法人税率17%と、低税率国に属するシンガポールは、タックスヘイブンとして世界中の企業の誘致を進めています。
そこでは、移転価格税制などに関しては、自国の企業に関して必ずしも厳しく取り締まる必要がない一方、マネーロンダリングについては厳しく監視を行う必要が生じています。
今回は、最近の法務事情も含め、シンガポールのマネーロンダリング対策について、その取り組みをお伝えします。
目次
そもそもマネーロンダリングって何だっけ?
まずは基本から確認です。
マネーロンダリング(Money laundering、資金洗浄)とは、企業や個人が不正に得た金額を、様々な経路で移動させることにより、その出元や所有者を特定できなくする行為です。
所有者が不明になれば、不正に得たものであっても責任追及は免れますし、会計上分類できない内容であれば、所得税の回避にも用いられる可能性があります。
不正に得た資金ということは、その財源は麻薬販売や人身売買、詐欺や脱税などの犯罪と関わっている可能性が高く、放置すれば犯罪者の取引をかくまうことになってしまい、秘匿者として銀行も犯罪者と見做されます。
なぜマネーロンダリングがシンガポールと関わるの?
シンガポールは、アジア地域、また世界の金融ハブとしてビジネスの中心になることにより、国家にヒト・モノ・カネが集まり、国民が豊かな生活を享受するようにする、という戦略的政策を展開しています。
そのため、金融ハブとなるための条件である安定したインフラ、洗練された金融機関を擁する強い通貨と、厳しい法体系を築いてきました。
しかし、世界中からお金が集められる場所であれば、その所有権を複雑に操作することで、マネーロンダリングを行うことが容易になりがちです。
2020年以降、テロリストの活動が深刻化する中で、そうした反政府組織に対して資金供与する個人や企業に対しても厳しい制裁を行うべきだという世論が強まっていますが、マネーロンダリングされてしまったお金では、真の資金供与者が誰かもわからず、テロリスト支援の元を断つことができないことになってしまいます。
放っておけば、シンガポールの中にはたくさんのマネーリンダリング資金があり、諸外国から調査を受け、犯罪者の情報を引き渡すよう言われ、無実の企業の情報も公にさらけ出すような作業が必要になりかねません。
安心してビジネスを行うことができる金融ハブとしての地位を維持するため、シンガポールがマネーロンダリング、テロリスト資金供与から無縁であることが求められていると言えます。
具体的にはどんな対策がある?
多くのマネーロンダリングは、大口の寄付をしたり、海外のビジネスの利益とした後配当として送金させたり、金などに換えて別の場所で換金したりするものですが、基本的には個人と法人が共に正確に所得を申請していれば、異常な資産の増加は直ぐに検知できます。
そこで、海外からの投資がシンガポールであった際にも、会社秘書役等がKYC(最新顧客情報の記録)やCDD(Customer Due Diligence、公的要人とのかかわりの監視)を実施する、リスクベース・アプローチが利用されています。
例えば、シンガポール子会社の設立の際には、その株主が誰かということが求められ、またその個人についてテロリストの活動する国家とのやり取りがないかどうかが確認されます。
特に、法人の銀行口座開設の段階では、上記のKYCは厳重に取り調べを受けます。また、監査を受ける段階でも、会社が従前に資料を提出していなかった場合には、CDDフォームを提出するよう言われることが一般的です。
最近また厳しくなった?
ACRAは最近、この動きに応じて会社法上も明確な指針を打ち出すことを決めました。
具体的には、2020年7月23日の通知で、シンガポールのすべての企業に対し、その登記されるべき実質的支配者(Registrable Controllers)を申告するよう求めるものです。企業は7月30日以降、ACRAのポータルサイトBizFileにログインし、自社の情報を入力することが求められます。
なお、この操作は自身もBizFileの会社登記情報に名前が記載されている、現地でCorpPassを持った役員(取締役または秘書役)でなければ許されず、多くの場合会社秘書役の手で実行されることになると見られています。
今後も、シンガポールでは徐々にマネーロンダリング対策が広がっていくものと考えられます。
それぞれの書類がどのような意図で作成されているか、考えながら対応していくことで、卒なく対応できるようにしていきたいものです。
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株式会社東京コンサルティングファーム シンガポール法人
近藤貴政
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