地域統括拠点として、ASEAN各国からインドまでを管理する子会社として選ばれることの多いシンガポールですが、その運営には少なからず資金が必要です。
特に、統括拠点の役割として、シンガポール拠点が資金調達自体を受け持つ場合には、資産運用の選択肢も広い分、慎重に資金調達の方法を考えることになります。
今回は、一般的にシンガポール拠点に資金を投入する方法と、その良し悪しとして、注意点をお伝えします。
基本は増資
親会社に潤沢な資金がある場合、最も一般的な資金調達の方法は増資です。
シンガポールの会社法に従って増資を行う場合、一般的な手続きは以下のように行われます:
1.株主(=親会社)から送金を行う
2.シンガポール法人(=子会社)で着金を確認し、資料として準備する(通常、数日待てば銀行側から紙面またはメールで通知があります)
3.会社秘書役に資料を送付し、取締役会決議書(取締役が新株発行の権利を有するため)、および臨時株主総会議事録(株主の承認が必要であるため)を作成してもらう
4.上記の決議書と議事録に取締役および株主代表から署名をもらい、会社秘書役に提出する
5.BizFile等を見て、会社秘書役の登記情報更新を確認する
シンガポール以外の国と比較して特徴的なのは、最初になんの手続きもなくお金を振り込んでしまう点でしょう。
シンガポールには払込資本金の概念しかなく、授権資本金の変更や中央銀行からの認可など、特に必要とされていないところに利便性があります。
もちろん、資本取引に税金は発生しません。
増資の場合のデメリットは、それが資本の手続きである以上、簡単にはこれを引き抜いて減資することができない点にあります。
他国に比べれば手続きはシンプルですが、それでも一定の書類作成と時間がかかる点には注意が必要です。
増資でなければ親子ローン
次に考えられる資金調達方法が、親子ローンです。
親子でなくとも、グループ間、関係会社で融資を行えば扱いはほぼ変わりませんが、ポイントとしてはローン契約書を作成する必要があるという点があげられます。
シンガポールでは概ねどのような契約書でも言語の縛りはなく、当事者が相互に理解する言語であれば有効と見做されますが、グループ間であれば内容はそれほど凝ったものにする必要もなく、またシンガポールでは監査の際、関係資料を英語に翻訳するよう要求されることがあるため、できれば英語で用意したほうがいいでしょう。
もう一つ、親子ローンの際に気を付けるべきなのが、ローンの形式をとる以上発生する利息の問題です。
利息は当事者の力関係などにもより、契約で自由に定められる裁量の大きい部分ですが、だからと言ってゼロにするわけにもいかず、少なくとも年率2.5%近くに設定しておく必要があります。
そうすると、シンガポール法人からは貸主の外国法人へ利息の支払いが行われることになり、これには源泉徴収税(Withholding Tax)が課せられます。租税条約を踏まえても、シンガポール側で10%、貸主側で営業外収益として課税されることになります。
更に、源泉徴収税の申告も、忘れれば罰金が科せられる制度であるため、手続きとして負担が生じます。
ローン契約の内容に沿ってさえいれば、親子間、グループ間で好きに融資ができる分、税務面、手続き面ではデメリットもあると理解しておきましょう。
地元の銀行からもローンは可能
親子間、グループ間でのローンに源泉徴収税がかかるなら、地場の銀行に融資を依頼すればいいのではないか、というのは自然な考え方です。
もちろん、シンガポール国内の銀行から融資を受けることは可能ですが、通常、子会社として設立したシンガポール法人には実績や資本金の面であまり信用がないことがほとんどです。
そのため、融資を受けるためには親会社が返済を約束する保証状Letter of Guaranteeを発行したうえで、十分に条件を吟味してローン契約を締結しなければなりません。
銀行が国内にあれば、ローンに対する利息の支払いは国内のみとなりますが、逆に上記Letter of Guaranteeに関わる保証料Guarantee Feeをシンガポール法人から親会社に払わなければならなくなります。
この保証料はまた源泉徴収税の対象となるため、結局親子ローンの場合と同じような手続きをすることになります。
外部からの融資である以上、親会社や他のグループ会社を財政的に圧迫することは避けられますが、銀行に利息を払い、さらに保証料を親会社に払い戻して源泉徴収税も申告・納税する必要があるということで、手続き上、また金額的なロスから言えば、最も負担の大きい資金調達となるでしょう。
結局、どれがいいの?
以上、シンガポール子会社における増資、親子ローン、国内銀行融資等のメリット・デメリットを見てきましたが、結論から言えば、多くの場合、増資が一番賢明な資金調達補法であると言えます。
シンガポールは撤退や減資もまずまず容易であり、手続きや課税でロスをするくらいなら、まとまったお金を入れておく方が得策です。
また、他国であれば親子ローンは利益還流のやり方の一つと言えますが、シンガポールでは配当に対する課税がないため、例えばシンガポール子会社からの日本親会社への配当であれば、日本側での課税5%しかロスすることはなく、これ以上の利益還流方法はありません。
資産運用の選択肢も多く、再投資も税務上のリスクは少ないため、地域統括会社として、ある程度の資金を投入することは、十分検討の余地があるでしょう。
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