フィリピンで現地スタッフを雇用する際、必ずと言っていいほど設定するのが「Probationary Period(試用期間)」です。日本の感覚で「まずは試用期間で様子を見よう」と考えていると、現地労働法(Labor Code)の厳格なルールに抵触し、「気づかないうちに自動的に正規雇用(Regular Employee)になっていた」「解雇しようとしたら労働裁判を起こされた」というトラブルに発展することが少なくありません。
今回は、フィリピンビジネスで絶対に押さえておくべき試用期間の基本ルールと、実務上の注意点を解説します。
1. フィリピンにおける試用期間(Probationary)の基本ルールと労働法
フィリピンの労働法(Labor Code Article 296)において、試用期間は明確に定義されています。
① 原則として「最長6ヶ月」
試用期間は原則として6か月を超えることができません。法律上明示されている例外として、より長い期間を定めた適法なApprenticeship Agreementなどがあります。
それ以外の延長は、当事者間の合意があれば常に有効になるわけではありません。安易に延長せず、個別事情について専門家へ確認することが重要です。
② 試用期間中でも「解雇制限」がある
試用期間中であっても、理由なく自由に解雇できるわけではありません。主な雇用終了事由は以下のとおりです。
- Just Cause:重大な規律違反、重大かつ常習的な職務怠慢、不正行為など
- Authorized Cause:余剰人員、事業縮小、事業閉鎖など、法律上認められた会社都合の理由
- Failure to Qualify:採用時に伝えられた合理的な評価基準を満たさなかった場合
2. 最も重要な実務ポイント:評価基準(Standards)の事前開示
試用期間の評価未達を理由に契約を終了(Termination)させる場合、雇用開始時までに、「正規雇用となるための合理的な評価基準」を具体的に提示しておく必要があります。
法律上、必ずしも独立した評価基準書への署名まで要求されているわけではありませんが、後日の紛争に備え、雇用契約書、職務記述書、評価シートなどを書面で交付し、本人の受領署名を取得しておくことが強く推奨されます。
これを怠ると、評価基準を事前に書面で示していない場合、たとえ試用期間中であっても「入社初日から正規雇用(Regular)として扱っていた」とみなされてしまいます(Deemed Regular)。
この場合、従業員は正規雇用とみなされる可能性があります。そのため、単に「試用期間中の評価基準を満たさなかった」という理由だけで雇用を終了することは難しくなり、Just CauseやAuthorized Causeの立証と、それぞれに必要な適正手続きが求められます。
3. 実務でよくあるミスと対策
ミス①:「とりあえず6ヶ月の最終日に判断すればいい」と思っている
対策:評価プロセスは「4ヶ月目」「5ヶ月目」から動かす。6ヶ月を1日でも過ぎて勤務させると、法律上自動的に正規雇用へと移行します。試用期間満了に伴う契約終了の通知は、6ヶ月目が終わる前に余裕をもって行う必要があります。
- 3ヶ月目:中間評価(フィードバックと改善指示)
- 4〜5ヶ月目:最終評価の実施
- 5ヶ月目終わり〜6ヶ月目初期:正規雇用化の決定、または契約終了の通知
ミス②:「パフォーマンスが悪いから試用期間を延長しよう」
対策:安易な延長は避け、原則として6か月以内に判断する。前述のとおり、6ヶ月を超えて試用期間を延長することは基本的に違法と判断されます。「もう少し様子を見たい」という場合でも、安易な期間延長は避け、客観的な評価に基づいて判断を下す必要があります。
4. 試用期間の契約終了(Termination)の手続き
評価未達により本採用を見送る(試用期間で終了する)場合は、以下の手順を守る必要があります。
- 事前に提示した評価基準に基づき、未達である事実を記録(スコアカードや面談記録)
- 試用期間が終了する前に、書面にて契約終了の通知(Notice of Termination)を本人に交付
- 退職手続き(Clearance)と、退職から30日以内(DOLE Labor Advisory No. 06-20に基づく)の最終給与(Final Pay)の支払い
※Just Causeによる解雇の場合は、原則として、具体的な解雇理由を記載した第一通知、従業員に十分な弁明機会を与える手続き、最終判断を記載した第二通知が必要です。事案によっては面談や聴聞の実施も必要になります。
まとめ:トラブルを防ぐためのチェックリスト
フィリピンでの人事トラブルを防ぐために、以下のチェックリストを自社の運用と照らし合わせてみてください。
- 雇用契約書とは別に「試用期間の評価基準書(Standards)」を作成しているか?
- 入社時までに評価基準を文書で提示し、本人の受領記録を残しているか?
- 3〜4ヶ月目に中間面談(フィードバック)を実施しているか?
- 6ヶ月目が満了する前に、正規雇用化か終了かの手続きを完了させているか?
フィリピンの労働法は「労働者保護(Pro-Labor)」の傾向が非常に強いのが特徴です。「知らなかった」では済まされないリスクを避けるためにも、最初の契約段階と評価プロセスの仕組み化を徹底しましょう。
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最後に
弊社では、雇用契約書や試用期間評価基準の整備、評価制度の設計、雇用終了手続きなど、フィリピンにおける人事・労務実務を幅広くサポートしております。試用期間中の評価や雇用終了の判断でお困りの際は、お気軽にご相談ください。