シンガポールの整理解雇!Retrenchmentマニュアル!

労務

徐々に雇用者ではなく、従業員を保護する方向に舵を切り始めたシンガポールの労務環境ですが、昨今のコロナウイルスの影響もあり、整理解雇を必要と考える企業は増えてきています。

今回は、Retrenchmentと呼ばれるシンガポールの整理解雇について、最新の法制下での対応をまとめてお伝えします。

Retrenchmentって何?

まずは定義ですが、シンガポールの法律が規定する整理解雇、Retrenchmentとは、雇用主が余剰人員を理由に就業する能力のある従業員の雇用を解除すること、とされています。

企業組織の運営の上では、大きなビジネス上の損失を被ったり、時流の変化によって、当然に人員を調整する必要が生じますが、雇用契約で雇用者と従業員が契約を結んだ場合、基本的には雇用者側が仕事を作る責任を負い、従業員はそれを実行する責任を負うという考えで義務が設定されていると言えるでしょう。

具体的には、サプライチェーンから外れてしまったり、赤字体質が深刻化したりすると雇用の維持が難しくなるものですが、それ以外にも高齢の年少の従業員を加えた結果、高齢の従業員が要らなくなった場合や、組織構造の変化によって必要なマネージャー数が変化する場合などにこうした整理解雇が必要になります。

最初に考えるべきことは?

特にコロナウイルスの影響下で叫ばれることですが、雇用者側が最初に考えるべきことは、他の手段でコストを下げて、Retrenchment を避けることです。

場合によっては従業員全体に会社の財務状況を説明し、一律給与削減などの対応をすることで、人ひとりを解雇するよりも経費を削減できる場合があります。

また、シンガポールでは月給S$2,600以下(非肉体労働者)の従業員を除いて、法的には残業代を支給する義務はありませんが、原則として残業代を支給する制度のある会社では、従業員の残業代を前払いする形で、就業できない従業員の給与を支給し、後日通常営業に切り替わった際に、従業員の残業に対して前払した分をあてがうという対応を行うことが許されています。

こうした手を尽くしたうえで、それでも従業員を切るしかない場合に、Retrenchmentを行うべきだとされています。

MOMに通知が必要?

シンガポールの労働局に当たる人的資源省MOMは、Retrenchmentが行われる場合、できる限り専用サイトから通知を行うよう求めています。

特に、10人以上の従業員を雇用していて、半年以内に5人以上の従業員を解雇することになる場合には、企業にMOMへの通知が義務付けられます。

方法も指定されており、専用サイト(https://www.mom.gov.sg/eservices/services/notify-for-retrenchment-exercise)からアクセスして、CorpPassでログイン(事前に権限付与が必要です)、専用のエクセルフォームをダウンロードして従業員情報などを入力し、アップロードする形で通知を完了します。

なお、上記専用サイト中に、マニュアルも英語版で提示されています(https://aceonline.mom.gov.sg/iaces/doc/User_Guide_Retrenchment.pdf)。

通知が完了すると、入力した担当者のメールアドレスに通知完了のメッセージが届きます。

この通知は従業員に対して解雇の通知を行った後、対象の従業員が離職するまでの間に実行される必要があり、原則5日以内に実行することが求められています。時間的にタイトな点に注意が必要です。

雇用関係解約の際は、原則に注意!

パフォーマンスに問題があるわけではない場合、雇用契約を解約する対象を選ぶ際には、一般に平等性の原則、および合意の原則に留意する必要があります。

多人種他民族多宗教の国家であるシンガポールでは、会社の規則や法律に適った形で、会社全体一律な基準に照らして、人種や性別といった観点からも平等に、解雇対象者が選択されることが必要です。

この点は採用と同じで、人種、民族、宗教、性別はもちろん、言語や年齢についても解雇の理由として用いることができない点に注意が必要です。

また、コモンローの流れを汲む雇用法では、双方の合意していた内容に沿って決定を行う必要があり、契約の内容に矛盾した形で解雇することはできません。

契約書で解雇の際のルールを細かく規定していない場合には、シンガポールの労働条件を規定する雇用法(The Employment Act)の規定に従うことになりますが、会社の方針として特定の状況下で人を選び、解雇することがあり得るということを、予め雇用契約書に記載しておくことが重要です。

当局からも指針が出ている

シンガポール政府当局(MOM)から出ている指針は以下の通りです:

  • 安全確保:できる限り従業員が仕事を失って行き詰まることのないよう、関係会社や取引先を当たって代わりの仕事を見つけたり、リクルート会社を当たって再就職をサポートすること
  • 相談:労働組合Union、政府当局であるMOM、第三者機関であるTAFEPなどに、決定する前に相談すること
  • 通知:少なくとも法定あるいは雇用契約書で規定した通知期間を守って、従業員に整理解雇の意思を通知すること
  • 支払:最終日までの給与や年次休暇の残存日数に関して、支払い漏れのないように給与を支払うこと
  • 解雇手当:2年以上勤務した従業員の整理解雇には、整理解雇手当(Retrenchment Benefit)を支払うこと

特に、整理解雇手当については「一般的慣行」と称して最終の月額基本給(直近で減給が行われていればその前の給与)に勤続年数を掛け合わせた金額(またはその1/2)を支払うこととされている点、注意が必要です。

調停機関TADMの意味は?

シンガポールにおける従業員の雇用解除に際して、近年最も大きな問題となっているのが調停・仲裁機関と呼ばれるTADMの成立です。

2019年4月から改正された雇用法により、TADMは解雇された従業員に対してわずかS$20で会社に対する訴えを起こす権利を付与し、実質的駆け込み寺として機能するようになりました。

これにより、雇用契約を無視したり、一般的な慣習とかけ離れた対応で従業員を解雇する会社に対しては強いブレーキがかかることになりましたが、一方では元々なら満足するに足る金額の解雇手当や退職手当を支給している会社に対しても、解雇された従業員が「その金額は少ない」と訴えを起こすことができるようになってしまい、法律的争いを好まない日系企業にとっては大きな不安要素になっています。

TADMの機能にも限界はあり、従業員は一回の訴えにつき、最大でS$20,000までしか請求できないというルールがあります。

しかし、これは既に支払われている解雇手当の金額を度外視したものであるため、会社の財務的に見て、最も好ましくない展開として、以下のようなものがあります:

1.長年勤務した従業員に会社側が給与数か月分の解雇手当を支払って解雇通知を出す

2.従業員が調停機関であるTADMに訴えを出し、解雇手当の割り増しを要求する

3.TADMが解雇手当の割り増しを要求し、会社側がこれを支払って調停される

結局どうすればいいの?

これを避けるため、また立てられた訴えを退けるためにも必要なのが、平等に従業員を取り扱う整理解雇Retrenchmentのルールを確立することです。

将来にも影響を与える形で金額を定めることはある程度勇気を必要とする行為ですが、規則として以下のようなフローを設け、全従業員の了解を得ておくことが、最終的には会社の損失を抑えることにつながると考えられます:

1.会社は財務状況が逼迫した際、また組織変更に迫られた際、従業員に対して整理解雇を実施することがある

2.整理解雇に際しての通知期間は法律に従い、それより短くなる場合は不足分の給与を支給する

3.従業員は通知期間中、業務の引き継ぎを行った後にのみ年次休暇を取得できるものとし、年次休暇の残存日数は会社が買い取るものとする

4.従業員が丸2年以上勤務している場合、会社は勤続年数×最終月額基本給を整理解雇手当として支給する、ただし、その金額は5か月分を超えないものとする

なお、こうしたルールは従業員の処遇に関するものであるため、新規で導入するときはもちろん、既にある就業規則に追加/変更して設ける場合にも、必ず全従業員に書面合意(紙面への署名の他、メール返信でも可)を設ける必要がある点、注意が必要です。

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