シンガポールの個人所得税~申請書類解説パート2~

税務


TCGのノウハウツールWiki Investmentの中から、シンガポールにおける税務のポイントを公開します。

 

前回から引き続き、個人所得税の申告書、IR8Aの内容について解説していきます。

 

今回は、日本人駐在員として日本で社会保険料の納付を受けている場合、多く発生する複雑なポイント、「d) Othersその他手当等」について見ていきます。

 

  1. d) Others:その他手当等

 

  1. Allowances:手当等

 

ここで言う手当は、通勤用、営業用に割り当てられた給与外の支給額を指し、以下の3つに区分されます:

(i) Transport:通勤費、営業交通費の定額支給など

(ii) Entertainment:営業交際費の定額支給など

(iii) Others:出張手当など

 

特に、出張手当(交通費、宿泊費、営業交際費の実費精算分を除く)のうち、旅費交通費として精算可能な限度(Acceptable rate)を超える金額は、出張手当として(iii) Othersに記入することになります。

 

この精算可能な限度については、出張先の国ごとに毎年更新される形で制定されており、以下のリンク先から確認できます:

https://www.iras.gov.sg/IRASHome/Businesses/Employers/Tax-Treatment-of-Employee-Remuneration/Per-Diem-Allowance/Acceptable-Rates-for-Per-Diem-Allowance/

 

一方、上記に含まれない月額固定の役職手当などは先述のa)給与に含めるといいでしょう。

 

  1. Gross Commission for the period:歩合制報酬など

 

上述のa)給与やb)賞与とは別に、歩合制の体系で支給される給与があった場合は、当該年度に属する金額を算出して記入します。

 

  1. Pension:年金

 

日本と同様に、年金収入があれば記入します。

 

ただし、日本で支給される年金は日本国内での所得となり、一方シンガポールにはCPFという年金とは異なる制度が運営されているため、国内で私的な年金制度に加入しているような場合を除いて、原則こちらに記入する金額は殆ど「0」となります。

 

  1. Lump sum payment:まとめ払い金額

 

退職金など、年度を超えて累積した報酬が支払われる場合の金額を記入します。

 

基本的には以下のいずれかに該当する支払いがあれば記入します:

(i) Gratuity:功労金

(ii) Notice Pay:解雇時通知期間退縮補償

(iii) Ex-gratia payment:法的義務外支給額(見舞金など、雇用契約にない支払い)

(iv) Others (please state nature):その他支給額(下記(v)を除く)

(v) Compensation for loss of office:整理解雇補償

 

この中、注意が必要なのは(v)の整理解雇補償です。

 

一般に、整理解雇手当(Retrenchment benefit)として支払われる金額の中には、年次休暇の買い取り額(本来はa)の給与に含める)、13か月目給与AWS(本来はb)の賞与に含める)の按分金額など、多くの項目をひとまとめにして支給することが多いですが、税務上はこれらの金額を細分し、雇用契約書や就業規則、そこになければ雇用法や政府機関のガイドラインに従って支給した、狭義の整理解雇補償のみが該当します。

 

この(v)だけは非課税として取り扱われる上に、金額が大きくなりがちであるため、事前にIRASに勤続年数などを通知して承認を得ることもでき、IR8Aにもこうした状況を記載することになります。

 

  1. Retirement benefits:定年退職保証

 

シンガポールで国の年金・退職金制度が変更になった1993年以降、個別に国内の年金・退職金基金で計上され、支払われた金額があれば記載します。

 

こちらも多くの場合は「0」となります。

 

  1. Contributions made by employer to any Pension/Provident Fund constituted outside Singapore:シンガポール国外の年金基金に対する雇用者拠出分

 

日本人駐在員が日本で厚生年金に加入している場合、社会保険料として企業負担分となっている金額について、明細を入手して記入します。

 

こちらは、日本の年金制度自体が複雑であるため、以下のように分類して正確に判断することが必要です:

(i) Mandatory pension:厚生年金保険

(ii) Non-mandatory pension:確定給付企業年金

(iii) Non-mandatory pension:確定拠出年金(日本型401(k))

 

このうち、課税所得に当たるのは、特別処遇に値しない企業拠出(Contributions without concession)と理解される(ii)および(iii)です。

 

一方、(i)については政府運営の社会保険に当たり、企業が強制的に払わされるため、通常は特別処遇に値する企業初出(Contributions without concession)と理解され、非課税になりますが、同じ金額がシンガポール法人/支店に請求されないこと、また同額をシンガポール法人/支店が給与から控除しないことが、特別処遇(Concession)の条件となっている点、注意が必要です。

 

なお、(i)の厚生年金保険については、「Employees’ Pension Insurance」としてその名前を記入すると共に、IR8Aにその企業拠出金額を記入し、拠出が強制であること、シンガポール法人/支店で請求/控除が行われていないこと、を記載します。

 

  1. Excess/Voluntary contribution to CPF by employer:CPF法定外金額企業拠出分

 

CPFの申告・納付を行っている従業員については、例えば55歳を超えても従前と同じ比率で拠出を行っている場合など、法定金額を超える分の拠出額について、企業負担分を記載します。

 

この金額がある場合は、追加の個人所得税申告書類として、IR8Sを記入することが必要になります。

 

通常、日本人駐在員でCPFの申告・納付を行うことはないため、こちらは原則「0」と記入します。

 

  1. Gains or profits from Employee Stock Option (ESOP)/other forms of Employee Share Ownership (ESOW) Plans:ストックオプションによる利益享受額

 

ストックオプションを行使したことにより、利益を享受した場合、その金額を受け取った場合などに記入します。

 

こちらの金額がある場合は、追加の個人所得税申告書類として、Appendix 8Bを記入することが必要になります。

 

  1. Value of Benefits-in-kind:現物支給

 

その他、家賃補助や海外旅行保険、子女の学費補助等については、全て現物支給(Benefits-in-kind)として取り扱われます。

 

こちらの金額がある場合は、追加の個人所得税申告書類として、Appendix 8Aを記入することが必要になります。

 

次回はこの現物支給の内容について、詳述します。



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