シンガポール労務・人事管理の完全ガイド【2026年版】

労務

皆さん、こんにちは!
東京コンサルティンググループ シンガポール拠点の飯島 淳です!
いつもブログをお読みいただきありがとうございます。

さて、今回は「シンガポール労務・人事管理の完全ガイド【2026年版】」についてお話していこうと思います。

シンガポールについて知りたい方は…

シンガポールに関する基礎知識が知りたい方は、こちらから
・シンガポールの基礎知識
シンガポールに関するセミナーに参加したい方は、こちらから
・シンガポール関連セミナー


目次

シンガポール労務・人事管理の完全ガイド【2026年版】就労ビザ・CPF・雇用法・駐在員管理まで実務ポイントを徹底解説】

更新日:2026年1月 対象:シンガポール進出を検討・実行する日本企業の経営者・人事・法務担当者

【メタディスクリプション】

シンガポール労務管理の要点を2026年最新情報で解説。雇用法・CPF・就労ビザ(EP/Sパス)・駐在員の社会保険まで、日本企業の実務担当者が知るべき情報を網羅。

 

はじめに:シンガポール進出で「労務ミス」が最大のリスクになる理由

 シンガポールは、法人税率17%、世界有数のビジネス環境ランキング、英語公用語、アジアのゲートウェイとしての立地など、日本企業の海外進出先として長年にわたり高い人気を誇っています。しかし、「設立は比較的簡単」といわれる一方で、進出後の労務管理・人事制度の整備を軽視した結果、現地従業員とのトラブル、就労ビザ申請の失敗、CPF(中央積立基金)の未納付による行政処分といった問題に直面する企業が後を絶ちません。

 

本記事では、シンガポール進出を検討している日本企業の経営者・海外事業責任者・人事法務担当者・スタートアップ創業者を対象に、シンガポールの労働環境・雇用法・CPF制度・就労ビザ・駐在員の社会保険管理まで、2026年時点の最新制度を踏まえた実務解説を行います。

 

第1章:シンガポールの労働環境と賃金水準

1-1. 労働市場の現状(2025〜2026年)

 シンガポールの総人口は約605万人(2025年時点)に達し、労働市場は引き続き拡大基調にあります。失業率は2025年第3四半期時点で約2.0%前後と歴史的低水準を維持しており、人材獲得競争は激しさを増しています。外国人労働者の割合が大きいことがシンガポール労働市場の特性の一つであり、就労ビザ制度(EP・Sパス・Work Permit)を通じた外国人労働力の受け入れが経済を支えています。

 

指標 2025年時点の状況
総人口 約605万人
失業率(季節調整済) 約2.0%(2025年Q3)
主要産業 金融・情報通信・製造・観光・ヘルスケア
外国人労働者比率 労働力の約30〜35%(推計)
NWC賃上げ推奨率(2025-26) 低賃金層:5.5〜7.5%程度のベースアップ推奨

 

1-2. シンガポールの賃金水準と最低賃金制度

 シンガポールには、日本や欧米のような一律の法定最低賃金制度は存在しません。しかし、これは労働者が低賃金で放置されていることを意味するのではなく、以下の2つの仕組みによって賃金水準の底上げが図られています。

 

Progressive Wage Model(PWM:段階的賃金モデル)

 清掃業・警備業・昇降機保守業に始まり、2025年以降は小売業・飲食サービス業にも拡大されています。スキルや職務レベルに応じた最低賃金水準(ベースライン給与)が段階的に引き上げられる仕組みです。2025年9月以降、小売業では入門レベルの最低月給が引き上げられ、最大6%程度の段階的賃上げが業界・政府合意のもと進行中です。

 

全国賃金評議会(NWC)の賃金ガイドライン

 全国賃金評議会(National Wages Council:NWC)が毎年「賃金ガイドライン」を発表します。法的拘束力はないものの、政府・使用者・労働者の三者合意に基づく指針として実質的な影響力を持ちます。2025〜2026年度は低賃金層に対して5.5〜7.5%程度のベースアップが推奨されており、日本企業も現地スタッフの処遇設計においてこのガイドラインを参照することが重要です。

 

1-3. 産業別・職種別の賃金水準

 シンガポールの賃金水準は、アジア周辺国と比較して大幅に高い水準にあります。以下の比較表は参考数値ですが、特に管理職・専門職レベルでは東南アジア諸国の2〜4倍以上となっています。

 

都市/国 一般工職(USD/月) エンジニア(USD/月) 中間管理職(USD/月)
シンガポール 1,600〜 2,800〜 4,400〜
クアラルンプール(マレーシア) 450〜 1,000〜 1,900〜
バンコク(タイ) 370〜 680〜 1,500〜
上海(中国) 470〜 950〜 1,600〜
ジャカルタ(インドネシア) 260〜 430〜 1,000〜
ホーチミン(ベトナム) 185〜 350〜 800〜

 

※上記は参考値です。採用市場の状況や個人スキルにより大幅に変動します。特に情報通信・金融・専門家サービス分野では、年間総報酬が大幅に上昇する傾向があります。

 

1-4. 福利厚生の設計

シンガポールでは、月額給与や年次賞与を含めた「総報酬(Total Compensation)」で条件提示を行う企業が一般的です。日本式の各種手当(通勤・住宅・家族手当等)を一律に導入することは現地の商慣習と合わない場合があります。優秀な人材の確保・定着を目的として有効な主な福利厚生の例を以下に示します。

 

  • 民間医療保険(外来・入院・歯科を含むグループ保険)
  • フレックスタイム制・在宅勤務制度
  • 法定日数を上回る追加有給休暇
  • 学習・資格取得支援、研修費用補助
  • ウェルビーイング施策(健康診断、メンタルヘルス支援等)

 

第2章:シンガポールの雇用法(Employment Act)

2-1. 雇用法の基本と適用範囲

 シンガポールの雇用法(Employment Act)は、解雇・賃金支払・労働時間・休暇・労使間の権利義務を定める基本法です。2019年4月の大改正により、それまで適用除外だった管理職・上級職(Managers and Executives:PME)も原則として適用対象に含まれました。

 

【雇用法の適用対象と適用除外】
【適用対象】シンガポールで雇用される労働者(国籍・ビザ種別を問わず)の大多数
【適用除外①】船員(Seafarers)
【適用除外②】家事労働者(Domestic Workers)
【適用除外③】政府が特別に指定する職種の者
【注意】Independent Contractor(独立請負人)は雇用関係がないため、雇用法の適用外

 

2-2. 労働時間・時間外労働の規定

 シンガポールの法定労働時間の上限は、1日8時間・週44時間です。これを超える労働は時間外労働(Overtime)として扱われ、雇用法Part IVの適用対象労働者には基本賃金の1.5倍以上の割増賃金が義務付けられています。

 

区分 内容
法定労働時間(1日) 原則8時間(週5日勤務の場合は1日9時間まで可)
法定労働時間(週) 44時間
時間外割増賃金率 基本賃金の1.5倍以上
時間外労働の月間上限 原則72時間
時間外規定の適用対象 雇用法Part IV適用の労働者(管理職・上級職は原則対象外)
休日(Rest Day)労働の割増 通常賃金の2倍

 

2-3. 雇用契約のポイント

 シンガポールでは書面・口頭いずれの雇用契約も有効ですが、後日の紛争防止のため書面による締結が強く推奨されます。また、2016年以降、雇用法の適用対象労働者については、主要な雇用条件を記載した書面(Key Employment Terms:KET)の交付が事実上必須となっています。

 

雇用契約書に明記すべき主要事項

  • 職務内容・職位
  • 勤務時間・休日
  • 報酬(基本給・手当・支払方法)
  • 賞与・昇給・評価制度
  • 休暇(年次有給休暇・病気休暇等)
  • 解雇・退職の通知期間
  • 秘密保持・競業避止条項(必要に応じて)

 

【実務上の注意点】
❌ 日本の雇用契約書をそのままシンガポールで使用することは危険
→ シンガポール雇用法の最低基準(年次有給休暇・病気休暇・解雇通知期間等)に合致しない場合、意図せず法令違反になるリスクがあります
✅ 現地法令に精通した弁護士・人事コンサルタントによるドラフトレビューを必ず実施してください

 

2-4. 解雇・雇用終了の手続き

 シンガポールでは、日本のような解雇権濫用法理は存在せず、原則として雇用契約で定められた通知期間(Notice Period)を守れば理由を明示せずに雇用を終了できます。ただし、近年は不当解雇の救済制度が整備されており、形式的に通知期間を守っていても実質的に不合理と判断されるリスクがあります。

 

不当解雇(Wrongful Dismissal)を申し立てられた場合、労働者はTADM(Tripartite Alliance for Dispute Management)や雇用紛争裁判所(Employment Claims Tribunal:ECT)に申立てを行うことが可能です。

 

また、賃金の支払いについては、賃金算定期間終了後7日以内に支払うことが義務付けられています。解雇の場合は解雇日から3営業日以内に最終賃金を支払う必要があります。

 

2-5. 就業規則(Employee Handbook)

シンガポールには就業規則の作成を義務付ける法令はありませんが、実務上は以下の理由から整備が強く推奨されます。

 

  • 懲戒・解雇手続きの明文化による紛争リスクの低減
  • ハラスメント防止方針の周知(POHA:Protection from Harassment Act対応)
  • 個人情報保護方針(PDPA対応)
  • 内部通報制度・コンプライアンス体制の整備

 

第3章:CPF(中央積立基金)の実務知識

3-1. CPFとは何か

 CPF(Central Provident Fund:中央積立基金)は、シンガポール国民と永住権保有者(PR)を対象とした強制貯蓄・社会保障制度です。雇用者と労働者の双方が月額給与に一定割合を乗じた保険料を拠出し、老後・医療・住宅取得等に活用します。

 

日本の年金制度が「世代間扶養」(現役世代が受給者を支える)であるのに対し、CPFは「積立制度」であり、加入者は原則として自分が積み立てた資金から給付を受けます。これにより、将来の年金財政リスクを個人ベースで管理する仕組みとなっています。

 

3-2. CPFの適用対象(外国人は対象外)

【重要】外国人(就労ビザ保有者)はCPF拠出義務なし
✅ CPF拠出義務あり:シンガポール国民、永住権保有者(PR)
❌ CPF拠出義務なし:Employment Pass(EP)保有者、S Pass保有者、Work Permit保有者(外国人労働者)
→ 日本から赴任する駐在員(EP保有者)は、原則としてCPFへの加入義務はありません
→ ただし、労働者を1人でも雇用する会社はCPF Board への雇用者登録が必要です

 

3-3. CPF拠出率(2025年現在)

 CPF保険料は、労働者の月額給与に一定の割合を乗じて算出し、雇用者と労働者がそれぞれ負担します。高齢者雇用を奨励する観点から、年齢が上がるほど拠出率が低下する仕組みとなっています。

 

年齢区分 雇用者拠出率 労働者拠出率 合計
55歳以下 17.0% 20.0% 37.0%
55歳超〜60歳以下 13.0% 16.0% 29.0%
60歳超〜65歳以下 9.0% 10.5% 19.5%
65歳超〜70歳以下 7.5% 8.0% 15.5%
70歳超 6.5% 6.0% 12.5%

 

※上記は2025年1月時点の参考値です。拠出率は定期的に見直されますので、最新情報はCPF Boardの公式サイト(cpf.gov.sg)でご確認ください。

 

3-4. CPF口座の種類

口座名 主な用途
Ordinary Account(OA) 住宅購入・投資・教育・保険
Special Account(SA) 老後資金(55歳以降の退職年金)
MediSave Account(MA) 医療費・医療保険
Retirement Account(RA) 55歳時に自動設定。老後の月次給付(CPF LIFE)の原資

 

第4章:就労ビザ制度の完全解説

4-1. 就労ビザの種類と選択基準

 シンガポールで外国人が就労するには、必ず有効な就労ビザ(Work Pass)の取得が必要です。ビザ種別は主として給与水準・学歴・職種によって区分されており、2023〜2025年にかけて申請要件が段階的に厳格化されています。

 

ビザ種別 対象者 最低月給目安(2025年) 特徴
Employment Pass(EP) 管理職・専門職・経営者 S$5,000〜(金融業はS$5,500〜) 最上位ビザ。学歴・経験の審査あり
S Pass 中級技術者 S$3,150〜(金融業はS$3,650〜) 企業ごとの外国人採用枠(クォータ)あり
Work Permit 非熟練・半熟練労働者 規定なし(最低賃金基準なし) 業種・国籍による制限あり。製造・建設等
Personalised EP(PEP) 高所得外国人 年収S$144,000〜 会社に縛られない個人ビザ。転職後も継続

 

4-2. Employment Pass(EP)申請の実務

EPの申請要件(2025年時点)

  • 最低月給:S$5,000以上(金融業はS$5,500以上)
  • 原則として大学卒業以上(または同等の職業資格・実務経験)
  • シンガポール企業(法人)による申請・スポンサーが必要
  • MOM認定の自己査定ツール(SAT)による事前チェックを強く推奨

 

EPコンパス(Complementarity Assessment Framework)制度への対応

 2023年9月より導入されたEPCOMPASS(EP Complementarity Assessment Framework)は、EP申請者を複数の評価軸で点数化し、一定スコアを満たすことを要件とする新制度です。評価軸は主に以下の通りです。

 

  • 給与水準(同一職種・経験年数の地元労働者との比較)
  • 学歴・資格の質
  • 雇用主企業の多様性(外国人比率の適正管理)
  • スキルの希少性・補完性(シンガポール人では代替困難なスキルか)

 

EPCOMPASSの導入により、従来は給与水準だけで判断されていたEP申請が、総合的な評価に基づいて審査されるようになりました。スコアが低いと申請が却下される可能性があるため、特に中小企業・スタートアップでの申請は専門家への相談が必須です。

 

4-3. S Pass申請の実務

 S Passは、主として中級技術者を対象としたビザです。EPに比べて給与要件は低いものの、企業ごとに外国人採用枠(クォータ)が設けられており、外国人雇用税(Levy)の支払いも義務付けられています。

 

  • 最低月給:S$3,150〜(金融業はS$3,650〜、2025年時点)
  • 学歴要件:高等専門学校相当(ディプロマ)以上
  • 企業ごとのクォータ:サービス業は従業員の最大10%、製造業等は最大15%
  • 外国人雇用税(Levy):月額S$450〜S$650(クォータ段階による)

 

4-4. 銀行口座開設の最新事情

 就労ビザ取得後、現地での給与受取や法人口座の開設が必要となりますが、近年シンガポールの銀行は口座開設審査を大幅に厳格化しています。特に以下の点に注意が必要です。

 

  • 法人口座開設:UOB・DBS・OCBCなど主要銀行は、設立後間もない法人(特に外国資本100%の法人)への審査が厳しくなっています
  • 必要書類:ACRA登録証明書・定款・取締役/株主の身分証明書・ビジネスプランの提出を求められることがあります
  • 代替手段:Airwallex・Aspire・Wiseなどのデジタルバンク・ネオバンクを活用することで口座開設を迅速化できます
  • 個人口座:EPビザ取得後は比較的スムーズに開設可能ですが、来店審査が必要な場合があります

 

第5章:労働組合・労働争議

5-1. シンガポールの労使関係の特徴

 シンガポールの労使関係は、世界的にも高い安定性を誇っています。1986年以来、ストライキは発生しておらず、これはシンガポール経済の競争力の基盤の一つとなっています。

 

その背景には、全国労働組合会議(NTUC:National Trades Union Congress)が政府・使用者との「三者協調(Tripartism)」の枠組みに基づき、経済発展と労働者保護を両立させる役割を果たしていることが挙げられます。NTUCは生活協同組合としての機能(スーパーマーケット・保険・旅行等の運営)も持ち、組合員の生活全般を支援しています。

 

5-2. 労働争議解決の手続き

労使紛争が発生した場合、以下の手順で解決が図られます。

 

  1. 労使間での自主的な解決を優先
  2. 解決できない場合、TADM(Tripartite Alliance for Dispute Management)による調停・斡旋
  3. それでも解決できない場合、雇用紛争裁判所(Employment Claims Tribunal:ECT)への申立て

 

第6章:駐在員管理と社会保険

6-1. 在籍出向と転籍出向の違い

日本からシンガポールへ従業員を派遣する際、「在籍出向」か「転籍出向」かによって、日本の社会保険の取扱いが大きく異なります。

 

保険種別 在籍出向(国内企業から一部/全部給与支払) 転籍出向(国内企業から給与なし)
健康保険 継続(海外療養費として請求可能) 継続不可(任意継続または国保加入が必要)
介護保険 海外適用除外。住民票除票で保険料不要 海外適用除外。保険料不要
厚生年金 継続(国内給与に応じた保険料額) 原則継続不可(国民年金任意加入可)
雇用保険 継続(帰国時のみ失業給付等を受給可能) 原則継続不可
労災保険 適用除外(海外派遣者特別加入制度あり) 特別加入制度も適用外

 

6-2. 海外療養費の請求

 在籍出向で健康保険の被保険者資格が継続している場合、海外で医療を受けた際に「海外療養費」として保険給付を受けることができます。ただし、以下の点に注意が必要です。

 

  • 医療費は一度全額自己負担し、後日保険組合に申請
  • 給付額は、日本国内で同一傷病を治療した場合の費用を基準に計算(実費が少ない場合は実費)
  • 申請書類:療養費支給申請書・療養内容証明書・領収明細書・領収書(原本)
  • 日本語以外の書類には、翻訳者情報(氏名・住所)を明記した翻訳文の添付が必要

 

6-3. 駐在員の給与設計

 シンガポールは個人所得税率が日本よりも低水準です(最高税率22%、日本は最高55%)。同額の給与をシンガポール方式で支給すると、手取り額が日本よりも大幅に高くなるため、給与設計において「税務的公平性(Tax Equalization)」の考え方を導入する企業が多くなっています。

 

税務的公平性とは、駐在員が派遣先国と本国のいずれの国でも、仮に本国にいたとした場合と同等の手取り額となるように会社が差額を調整する仕組みです。給与設計に際しては、日本・シンガポール双方の税制に精通した税理士・会計士との連携が不可欠です。

 

第7章:労働災害補償(WICA)

7-1. WICAの概要

 労働災害補償法(Work Injury Compensation Act:WICA)は、業務または業務に起因して労働者が負傷・疾病・死亡した場合の補償制度を定めています。2020年の改正により給与水準による適用制限は撤廃され、現在は原則としてすべての雇用契約に基づく労働者が対象となっています。

 

WICAの大きな特徴は「無過失補償」制度である点です。雇用者の過失の有無を問わず、法定の補償が行われます。

 

補償項目 内容
休業補償(入院要) 入院が必要な場合は最大60日間、給与全額を支給
休業補償(入院不要) 最大14日間、給与全額を支給。それ以降は最大1年・上限3万Sドルで給与の2/3
後遺障害 労働能力喪失程度に応じて補償。完全喪失の場合:上限21.8万Sドル・下限7.3万Sドル
死亡 補償テーブルに従い:上限17万Sドル・下限5.7万Sドル

 

第8章:スタートアップ向け留意点

8-1. 少人数体制での労務リスク管理

 シンガポールで事業を立ち上げるスタートアップは、人事部門が整備される前から雇用法上の義務を負います。以下の点を初期段階から整備することが重要です。

 

  • 雇用契約書の整備(Key Employment Termsの記載)
  • CPF登録と毎月の拠出(シンガポール人・PRを採用する場合)
  • 就業規則・ハラスメント防止方針の策定
  • EP/Sパスのクォータ管理(外国人スタッフが多い場合)

 

8-2. 撤退・清算時の労務手続き

 事業撤退や法人清算の際には、従業員に対する適切な処遇が必要です。清算手続きでの労務面の主要ポイントは以下の通りです。

 

  • 解雇通知期間の遵守(雇用契約または雇用法の定めに従う)
  • 最終賃金の支払い(解雇日から3営業日以内)
  • 年次有給休暇の未消化分の買い上げ
  • EPおよびSパスのキャンセル手続き(MOMへの申請)
  • CPF最終拠出の完了(シンガポール人・PR従業員分)
  • 雇用者登録の抹消(CPF Board)

 

また、整理解雇(Retrenchment)の場合、一定規模以上の人員削減を行う際にはMOMへの事前通知義務があります。早期退職金(Retrenchment Benefit)の支払いは法的義務ではありませんが、TAFEP(公正雇用促進トライパータイト同盟)のガイドラインでは支払いが推奨されています(目安:勤続年数1年あたり2週間〜1ヶ月分の給与相当額)。

 

実務チェックリスト:シンガポール進出前後の労務確認10項目

 

No. 確認項目 ステータス
1 雇用法に準拠した雇用契約書(英語)の準備・レビュー完了 □ 完了 / □ 未対応
2 就業規則・Employee Handbookの整備 □ 完了 / □ 未対応
3 CPF Board への雇用者登録完了 □ 完了 / □ 未対応
4 採用予定の外国人スタッフのEP/Sパス申請計画の確認(EPCOMPASS対応含む) □ 完了 / □ 未対応
5 S Passのクォータ計算・Levy支払計画の確認 □ 完了 / □ 未対応
6 駐在員の社会保険(在籍 vs 転籍)の取扱い決定 □ 完了 / □ 未対応
7 給与設計(Tax Equalizationの要否)の検討・決定 □ 完了 / □ 未対応
8 WICA(労働災害補償)保険の加入確認 □ 完了 / □ 未対応
9 NWC賃金ガイドラインおよびPWMの適用確認 □ 完了 / □ 未対応
10 ハラスメント防止・内部通報制度の整備(POHA・PDPA対応) □ 完了 / □ 未対応

 

よくある質問(FAQ)

 

Q. シンガポールには最低賃金はないのですか?
A. 日本や欧米のような一律の法定最低賃金制度はありません。ただし、特定産業(清掃・警備・小売・飲食サービス等)ではProgressive Wage Model(PWM)により最低賃金水準が定められており、2025年以降その適用範囲は拡大しています。また、全国賃金評議会(NWC)が毎年賃上げ推奨ガイドラインを発表しており、実務上はこれらを踏まえた給与設計が求められます。

 

Q. 日本人駐在員はCPFに加入する必要がありますか?
A. 就労ビザ(Employment Pass等)で働く外国人はCPFの加入義務がありません。CPFはシンガポール国民と永住権保有者(PR)のみが対象です。ただし、会社としてシンガポール人・PRを1名でも採用する場合は、CPF Boardへの雇用者登録が必要です。

 

Q. EPコンパス(EPCOMPASS)とは何ですか?日本人の申請に影響がありますか?
A. 2023年9月から導入された制度で、EP申請者を給与水準・学歴・雇用主の多様性・スキルの希少性などの観点で点数化し、一定スコアを超えることが求められます。給与が最低要件を満たしていても、スコアが不足すると申請が却下されるリスクがあります。日本人の申請においても影響があり、特に中小企業・スタートアップでの申請は事前に専門家(MOMのSATツールや弁護士)でのスコア確認が重要です。

 

Q. シンガポールで従業員を解雇するときのルールを教えてください
A. 雇用契約で定められた通知期間(Notice Period)を守れば、原則として理由の明示なく雇用を終了できます。ただし、不当解雇(Wrongful Dismissal)に該当しないよう注意が必要です。また、賃金は解雇日から3営業日以内に支払う義務があります。整理解雇(人員削減)の場合はMOMへの通知義務や、退職金(Retrenchment Benefit)の支払い推奨指針もあります。解雇前に現地の弁護士・人事コンサルタントに相談することを強く推奨します。

 

Q. シンガポールの銀行口座開設が難しいと聞きましたが、どうすればよいですか?
A. 近年、外国資本法人や設立直後の法人に対する銀行の審査は厳格化しています。DBS・UOB・OCBCなど主要銀行への申請には、詳細な事業計画書・取引先情報等の提出を求められることがあります。Airwallex・Aspire・Wiseなどのデジタルバンク・ネオバンクは審査が相対的に迅速で、スタートアップや進出初期の法人に多く活用されています。現地の設立・会計事務所を通じて銀行口座開設サポートを依頼することも有効です。

 

まとめ:シンガポール進出の成否は「労務設計」で決まる

 シンガポールは日本企業のアジア進出における最重要拠点の一つです。しかし、進出後の労務・人事管理の不備が原因で、撤退や多額のペナルティに直面する企業も少なくありません。

 

本記事で解説した通り、シンガポールの労務管理は以下の点が日本と大きく異なります。

 

  • 雇用法の適用範囲と管理職への適用(2019年改正以降)
  • CPFの拠出義務(外国人は対象外だが、会社登録は必要)
  • 就労ビザ制度の厳格化(EPCOMPASSの導入)
  • 解雇手続きの柔軟性と不当解雇リスクの並存
  • Progressive Wage Modelによる賃金底上げの義務化拡大

 

これらの制度は毎年見直しが行われており、2026年以降もさらなる変化が予想されます。シンガポール進出を検討されている企業は、現地の労務・法務専門家と連携しながら、適切な人事制度・労務管理体制を早期に構築することが事業成功への近道です。

 

▶ 今すぐ行動するために

 

4.  本記事の「実務チェックリスト10項目」を活用して、現状の労務体制を点検する

5.  EPCOMPASSのSATツールで採用予定の外国人スタッフの申請可能性を確認する

6.  現地の労務専門家・弁護士・会計士と早期に連携し、雇用契約書・就業規則を整備する

 

参考資料・情報源

  • Ministry of Manpower Singapore(MOM):mom.gov.sg
  • CPF Board:cpf.gov.sg
  • Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices(TAFEP):tal.sg
  • Economic Development Board(EDB):edb.gov.sg
  • 国税庁(給与所得控除額):nta.go.jp

 

 

無料会員登録をされてない方は、以下のボタンから必須項目を入力後、
メールに届くパスワードを入力するとブログを閲覧できます。

この記事に対するご質問・その他シンガポールに関する情報への
ご質問等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

※画像クリックでお問い合わせページへ移動します

【PR】海外最新ビジネス情報サイト「Wiki Investment」


※画像クリックでWiki Investmentページへ移動します

進出予定の国、進出している国の最新情報、本当に分かっていますか?

進出してビジネスを成功させるためには、その国の知識や実情を理解しておくことが
必須となってきます。

しかし、情報が溢れかえっている社会ではどれが本当に信頼できる情報なのか?
重要になる要素かと私は思います。

そんな「信頼できる情報」をまとめたサイトがあれば、どれだけ楽に情報収集ができるだろう…

その思いから作成したサイトがWiki Investmentです!!

弊社東京コンサルティンググループは海外20カ国超に展開しており、
その現地駐在員が最新情報を「Wiki Investment」にまとめています。

【Wiki Investmentで何ができる?

・現地駐在員が毎週ホットな情報を更新するNews update

・現地に滞在する方からご質問頂く、
 より実務に沿った内容が記載されているQ&A集

・当社が出版している海外実務本をデータベース化したTCG書籍

などの新機能も追加しました!

 

経営者・幹部層の方におススメしたい【全ての経営者へ贈るTCGブログ】

※画像クリックで「TCGブログ」ページへ移動します

会社経営や部下のマネジメントをしていると、様々なお悩みって出てきませんか?

どうしたら、会社は良くなっていくんだろう・・・
・部下が育ってくれるにはどうしたらいいんだろう・・・

そういったお悩みをもつ経営層の皆様におススメしているブログがございます。
コンサルティングファームとして、これまで多くの企業様と関わり、
課題を解決してきたコンサルタント達による

経営課題や悩みについて解説したブログを無料公開しております。

もっと会社を良くしたい!、マネジメントについて学びたい!

そうお考えの皆様におススメのコンテンツとなりますので、ぜひご覧ください!

・「全ての経営者へ贈るTCGブログ」はこちらから


株式会社東京コンサルティングファーム シンガポール拠点 飯島 淳


※)記載しました内容は、作成時点で得られる情報をもとに、最新の注意を払って作成しておりますが、その内容の正確性及び安全性を保障するものではありません。
該当情報に基づいて被ったいかなる損害についても情報提供者及び当社(株式会社東京コンサルティングファーム並びにTokyo Consulting Firm Co., Ltd.)は一切の責任を負うことはありませんのでご了承ください。

関連記事

運営会社HPはこちら

2019-10-23

東京コンサルティンググループ


Warning: Undefined variable $random2 in /home/netst/kuno-cpa.co.jp/public_html/singapore_blog/wp-content/themes/gorgeous_tcd013/widget/ad2.php on line 27

カテゴリー

ページ上部へ戻る

※一部有料コンテンツもございます。