判例 10

皆様こんにちは。Tokyo Consulting Firm Sdn. Bhd.の佐藤です。

今回は正当事由について争われた判例を紹介いたします。

<背景>

1991年に行われた裁判です。

マレーシアにあるA社は、B氏を1988年10月1日に採用いたしました。正式な採用は、1989年1月1日からとなっており、10月1日〜12月31日は試験期間として働いていました。当時の月給は、550RMであり、正式に採用された後の給与は、570RMとなる予定でした。A社は、1988年11月23日に正式な社員として、1989年1月1日から迎え入れる通知書を発行し、正社員としてB氏を迎え入れました。しかし、正式な社員として働き始めた9日後、1989年1月10日、A社から勤務態度に問題があるとして、解雇通知を渡され、解雇となりました。B氏はその後、理由と根拠が不十分として労働裁判所に訴えを起こし、裁判が始まることとなりました。

<B氏の主張>

会社が理由としてあげた、勤務態度や業績が良くないという根拠を明確に示してほしい。現時点で何が駄目であったのかまったく判断ができず、不当解雇に相当すると考えている。

<A社の主張>

正社員として迎え入れ、給与も20RM昇級をした。しかし、勤務態度は、試験期間中と同じであり、昇級した分の働きが一向に見えない。よって、会社としては、業務能力が満たしていないと判断し、解雇せざるをえなかった。

<裁判所の見解>

論点は、解雇理由である、勤務態度や業務パフォーマンスが会社の求める水準に達していないということであり、それが双方の間で明確になっていないということです。裁判所は、この点を踏まえ、以下のような見解を示します。

まず、解雇に該当すると言われる勤務態度や業務パフォーマンスが会社の基準に満たしていないという根拠がA社から提示されていない。また、B氏の勤務態度に問題があるという第三者側からの証言などもない。これら二つ事実から判断し、本ケースでは、A社の不当解雇という判例とする。

<解説>

本案件は、解雇するにあたり、何を持って正当な理由とするのかという部分が大きな論点となりました。A社側からは、何を持ってという具体的な内容がなかったため、労働裁判所に正当な解雇という認識を持たせることができませんでした。そうすると、会社を運営する立場である人は何を持って正当な理由とするのかという部分が非常に気になるところでございます。

労働裁判所が出している指針としては、下記のような手順を踏み、正当な解雇事由を得られると判断することができるとされています。

  1. 同じ内容の警告書を発行している
  2. 改善する機会を与えている

この1.2.を適切に踏まえ、それでも改善がない場合は、正当な理由を持って解雇できます。ただし、ここで注意が必要なのは、警告文をいつ送ったか、どんな内容(できれば具体的に)に対して送ったのかを明記し、それに対してしっかりと通知をしたという証拠を得るために、該当従業員と人事部のトップないしは、会社代表者の署名を取り付けておき、原本両方を保管することが望ましいです。また、改善機会を与える際にも、いつどこでどのような機会を与えたのかという部分もしっかりと証拠として残しておく必要があります。そこまでして、初めて正当な手続きを踏んでいるという証拠として機能することになるからです。また、気をつけて欲しいのは、警告文を与える回数や改善機会を与える回数も同じ業務に対して、最低二回は欲しいところです。ただ、この回数というのは非常に厄介でありますので、詳細(どう言った警告文にするか、回数はどの程度にするか等)は、必ず弁護士と相談の上、ケースに応じて対処することが望ましいと言えます。

それでは今週も頑張っていきましょう。

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