組織再編制に関する判例

労務

お世話になっております。東京コンサルティングファームの藤井でございます。

本日は、労働法に関する判例のうち、組織再編に関する判例についてご紹介いたします。

L氏は、カタール系報道機関で2年間の有期雇用契約のもと働いていた。有期雇用契約は、2010年3月5日から2012年3月4日までのものだった。2010年3月、カタール本社の代表が、「ニュー・フロンティア計画」を発表した。これは今まで国外の3拠点に分散していた役割をドーハに集中させるという計画であり、それにともない、クアラルンプール拠点の従業員全員を対象とした組織再編成が行われることを通達した。この再編成にあたり、L氏雇用主はクアラルンプールではなくカタールのドーハに移されることになった。カタール本社からL氏に、ドーハでの仕事のオファーが出されたがL氏はこれを断った。そのため会社がL氏に、2010年12月31日を持って、解雇補償金を支払うと同時に、解雇することを通達したところ、その金額が足りないとして、労働裁判所に訴えた。

 

<従業員の主張>

当初の契約期間は2012年3月4日までの2年間だった。この解雇は早すぎるため、会社はL氏に、残りの14ヶ月と4日分の給与179,824.62RMを、補償として支払うべきである。会社は、98,138.39RM(給与の約8か月分)を付与すると言っているが、それはこの14ヶ月4日分の給与を満たしていないため、会社都合による本契約の打ち切りに対して、雇用契約で定めた残りの期間分は満額で支払うべきである。

 

<会社の主張>

カタール本社の代表が社員全員に面談を行っており、L氏も2010年5月20日に面談を行っている。そこで、L氏の仕事が、クアラルンプールではなくなることを説明しており、再編成の対象となることを話している。そのため、代わりに本社からドーハでの仕事のオファーが来ることも話しており、それを受け入れられない場合には、同年12月31日をもって解雇されることやその際の補償金はいくらになるかという説明はしていた。実際に同年9月22日、本社からメールにて、ドーハでの仕事のオファーを出したが、約1ヵ月後にL氏はこのオファーを断ったため、解雇の通知を出した。従業員は補償金の額を把握した上でドーハでのオファーレターを断っているため、会社側は、L氏が主張する額を支払う責任はない。

 

<裁判所の判決>

従業員の訴えを棄却し、補償金は当初会社側から呈示された額のままとする。

その理由として、以下の状況から、L氏に対して不当な扱いはしていなかったと判断できるためである。

・従業員全員への面談や補償金を説明し、透明性のある通知をしていた

・L氏もその通知の内容を把握していたことがメールから判断できる

・他の従業員も、ドーハでのオファーに応じられない場合は同様の条件で解雇されている

・スキルや業績を認めているからこそ、ドーハでのオファーが出されているということ

・本社の方針で、L氏の役職をクアラルンプール拠点にとどめておくことはできない

・  従業員が、補償金の額や仕事の内容を理解した上で、オファーレターを断っている。

 

<判決のポイント>

本件で重要視されたのは、この従業員が十分に再編成の詳細について知らされていたかどうかということでした。解雇通知を出す前に、替わりのオファーを出しており、そのオファーを断った場合どのような対応となるのか、補償金はいくらになるのかは事前に、各従業員に説明されており、それを承知した上でオファーを断ったため、従業員の主張は受け入れられませんでした。

 会社としては、再編成の背景・今後の従業員に対する対応・従業員が受けられる補償金などの詳細を、従業員にしっかりと通知したということを証明し、さらに、従業員もその内容を理解したということを、メールや書面で証明することができれば、不当解雇とみなされる可能性やリスクは下がるでしょう。

その他の人員削減や組織再編成に関する裁判において裁判所が重要視するのは、その解雇は正当な理由の下で、行われたのか、人員削減は本当に行わなければならないのかといった点です。解雇した人の役職で再度採用活動を行っていたり、待遇がその他の解雇された従業員と差があったりといった場合(例えば、同じ計算式を使用しているにもかかわらず長く働いてくれた人に功労金のような形のプラスアルファで支払うなど)には、不当解雇と見なされる恐れがありますので、ご注意ください。

 

 

 

 

Tokyo Consulting Firm Sdn. Bhd.

Managing Director

藤井 大輔 (ふじい だいすけ)

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