こんにちは。ベトナムホーチミン拠点の下田です。

ベトナムに進出している企業の多くは、工業団地や輸出加工区(EPZ)内に工場・拠点を構えています。しかし「借地期限が来たらどうなるのか」という点について、しっかり把握できていないケースが少なくありません。

「まだ先の話」と思っていても、設備投資の回収期間・撤退計画・M&Aへの影響を考えると、今から準備を始めておくことが重要です。本稿では、EPZと通常の工業団地の違いを整理した上で、借地期限満了時の対応について解説します。

結論として、期限満了時には「移転」「延長申請」「事業転換」の3つの選択肢がありますが、延長はあくまで猶予措置であるため、早期に長期的な移転・転換計画を策定することが推奨されます。

1. EPZ(輸出加工区)と通常の工業団地の違い

ベトナムには「EPZ(Export Processing Zone:輸出加工区)」と「通常の工業団地(Industrial Park:IP)」の2種類があります。見た目は似ていますが、目的・税制・国内販売の可否など、重要な点で異なります。

項目 EPZ(輸出加工区) 通常の工業団地(IP)
目的 輸出向け製造に特化 製造・国内販売・輸出、幅広く対応
関税 原材料・設備の輸入関税が免除 原則課税
VAT 国内向け販売は課税対象 通常どおり課税
国内販売 可能だが輸入手続き等が必要 制限なし
借地期間 通常50年 通常50年
転換リスク ハイテクゾーン等への転換計画あり 比較的安定しているが立地次第

EPZは輸出に特化した優遇制度がある一方で、国内販売をする際は、ベトナム国内への輸入扱いとなり、通関・税務手続が必要になります。また後述のとおり「ゾーン転換リスク」という固有の課題もあります。進出時の業態に応じて、どちらの形態が適切かを慎重に検討することが重要です。

2. 借地権の期限が満了したとき、企業に何が起きるか

工業団地・EPZの借地期限が満了した場合、入居企業には主に以下の3つの選択肢があります。

  1. 他の工業団地への移転
  2. 現地当局への申請による期限延長(申請ベースであり、権利ではない)
  3. ハイテクゾーンなど新たな用途区分の要件を満たす形での事業転換

重要なのは、期限延長はあくまで「許可」であり、日本の普通借地権のように自動的に更新されるものではないという点です。政府の土地利用計画や当局の判断によって、延長が認められないケースもあります。

3. 実例から見る借地期限満了への対応

実例① タントゥアンEPZ(ホーチミン市・7区)

タントゥアンEPZは1991年に開設されたベトナム初のEPZであり、多くの日系企業が入居しています。現在の借地期限は2041年9月に設定されており、満了後は一部EPZでハイテクゾーンへの転換が計画されています。

この計画が現行のまま進んだ場合、既存の入居企業には「他の工業団地への移転」か「ハイテクゾーンの要件を満たす事業転換」の2択が想定されます。当局の見解では、入居企業は政策変更を待つのではなく、今から移転計画の検討を始めるべきとされており、残り約15年を使って段階的に移転を進めることが現実的なアプローチとして示されています。

実例② メルセデス・ベンツ工場(ホーチミン市)

ホーチミン市内にあったメルセデス・ベンツの工場は、当初借地期限が2025年に満了する予定であり、当局より移転を求められていました。ただし、当時は当局側の跡地利用計画がまだ確定していなかったため、暫定的に2030年まで期限が延長されました。

この事例が示すのは、「延長」はあくまで当局の事情による猶予であり、最終移転期限は厳格に設定されるという点です。延長を前提とした長期計画は、リスクが高いと言えます。

4. 日本企業が今からやっておくべきこと

借地期限の問題は「満了が近づいてから考える」では遅い場合があります。以下の点を早めに確認・整理しておくことをお勧めします。

  • 現在の借地契約書を確認し、期限・更新条件・原状回復義務を把握する
  • 工業団地ディベロッパーや当局の中長期的な土地利用計画を確認する
  • 移転コスト・設備の撤去費用・新拠点への投資を含めた長期計画を策定する
  • 現地の法律専門家(弁護士・法律事務所)に契約内容の精査を依頼する

5. まとめ

EPZと通常の工業団地はそれぞれ特徴が異なり、借地期限満了後の対応も「移転」「延長申請」「事業転換」の3択となります。タントゥアンEPZやメルセデスの事例が示すように、延長が認められる場合でも、それは「権利」ではなく「猶予」に過ぎません。

ベトナムで長期的に事業を継続するためには、借地期限を経営課題の一つとして早期から把握し、計画的に対応を進めることが不可欠です。

【参照・引用元】
  • 土地法(Land Law No. 31/2024/QH15):2024年8月1日施行
  • 工業団地・輸出加工区に関する政令(Decree No. 35/2022/ND-CP)
  • 上記は執筆時点の情報に基づきます。法律・制度は変更される場合があります。
【免責事項】
本記事は、執筆時点の法令・実務情報等に基づいて作成しております。法令改正や行政運用の変更等により、内容が変更となる場合があります。
また、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を行うものではありません。個別案件については、必ず専門家へご相談ください。
本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当社は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。