国籍者も申請可能に |
| タンソンニャット入国 | 2026年4月〜 入国前オンライン事前申告を強く推奨 |
| 企業の対応目安 | 赴任予定日の3〜4か月前からスケジュール設計を |
8. ベトナムでの就労手続きに関するご相談は東京コンサルティングファームへ
中国国籍者のビザ・ワークパーミット取得には、国籍特有の注意点が多く、2025年以降も制度変更が続いています。自社の中国人スタッフの手続きを整理したい場合、またはこれから赴任させる予定がある場合は、東京コンサルティングファームにご相談ください。
ベトナムの労務・HR・法務に精通した専門家が、貴社の状況に即したサポートを提供します。
- 政令第219/2025/ND-CP号(2025年8月7日施行)
- ベトナム外務省報道官による声明(2012年、2023年)
- 本記事の一部(中国国籍者のTRC取得に関する制限および2025年7月23日以降の変更)は、ベトナム政府の一次文書が公開されていないため、実務上の報告に基づく情報です。
- 上記は執筆時点の情報に基づきます。法律・制度は変更される場合があります。
本記事は、執筆時点(2026年6月4日)の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
また、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を行うものではありません。個別案件については、必ず専門家へご相談ください。
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