日本で導入が切望される働き方改革、志向するのはシンガポールも同じです。
国民一人一人の生産性を高め、所得を増進して内需を増大させることを目指すシンガポールでは、できる限り個人の拘束時間を減らし、自己啓発、技術向上に自由時間を充てられるよう、より積極的に働き方改革が叫ばれているとも言えます。
このために導入されているのがWork Life Grantという政府補助金です。
今回はこのWork Life Grantについて、その内容と条件をお伝えします。
目次
Work Life Grantって何?
まずは基本情報です。
MOMがTAFEPと共同で推進するFlexible Work Arrangements(FWAs、柔軟な働き方の導入)は、作業負担、場所、時間を柔軟に分配することで、メリハリのある働き方を実現し、個人個人が最大限能力を発揮しながら、日々の業務をこなしていくためにシンガポールにある企業に期待されている処遇です。
このFWAsに沿って柔軟な働き方を実現している企業に対し、インセンティブの形で導入されているのがWork Life Grantです。
ワークライフバランス(Work Life Balance)という言葉が日本でも使われますが、これをうまく実現させられる企業に補助金(Grant)を差し出すシンガポールの取り組み、と理解すると覚えやすいでしょう。
このWork Life Grantは大きく以下の二つのインセンティブに分かれます:
・FWA Incentive
・Job Sharing Incentive
以下にそれぞれ詳述します。
FWAができたらみんなもらえるわけでもない?
FWA Incentiveはどちらかというと従業員の側に審査基準がおかれるインセンティブです。
まず、会社は働き方改革として、何らかのFWAを設けなければなりません。
内容はパートタイム制度や朝夕に時間をずらせられる勤務体制かもしれませんし、在宅勤務を可能にする取り組みでも構いませんが、継続的に、会社就業規則(Employee Handbook)なとにかかれる形で運営されている必要があります。
次に、給付の対象となる従業員はシンガポール国籍/永住権保持者である必要があります。
この従業員は安定した雇用が12か月以上継続する契約になっていなければならず、以下のFWAの標準に沿った取り組みを会社が導入し、それを継続的に利用することにも従業員として合意していなければなりません(書面で合意することが必要です):
https://www.tal.sg/tafep/getting-started/progressive/tripartite-standards#fwa
金額には上限があり、従業員一人当たり、年間でS$2,000と定められています。
また、企業全体でも2年間で最大S$70,000という上限が設けられている点、注意が必要です。
シェアしたらもらえる?Job Sharing Incentive!
もう一つのWork Life GrantがJob Sharing Incentiveですが、こちらは主にPMET(Professionals, Managers, Executives, Technicians)と呼ばれる管理職/技術専門職の従業員を対象としており、FWAよりも対象が狭いと考えることができます。
金額の上限はやはり従業員あたりで計算されますが、従業員一人当たり、年間でS$3,500と高めです。
企業全体では2年間で最大S$35,000と、FWA Incentiveよりも低く上限が設けられています。
条件は、まずFWAが導入されており、対象の従業員がS$3,600以上の月給を得て、少なくとも12か月以上会社に在籍する契約で働いていなければなりません。
ポイントは、PMETの仕事がその他の従業員にシェアされ、その分空いた時間を自己研鑽に充てつつも同じ給与を受け取り、一方仕事を引き受けた従業員はその経験からキャリアを伸ばして自分のPMETへの道を上っていく、という、働き方改革の図式に乗ることです。
会社が生産性を向上し、規模を拡大するために最も重要な人材育成を地で行くような図式ですが、これを政府機関として援助し、給与負担を軽くしていこうという、マネジメントの視座に立った支援だと言えます。
申請方法ははっきりしてない?
働き方改革を行う構想自体は理想的なWork Life Grantですが、申請方法は電話とメールでの問い合わせのみ、結果がどうなるかは不明という、比較的わかりにくい形になっています。
連絡先もなぜか3つ存在し、それぞれSNEF(6290 7694、orkpro@snef.sg)、NTUC’s e2i(6474 0606、followup@e2i.com.sg)、SMF(6826 3100、enquiry.ccl@smfederation.org.sg)と呼ばれています。
それぞれの当局に掛け合って、自社がきちんと働き方改革となる諸制度を導入し、これを利用しているシンガポール国籍/永住権保持者の従業員がいることを示したうえで、Work Life Grantを支給するよう訴えることになります。
まさにシンガポール人でマネージャーをしている従業員に声掛けし、趣旨を説明したうえで条件を調べ、申請させてみるといいでしょう。
COVID-19で加速している?
実は、シンガポールでコロナウイルスへの対策にサーキットブレーカーが導入されてから、Work Life Grantの申請は急増していると言われています。
働き方改革を志向していなかったところでも、オフィスへの出勤が許されず、必然的に在宅勤務やフレックスタイムの対応が増えた現状下で、Enhanced Work Life Grantと称して、オフィス勤務を避けて感染拡大の防止に心がけた企業向けの補助を差し出しています。
申請は既に受け付けられていますが、条件として、サーキットブレーカー期間終了後(=6月2日以降)にも最低1か月の期間、オフィス勤務することが可能な状況であっても在宅勤務させるという、FWAの趣旨に沿った選択をした企業にのみ、承認が下りることになっている点、注意が必要です。
結局、長期雇用がWin-Winのカギ
以上、Work Life Grantの条件に見られるように、シンガポール政府が重視しているのは、多くの人材、特にPMETと呼ばれる高度人材が企業を転々とすることなく、管理職/技術専門職の主幹人材として定着することだと見ることができます。
これは、シンガポールでは高度な人材が家庭の事情や体調、将来の理想のためにキャリアを中断することが続いているという事実が背景になっています。
働き方改革を実践する中で、従業員の能力を最大限引き出しつつ柔軟な雇用を実現し、結果的に「いい会社」として継続的な雇用を実現できれば、労使ともにWin-Winの関係になるのは間違いありません。
ぜひ、本当の働き方改革を実現していきたいものです。
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