先日、2020年2月18日に、2020年度シンガポール予算案が発表されました。
昨今のコロナウイルス(Covid-19)の経済的影響が深刻化する中、国民の雇用の安定を作り出すため、予算の一部は企業の支援に充てられていますが、シンガポールの将来のために国の予算を使う姿勢は変わりません。
今回は、シンガポールがどのような予算案を打ち出しているか見ていきながら、どのような国を目指しているか、全体像を解説していきます。
目次
成長率が重要指標!
シンガポールは経済成長の著しいASEAN地域の中心に位置しており、周辺諸国は年間4~6%の成長を記録しています。
シンガポール自体も成長率を3%以上に保つよう目標が定められていますが、2019年は米中対立の影響を受け0.7%に鈍化しました。
この成長率を引き上げ、国民の収入と消費を引き上げることが予算案の主な方針となっています。
グローバル化の成長戦略は維持
気になる成長率を確保するため、シンガポールが採ってきた戦略は「世界の企業のグローバル化を促進し、国際的ビジネスハブとなり、ヒト・モノ・カネが集まる場所としてのインフラを整える」という方針に沿って予算が割かれてきました。
基本的な方針は変わらず、近年はコンプライアンスに対する国際的要求が強まったり、Covid-19がパンデミックとして猛威を振るっている中でも、できる限りビジネスの流れを止めないよう柔軟な対応が採られてきました。
今回の予算でも、法人所得税にS$15,000まで25%減額するCorporate Tax Rebateを設ける、リノベーション費用を最大S$300,000まで所得控除できるようにするなど、ビジネスしやすい環境を整えています。
また、国際化のための二重所得控除(Double Tax Deduction for internationalization:DTDi)という施策で、国際化に用いられた費用を課税所得から200%控除する仕組みに予算を使うことになっています。
国民の雇用を重視
更に、上記グローバル化の方針に歯止めをかけるのが、外国人労働者に対する国民の感情です。
元来、グローバルビジネスハブとして、優秀な人材を集めることに力を注いできたシンガポールは、全体で550万人いる人口の中、永住権を取得して滞在する外国人(約9%)を含め、約40%が外国人と言われています。
特に、底辺の肉体作業や家庭内労働(メイド・家事労働)を除くと、シンガポール人の多くは会社の重役ではなく、どちらかというと中間以下の職位に限定され、トップには外国人が据えられる傾向が見られました。
これにより「シンガポールの仕事が外国人に占められている」という意識が強まり、国民が反発するようになってきているのです。
雇用と昇給のための予算
具体的な施策としては、雇用安定のため、月額基本給S$3,600以下のローカル社員を採用している限り、その基本給の8%が還元されるというJob Support Package、(S$5,000まで)、昇給する金額の10%が還元されるEnhanced Wage Credit Schemeなど、国家予算を使ってシンガポール人の従業員を優遇することで、外国人労働者よりも積極的に活用される環境を作り出そうとしています。
また、昇給はやみくもになされるものではなく、生産性の向上に沿った形で行われるべきであると考えられていることから、シンガポール人が研修に参加する際に予算から補助金を支給するなどして、個々人の生産性が高められるような仕組みづくりが進められています。
外国人の就労許可には厳格ルール!
予算の割り当てとは直接の関係はありませんが、外国人の就労許可、特にS-Passの発行可能割合(シンガポール人従業員の数に対する割合)が少しずつ減らされつつあります。
また、Covid-19の対応についても、入国する外国人が外出禁止令の対象に当たる場合にはMOMの許可を取らなければならないところ、これを無視した場合には即就労許可を没収、24時間以内の強制帰国を課すなど、厳しい処罰が実行されています。
以上、グローバル化を促進しつつも、予算で国民の雇用を安定化させ、同時に外国人の採用を真に重要な人材に限定することで、生産性の高い国民を中心としたグローバルなビジネスハブとして、経済成長を実現していく、という、シンガポールの方針が明確になった予算案といえます。
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株式会社東京コンサルティングファーム シンガポール法人
近藤貴政
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