多くの国から多くの人が集まり、多人種多言語多民族が暮らすシンガポールでは、とにかく平等の理念が強調されます。
公共の場で差別が行われるようなことは元々少ない国ですが、シンガポール政府が年々差別をなくそうと努力している分野が一つあります。
そう、採用です。
今回は、シンガポールにおける採用事情の最新情報(2020年1月20日現在)として、FCFという取り組みをご紹介します。
ズバリ、FCFとは?
Fair Consideration Framework(FCF:平等に考慮する仕組みづくり)という名前で呼ばれる、シンガポールでの平等な雇用機会の創出を推奨する動きです。
ガイドラインとしては、従前から企業経営者へのアドバイザリー活動などを行っている非政府機関TAFEPから、いくつかの指針が打ち出されています。
https://www.tal.sg/files/tripartite-guidelines.pdf
その中身としては、例えば以下のような項目を採用の基準とすることは避けるべきだとされています:
- 年齢
- 人種
- 言語
- 性別
- 家族構成
- 宗教
同様に、こうした項目について採用面接の際に質問を投げかけたり、職務内容と関係のない内容の質疑応答で採用の可否を決めたりすることも、避けるべきだと明記されています。
FCFの何が重要?
この当然とも思えるFCFの取り組みが重要なのは、それが外国人に対するEP、S-Passなどの就労許可の発行に影響を与えるからです。
シンガポール人的資源省MOMおよびTAFEPは、外国人に対する雇用を検討する企業に、国内で同様の職務を遂行する人材が確保できないか検討することをすべての企業に求めています。
具体的には、日本人従業員など外国人に対してEPやS-Passを発行するための申請を行う前に、募集要項としてJob Descriptionや採用基準を明確化し、MyCareersFuture.sgなどのオンラインサイトで公募を行うことを求めています。
どんな風に履行が求められる?
ルールがあっても規制がなければ強制することは難しいものですが、シンガポールではこうした規制もオンラインサイトによって強制されます。
具体的には、EPやS-Passを申請するオンラインポータルサイトEP Online上で申請をする際、公募を行ったか否か、公募の際の情報を含めて報告する箇所が設けられており、その項目に回答しないと申請が進められないようにデザインされています。
公募の期間は?
EP/S-Pass申請と公募の期間には明確に基準が設けられています。
途中で公募される職位の職務内容が変更になる可能性もあることから、最後に変更になった投稿から丸14日間公募を行い、応募者との面談を行った上で、適切な候補がいなかった場合に限って、EP/S-Pass申請に進むことができます。
また、応募締め切りから3か月以内に限って、同じ条件で外国人に対するEP/S-Passの申請をすることができるとされています。
全ての企業がFCFの対象?
FCFの取り組みは、原則シンガポール内のすべての企業に適用されます。
しかし、スタートアップや小規模の企業にとっては、現実的でないのも事実です。
また、特殊な職業に関しては、そもそも公募をすること自体が不適切と考えられるものもあります。
以下のいずれかに該当する場合は、上記EP/S-Pass申請時の条件は回避できることになっています:
・従業員数が10人に満たない場合
・当該職位の給与がS$15,000の場合
・グループ会社内の人事異動である場合
・1か月に満たない短期雇用である場合
今回の変更は?
上述の条件であれば、公募だけしておいて、採用は行わず、予め人事で決めていた日本からの出向者を受け入れようという考え方も自然に出てきます。
こうした見せかけだけの公募が横行していることに対して、今回2020年1月から、FCF履行を義務付ける厳しい締め付けが実施されることになりました。
具体的には、差別的待遇の募集要項で公募を行い、意図的に応募できない形で募集を行うこと、また公募だけしておいて応募してくる候補者に対応せず、期間が過ぎるのを待って外国人を雇用すること等、本来の公募とはかけ離れた内容で公募を行った場合、6か月または、12か月、悪質な場合は24か月の間、EP/S-Pass申請の権利が剥奪されることになりました。
該当すれば、6か月~12か月、EPオンラインでの申請が不可能になり、例えば駐在員の交代に際して新たにEPを発行することができなくなります。
この申請の権利にはEP/S-Passの更新申請も含まれるため、現在EP/S-Passで働いている従業員にとっても、期限が到来した後に更新できないという事態に発展するため、実質的に外国人従業員を解雇しなければならなくなる恐れもあります。
また、申請内容などの記載で虚偽の宣誓を行った経営者について、MOMは訴えを起こし、最大2年の禁固刑、最大S$20,000の罰金刑も科すとしています。
シンガポールが国を挙げて推し進めるFCFの取り組みに、すべての企業が対応を求められるようになってきたといえます。
法律に関するお問い合わせはもちろん、労務や税務に関するお問い合わせも、お待ちしております。
以下のリンクから、お気軽にご相談ください。
株式会社東京コンサルティングファーム シンガポール法人
近藤貴政
【問い合わせ先】
kondo.takamasa@tokyoconsultinggroup.com
+65-6954-9457
http://www.kuno-cpa.co.jp/form/
※)記載しました内容は、作成時点で得られる情報をもとに、最新の注意を払って作成しておりますが、その内容の正確性及び安全性を保障するものではありません。該当情報に基づいて被ったいかなる損害についても、情報提供者及び当社(株式会社東京コンサルティングファーム並びにTokyo Consulting Firm Co., Pte. Ltd.)は一切の責任を負いません。ご了承ください。