マレーシア 定年退職における退職強要

労務

皆さんこんにちは。。

東京コンサルティングファームの谷口でございます。

 

本日は、労働法に関する判例のうち、

定年退職における退職強要に関する判例をご紹介いたします。

 

<概要>

H氏は、2008年2月10日にAssistance Finance ManagerとしてP社に雇用された。P社はH氏に対して2013年1月14日に定年退職を迎えていることから2013年1月15日から同年8月20日までの間、有期雇用契約を締結するとの旨の書面及び有期雇用契約書を発行している。有期雇用期間中の給与は、定年を迎える以前の給与と同額(月額RM5,150)であった。しかし、同年7月31日に有期雇用契約書が発行されて以来、H氏の役職は降格され役職なしとなっている。また同年8月20日の契約満了日を迎えても会社からの契約終了の通知が発行されることはなく、8月21日から9月14日までの給与はRM2575.50へと改定された。H氏は、2013年8月26日に書面にて給与の改定および役職の降格の取り消しを求めるとともに、定年退職の承認および有期雇用契約書への同意の取り消しを求めた。さらにH氏は書面にて元の役職への復職及び未払賃金の支払いを請求する。

書面の発行後、P社から何も返信がなかったためH氏は2013年9月4日に再度書面を発行し、同年9月5日より退職強要によってP社に解雇されたと訴える。

 

<従業員の主張>

2008年2月10日にP社に雇用され、2013年1月14日に55歳となり定年を迎え、2013年7月31日に定年時の給与と同額という条件で同年1月15日から8月15日までの期限で有期雇用契約を締結した。しかし、雇用契約終了後もP社より退職に関する通知を受けることはなかった。同時に、給与額はRM5,150からRM2,575.50へ減額された。また、有期雇用契約締結後には役職から外され、役職なしとなっていた。

上記を踏まえ、2013年8月26日に定年退職の承認及び有期雇用契約書への同意の取り消しを求める書面を発行した。書面に対し、P社から返信がなかったため、2013年9月4日に同年9月5日より退職を強要されたとみなして辞職するとの旨を記した書面を発行する。またこの辞職は自らが望んだ辞職ではないため、不当解雇に該当するものであると主張。

 

<会社の主張>

H氏の行動に対し次の3つを主張する。

①    2013年7月31日に発行した2013年1月14日をもって定年退職したという書面にH氏は同年8月2日に署名している。

②    その後、有期雇用契約を締結することに同意し、雇用契約を結んでいる。

③    書面を発行し、自分自身の意思で辞めているため、不当解雇ではない。

上記の3点より、当解雇は不当解雇ではなくH氏による自主退職であると主張。

 

<判決>

本件は、P社による退職強要であるとみなす。H氏の復職は、P社との今後の関係性を考慮して適切ではないため、未払賃金の支払いによる賠償を命じる。未払賃金は、1967年労使関係法第30条6Aより「24か月を超えてはならない」と定められているため、2014年1月14日に定年退職したという事実及び定年退職時の給与が月額RM5,150であることから12か月分の支払いとする。計算式は以下の通りである。

 

①    未払賃金

   RM5,150 × 12か月 = RM61,800

 

上記の金額から弁護士費用等を差し引いた額を30日以内にH氏の代理人を通じて支払うこと。

 

<裁判所の見解>

本件の争点はH氏が2013年9月5日に自主退職をしたのか、もしくは退職を強要されたのかという点である。

退職強要においては、退職が強要されたことの立証責任は原告側(従業員側)に課される。しかし、原告側がその立証責任を果たした場合に被告側(会社側)は解雇が合理的な理由によるものであることの証明をする責任がある。

また、退職強要の判断としては、従業員の雇用契約を背景に雇用主の行動を中心として、①雇用契約の基本的な条件を違反しているか、②契約に拘束されないという意図を表明したか、の2点が判断基準となる。雇用主が契約違反を犯した場合、従業員は自身を退職強要に追い込まれたと主張することができる。

本件においては①役職の降格、②給与の減額、③2013年8月26日に復職および未払賃金の支払いを求めてから十分な期間が経っているという3点を基準に判断し、従業員が2013年9月5日に退職強要に追い込まれたとしてP社を退職したのは適当な判断であり、これは自主退職ではなくP社による不当解雇であると判断する。

 

<判決のポイント>

本件は、原告が自ら退職したという行動が不当解雇とみなされるのかが争点となりました。裁判所の見解にもありますように、退職強要の場合の立証責任は第一に従業員側にその立証責任が問われますが、その後の説明責任は会社側に問われるものとなります。労働裁判においては合理的な理由による解雇でない限り不当解雇であると判断されるケースがほとんどとなっておりますのでご注意ください。

また、今回は契約書につきましても判断材料となりました。雇用契約書や就業規則は解雇を扱う裁判においては非常に重要な証拠となります。退職の要件や解雇の条件などをあらかじめしっかりと記述することで従業員との摩擦を減らしていくことが重要になってくると思われます。

 

以上となります。

 

労務に関して、ご質問が御座いましたら、

是非ご連絡を頂ければと存じます。

 

どうぞよろしくお願い致します。

 

東京コンサルティングファーム

谷口 翔悟

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