国籍(Citizenship)と異なり、国民に近い様々な優遇を受けながらも、外国人として生きることを許されるシンガポール永住権(Permanent Residence:PR)ですが、2020年3月1日から、その申請に関する規則が少し変更されることになりました。
今回は、PRの申請の条件を確認しつつ、変更の内容をお伝えします。
そもそもPRにはどんな意味がある?
永住権と聞けば、その国に永遠に滞在することが許されることは理解できますが、そもそも外国人が多く暮らすシンガポールの国で生活するうえで、PRにはどのような意味があるのでしょうか。
まず、外国人は、シンガポールで活動する企業に雇用されない限り、原則30日以上の滞在は許されません。
これは、会社を退職してしまったらシンガポールには長期滞在できないことを意味しています。
一方、PR保持者には無職でもシンガポール居住が許されます。
また、逆に複数の会社で働くこともできるようになります。
更に、家族(配偶者および20歳以下の子女に限る)も同時に永住権を取得できるだけでなく、両親にも長期訪問ビザ(Long-Term Visit Pass)を申請して発行すれば、シンガポールに長期滞在させることができるようになります。
また、従業員として働く場合など、給与を受け取る際には、将来的に大きな助けとなるCPFという強制積立基金に加入することになり、会社からも基本給以上の収入を得ることになります。
経済的には、銀行からのローンが容易になったり、不動産の購入で大幅に印紙税などが節約できるようになる、政府機関の管理するHDBの住居を購入できるようになるなど、非常に大きな便益があります。
PR申請の条件は?
シンガポール国内の外国人を管理する政府当局、日本の入国管理局に相当するのが、ICA(Immigration and Checkpoints Authority)です。
このICAのホームページに、PR申請やシンガポール国籍(Singapore Citizenship)の情報も書かれています。
PRの申請をするための条件は以下のいずれかとされています:
- 配偶者がシンガポール国籍/永住権を保持していること
- 親がシンガポール国籍/永住権を保持していること
- シンガポール国籍保持者の年配の両親であること
- EPまたはS-Passを取得しシンガポールで働いていること
- 学生としてシンガポールの学校に在学していること
- シンガポールにおいて投資を行っていること
該当する外国人は、ICAの電子申請サービス(https://icaeservices.ica.gov.sg/esvclandingpage/epr)を通してPR申請を行うことができます。
投資家のPR申請方法は?
実は、上記のICAの電子申請サービスには、シンガポールで投資を行う外国人がPRを申請する際のメニューが含まれていません。
これは、外国人投資家のPR申請を管理しているのがEDB(Economic Development Board、経済開発庁)という政府機関であることに起因しています。
EDBは2004年から、Global Investor Programme(GIP)というスキームを打ち出し、シンガポールへの投資を推進しています。
これは、シンガポールでの投資金額が一定に達している外国人に、スムーズにPR資格を発行するというものです。
いくら投資すればいいの?
基本的な条件は、個人としてS$2,500,000以上の資金を、新規企業や既存企業の新規事業、またはGIPファンドに投資することです。
そのうえで、身分を証明する必要があります。
現在、GIPスキームでは既存のビジネスオーナーや起業家について、特定分野のシンガポール企業を運営しており、そのシンガポールの会社の年商がS$50,000,000以上である(直近3年間の平均値で見る)ことが条件とされています。
さらに非公開会社の保有に関しては、当該株式保有率が30%以上でなければなりません。
しかし、今回この金額が引き上げられることが決まっています。
2020年3月1日からは、運営する会社の年商はS$200,000,000以上でなければなりません。
直近3年間の平均でみるため、GIPスキームによりPR申請の条件は、一気に厳しくなったと言えるでしょう。
新たな余地も?
変更のポイントはファミリーオフィス!
今回の変更では、これまでの上記既存のビジネスオーナーに加えて、次世代ビジネスオーナー、急成長企業の創立者、ファミリーオフィスの代表者に、GIPスキームが適用されることになりました。
具体的にはそれぞれ以下の通りです:
- ・次世代ビジネスオーナーとは、S$500,000,000の年商を続ける特定分野の企業に関して、30%以上、または最大の株主であり、かつ首脳として経営の一端を担っていること
- ・急成長企業の創立者とは、時価S$500,000,000以上の特定分野のシンガポール企業につき、その企業が有名ファンドに投資を受けており、自身がその創立者であり、主要株主であること
- ファミリーオフィスの代表者とは、5年以上の投資家の経歴を持ち、S$200,000,000以上の投資可能な資産を保有していること
特に、家族の資産運用を計画的に進めるファミリーオフィスへの投資によってPR申請の資格が得られるようになった点は、シンガポールが海外の富裕層からより活発な投資の需要を感じ取り、その優遇を測った結果と言えるでしょう。
投資に関するお問い合わせ、労務や税務に関するお問い合わせも、お待ちしております。
以下のリンクから、お気軽にご相談ください。
株式会社東京コンサルティングファーム シンガポール法人
近藤貴政
kondo.takamasa@tokyoconsultinggroup.com
+65-6632-3589
※)記載しました内容は、作成時点で得られる情報をもとに、最新の注意を払って作成しておりますが、その内容の正確性及び安全性を保障するものではありません。該当情報に基づいて被ったいかなる損害についても、情報提供者及び当社(株式会社東京コンサルティングファーム並びにTokyo Consulting Firm Co., Pte. Ltd.)は一切の責任を負いません。ご了承ください。