シンガポールの常識~賃貸借契約でのトラブルに注意~

労務

TCGのノウハウツールWiki Investmentの中から、シンガポールにおける労務のポイントを公開します。

海外ビジネスでは、オフィス契約や駐在員滞在先のために、賃貸借契約を締結することになります。

概括すれば、日本と比べて圧倒的に家主側の権利が強いという特徴のあるシンガポールの賃貸借契約は、それを知らずに契約する日本企業との間で多くのトラブルを生じさせています。

今回は、シンガポールの法的特徴を抑えつつ、トラブル回避のための賃貸借契約の知識をお伝えします。

シンガポールの法律的特徴

シンガポールは英国の植民地であった歴史から、英国コモンローを受け継いでおり、その本質は契約主義にあると言えます。

つまり、契約主体である当事者が、明示または暗示された契約内容に合意し、署名をしてそれを残し他ところから、契約上の義務と権利が生じるという考え方が基盤となっています。

法律よりは契約書自体に重きが置かれ、その内容も当事者の交渉によりかなりの程度変更が可能という点が、まず日本と大きく異なると言えます。

従って、最初のポイントとして、以下に見るような契約内容から、自分に有利に賃貸借契約を締結することができる余地があれば、それを主張して勝ち取るという点が重要になります。

契約期間の束縛

シンガポールの賃貸借契約が日本と異なる点で、最も特筆すべき点は、そこにかかれた契約期間は、特別な事情がない限り必ず満了されなければならないという点です。

一般的に、契約期間は2年~3年で設定されることが多いのですが、その期間中は原則契約解除が許されないということになります。

ビジネスを移転する、閉鎖する、駐在を終えるなどの理由で、どうしても早期解約(Early Termination)したい場合であっても、結局借契約期間満了日まで、すべての賃料を支払う必要があり、これを回避するためには下記に上げるような条件をクリアすることが必要になります。

早期解約には次の借主が必要

特別に早期解約の条件(3か月~6か月分の賃料支払いをするなど)を定めている場合を除いて、原則としてすべての賃貸借契約には期間満了までの賃料支払いが義務付けられますが、次の借主が見つかる場合には、期間満了までの賃料支払いを免除される形で早期解約が受け入れられる場合が多くあります。

ただし、次の借主が家主側によって探し出される場合には、その賃料が現在よりも安く設定される場合があり、その場合、現在の賃料と新たな賃料との差額を、契約期間満了までの期間分、まとめて請求されることになります。

例えば、自社の月額賃料がS$10,000だとして、あと半年契約期間が残っているところで早期解約を申し出て、家主側が次の借主を月額S$9,000の賃料で見つけてきた場合、差額のS$1,000×半年分を自社で負担することになります。

なお、自社で次の借主を見つけてきても、その借主を受け入れるかどうかは原則家主側の任意とされており、受け入れられない例も多く見られます。

デポジットの常識

シンガポールの賃貸借契約では、概ね個人の住居であれば2か月分、法人のオフィスであれば3か月分の、セキュリティー・デポジット(Security Deposit:保証預入金)を支払うことになります。

これは、借主の過失/故意で家主に対して損害が与えられたときの回復に用いられる他、万が一個人が失踪したり、法人が倒産するような事があっても、家主側が次の借主を見つけるまでの間、損失を補填するための保証金として徴収されるものですが、早期解約の場合には原則返金されないことにも注意が必要です。

また、シンガポールでは多くの個人宅賃貸物件で家具付きとなっており、エアコンやキッチン設備だけでなく、机や椅子、カーテンや洗濯機、ベッドやソファー、場合によってはテレビまで、一式備え付けになっている場合が多くあります。

これらは特にコンドミニアムで部屋を借りる場合、当たり前のようについてくる設備ですが、殆どの場合、カーテンとエアコン、フロアリングについて、清掃、洗濯をする義務があり、一方寝具(枕、掛け布団、シーツ、カバーの類、マットレス以外全部)は全て撤去する必要があります。

こうした退去時の処理(費用は通常数百ドルに上ります)を行わないと、期間満了で退室する時にもデポジットから引かれることになる点、注意が必要です。

グッド・フェイスとは

もう一つのデポジットが、グッド・フェイス・デポジット(Good Faith Deposit)と呼ばれるもので、賃貸借契約締結前に、月額賃料の1か月分~2か月分を支払います。

これは、簡単に言えば手付金として賃料の前払を行う仕組みと言えますが、支払った後に契約を締結しないことにしても、返却されない性質のものであり、家主が契約締結まで他の借主を探さず、急に契約不締結となった場合の機会損失を補償する目的で存在しています。

特に、オフィスの賃貸借契約には多く登場しますが、日本で言う礼金とは少し異なり、初月の賃料として利用される点に留意しましょう。

ディプロマティック・クローズとは

もう一つ、シンガポールの賃貸借契約に特有の条件があります。

ディプロマティック・クローズ(Diplomatic Clause)と呼ばれ、多くの個人宅、特にコンドミニアムの賃貸借契約に付属の条件ですが、要するに外国人駐在員の場合、もし会社都合でシンガポール国外に出ることが決まってしまった場合には、早期解約を許可する、というものです。

1年以上継続して居住していること、シンガポール法人がレターを発行できること、退去日の2か月以上前に申し出ること、などの条件が付けられるのが一般的ですが、次の借主が見つかるか否かによらず、一方的に早期解約を実現できる点、多少借主に有利な条件ではあります。

ただし、2か月以上も前に帰任が決まっていて、その日付まで正確に決められるケースは多くないため、実際には退去日時がずらせない等、トラブルも発生しています。

総じて、事前に契約条件をしっかりと読み込むことが必要と言えるでしょう。

以上、シンガポールの賃貸借契約事情をお伝えします。

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